書くこと、賭けること

どうもはじめまして。スロ小説家のブログです。

すべての書かれたもののうちで私が愛するのは、自分の血で書かれたものだけだ。
血で書け。そうすればきみは、血が精神であることを経験するだろう。

フリードリヒ・ニーチェ 永井均訳
「ツァラトゥストラはこう語った」
読むことと書くこと、より

コクッチマスターズ

【ためし読み5】スロッターとスロッターはファミリーレストランでスロットを語る。「トン、トン、トン」より


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 2015年1月2日 金曜日

 沖ドキのボーナスを消化中のことだった。いつも帽子をかぶっているプロ風の男に「ちょっといいですか?」と話しかけられた。
「あの、相談があるんですけど、今日は何時まで打ってますか?」
「次の32ゲームでやめるかな」
「あの、飯おごるんで、話、聞いてもらえませんか?」
「……いいけど」
 換金した後で、帽子プロの運転するbBで、国道沿いのファミレスに向かった。
「何食いますか?」と彼は言った。
「どうしよう。ええと、和風ハンバーグとライスセットにしようかな」
「ドリンクバーもつけますよね?」
「ああ、お願いします」
「あ、自分、取りにいきますよ。何にしますか?」
「コーラを」
「はい」

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「あの、何て呼べばいいですか?」
「山村です」と僕は言った。
「あ、おれは、園田って言うんですけど、何か、照れくさいっすね」
「まあスロッター同士で自己紹介するってあんまりないからね」
「あの、山村さんはこの世界にどれくらいいますか?」
「十何年? けっこう経つね」
「先輩の目から見て、後、この世界にどれくらいいられると思いますか? 次の規制の先も、食っていけると思いますか?」
「園田くんは何でスロットを打ってるの?」
「最初は好きから入ったんすよね。エウレカとか、新鬼武者の時代です。大学行ってたんですけど、学ローン借りるくらいはまっちゃって」
「専業になったきっかけは?」
「ブログっすね」
「ブログ?」
「ハイエナで稼ぐみたいなブログがあって、そのブログの影響でスロットで稼ぐっていう基盤ができて、設定狙いに行き着いて、ホールを開拓する楽しみを覚えて、今にいたるって感じです」
「へえ。そういう入り口もあるんだ」
「お待たせしました」と言って店員がやってきた。「和風ハンバーグとご飯セットのお客様は?」
「あ、はい」僕は言った。
「失礼します。こちらはBLTサンドになります。以上でご注文の品はおそろいでしょうか?」
「はい」園田くんがうなずいた。
「ごゆっくりどうぞ」中年の男性店員が頭を下げて、去っていった。
「山村さんは、スロッターがスロットをやめて他の職業につくことってどう思いますか?」園田くんはBLTサンドを手に取りながらそう言った。「おれに勝ち方を教えてくれたそのブロガーも、今はもうスロット打ってないんですよね……」
「まあ、ある意味必然なのかな、と思うけど。要はスロッターってプレイヤーだよね。肉体ありきだから、当然、引退もある。ただ、現場から離れたら、もうスロッターとは言えないよね。それに、元野球選手が通用しても、元スロッターには何の意味もないし」
「そうっすね」帽子プロこと園田くんは笑った。「でも、最近ちょっと考えちゃうんですよねえ」
「何を?」
「……未来、見えないんすよねえ」
「でもどんな世界でもそうだと思うけど、先を見通すことなんて誰にもできないし、逆にあんまりにも見通しのいい場所にいたら人間ってダメになるとも思う」
「どういうことですか?」
「だって未来は確定してないじゃない。設定が決まっていても、その日の最終出玉がわからないように」
「でも、大体規定できるじゃないですか。割がわかってれば、平均が出せる。ただ、設定がなくなってしまえば、そんなこともできなくなるわけで、天井がなくなってしまえば、ハイエナもできない。パチンコに天井がつけばいいんすけどね」
「要は規制が不安ってこと?」僕はハンバーグをもぐもぐした後でそう聞いた。
「そっすね。後はモチベーションの維持の難しさというか」
「園田くんは何のためにスロットを打ってるの?」
「何すかね」園田くんはそう言って、ホットコーヒーをくいっと口に入れた。「今は惰性って感じがします。ぶっちゃけ」
「もっと違うことがしたい? それとも、お金が欲しい?」
「お金が欲しいです」
「金持ちになりたいなら、それ相応の努力をするしかないんじゃない」
「山村さんは金欲しくないんですか?」
「うん」と言った。「スロットだけで充分。だってお金持って何に使うの?」
「いい車乗って、いい家建てて、いい女連れて、みたいな」
「そういうのって、それこそ維持が大変だろうな、と俺なんかは思うんだけど。というか、目的と行為は主従関係にないほうがいい気するのね。いい車やいい家やいい女のために何かをするのって、しんどいし、そんな目的で俺は動きたくない。何かのため、というよりも、その行為をすることが目的っていう状態が、行為としてパフォーマンスが高い気がする」初めてまともに喋る相手にどうしてこんなことを言っているのだろう? と疑問を持ちつつ僕は言った。
「それ、いいっすね。目的と行為の主従関係って」
 園田くんはスマホを取り出して、カサカサとタッチパネルに触れていた。「目的と行為の主従関係……」
「園田くんは今ひとりでスロットを打ってるよね。どうして?」
「単純に金ですね。誰かと一緒に打てば、リスクを減らせるとは思うけど、儲けも半分じゃないですか。それが嫌なのかな。ただ、最近、人使うのもいいかな、とは思うんすよ。打ち子雇って、みたいな」
「打ち子にいくら払うつもりなの?」
「時給千円くらいかなあ。この辺でバイトするよりはいいと思うんで」
「ということは、組織をつくるってこと?」
「そういうことになりますかね」
「そっちのほうが稼げなくなったときにしんどくない? それに、園田くんの言うことを素直に聞いてくれる子を探すのって難しくない?」
「たしかに、そうなんすよね。山村さんは仕組み化とか組織化とかは興味ないんですか?」
「ない。そんなのやるくらいなら死んだほうがマシだと思ってる」
「極端っすね」と言って園田くんは笑った。
「てか、ひとりで大丈夫な人間は、組織に属せない。組織内で力を発揮する人間は、ひとりでいられない。もちろんそれぞれに努力は必要だけど、基本的にはたぶんそういう単純なことだと思うけど」
「山村さんはひとりでも大丈夫な人ですか?」
「うん。ずっとひとりだったし」
「そうですか……。つらいこととかなかったですか?」
「インターネット掲示板で叩かれて、逃げ出したことはある」と言って僕は笑った。そう、それが最初のきっかけだったのだ。
「おれ、そんなん怖くてよう見ません。そういえば、山村さんがいつも連れてる若い子いるじゃないですか。彼はどこから見つけてきたんですか?」
「見つけたっていうか、出会ったっていうか、流れっていうか、何だろう」僕はそういいながら、この数ヶ月を思い返してみた。色んなことがあったな、と思った。
「彼にはいくら払ってるんですか?」
「折半だよ」と僕は言った。
「マジっすか。年齢とか全然違うのに?」
「年齢って関係ある?」
「いや、えー、まあ、そう、すかねえ。でも、経験値が違うでしょ」
「ただの上下関係って甘えが生じるからさ。どうしても」
「ああ、それは何となくわかるような気がします。でも、ちょっとびっくりしました。てっきり打ち子だと思ってたんで」
「相棒だよ」
「すげえな」と言って、園田くんはコーヒーのおかわりを取りに立ち上がった。

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 園田くんはため息混じりに言った。「目指せ不労所得! ってわけにはいかないっすかね」
「今のスロットと同じだけの情熱を注げるなら可能かもね。たとえば、閉店チェックをして、翌日の設定配分を予測して、打つ台の優先順位を決めて、保険もかけて、開店前に並んで、13時間フルに打って、また翌日に備えて、それを毎日続けるみたいなシステム(仕組みでもいいけど)を、他のまだ誰もやっていない分野でイチからつくりあげたとしたら、成功者になれるでしょ。だってあの店に限って言っても、そんなことをしてるのは数人しかいないわけだから。ぶっちゃけ、すべての競争の勝敗を分けるものは、『運』と『優位性』だしさ。俺には金儲けのアイディアなんてひとつも浮かばないけど」
「いや、何か、すげえ刺激を受けました。そうっすよね……。あの、何か、ありがとうございます」
 そう言われると、急に照れくさくなってしまい、カフェラテを取りに行くことにした。

「でも、園田くんだったら何をしても、いいとこまでいく気はするけどな」僕は言った。「君がいないほうが俺としてはやりやすいし」
「いや、それ、こっちのセリフだわ」と言って園田くんは笑った。「山村さんたちが来てから日当ちょっと下がったんすよ。責任取ってくださいよ」
「それは無理」僕も笑った。
「スロッターは幸せになれますかね」
「どうかね」と答えた。「でも、スロットって楽しいよ」
「そりゃ好きっすけど、一生の仕事かっていったら、言えないです。体壊したらおしまいじゃないですか」
「うん。でも、金持ってても、体壊したら大変だよね」
「そりゃそうっすけど」
「園田くんはスロットで勝つことに対して不安ってある?」
「それはないです。今のところは、ですけど」
「でも、先行きを考えると、不安になる」
「はい」
「園田くんは両親はいる?」
「はい。っていうか、一緒に暮らしてます」
「それって素晴らしいことだ思うんだけど。親にはスロットしてること言ってるの?」
「一応」
「何か言われる?」
「親よりも入ってくるお金じたいは多いし、お金も少し家に入れてるので、何も言ってはこないっすね」
「そっか……。家族を大切にするとかも、未来の不透明感を和らげることにつながると思うんだけどな」
「まあ、そっすね」
「てか、そろそろ帰ろうか」と僕は言った。「明日打ちたい台あるし」
「オキドキっすか?」
「バレてた?」
「はい。でも、おれは明日は鉄拳と番長からはじめる予定なんでかぶらないっすけど」
「三が日過ぎたら全リセに戻りそうだしね」と言って僕は立ち上がった。
「そっすね」と言って、園田くんも立ち上がり、伝票を持ってレジに進んだ。
「ごちそうさま」と言って、ファミレスの外に出た。
「いえいえ。こちらこそありがとうございました。てか、山村さんの家はどこですか? 送りますよ」
「いや、いいよ。ここで。腹いっぱい食べたし、ちょっと歩きたい気分だから」
「そうすか? わかりました。今日はほんとありがとうございました。目的と行為の話、参考になりました。ちょっと考えてみます」
「ういっす」
「あ、山村さん、おれ、ブログやってんすよ。時間あるときでいいんで見てください。資金源のひとつになればいいなって思ってはじめたんすけど、おれには無理だって気づいたんで、そんなに頻繁に更新はしてないですけど」
「わかった」と答えた。「タイトルは?」
「『賭けることについて考えるときに僕の思うこと』です。長いですね」
「後で読んでみるよ。じゃ」
「お疲れっす」

 園田くんのブログは、いわゆるスロットの稼働日記だった。今読む気にはなれなかったので、ブックマークに入れておくことにした。月の大きな夜だった。オリオン座の方角に向けて、僕はテクテク歩いていった。
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スロット小説第一弾 

【ためし読み4】スロットよりもっと楽に稼げるものが目の前にあったらする? 「トン、トン、トン」より

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「師匠は女には興味ないの?」唐突にりんぼさんは言った。
「いきなり何ですか?」
「興味なくはない?」
「そりゃ、まあ」
「じゃあ最近いつやった?」
「何ですかその質問は……」
「いや、ちゃんとそういうことしてるのかなっていう単純な興味なんだけど。じゃあ、すぐにやらせてくれる女性と、まったくやらせてくれない女性はどっちがいい?」
「そりゃすぐにやらせてくれるほうがいいんじゃないですか」
「じゃあ、すぐにやらせてくれるけど、誰とでも寝ちゃう女と、やらせてくれない処女とどっちがいい?」
「そりゃ心情的には前者ですけど、質問おかしくないですか? どういう外見で、どういうパーソナリティがあってっていう前提がないと答えようがないですよ」
「いや、君と会って3日経つけど、少しずつ君のことがわかってきたよ。結婚したいとかそういう願望はある?」
「結婚したいって、まず人ありきじゃないんですか? 好きな人、というか、この人と一緒にいたい、一緒に年を重ねたい。家庭を持ちたい。それで初めて結婚願望っていうんじゃないですか?」
「ふむ。君らしい答えだ。だけど、それはあくまで君の意見であって、万人の答えではない」
「……そうなんですかね」
「好き、一緒にいたい、という理由で結婚するということは、好きじゃなくなったら、一緒にいたくなくなったら、離婚するということだよね」
「うーん、結婚については、ぶっちゃけあんまり考えたことがありませんでした。たしかに、そうですね。恋愛状態と、日々の生活を共にするというのは、違うことのような気もする」
「うん」りんぼさんはうなずいた。「質問を変えよう。師匠がスロットをしているのは、お金のためだけじゃないよね」
「……たぶん」
「たとえば、スロットよりもっと楽に稼げるものが目の前にあったとしたら、それ、する?」
「それは具体的にどういうものですか?」
「ここにひとつのボタンがあります。このボタンを押すと、あなたと関係のない人が何人か不幸になります。そのかわりにあなたにはお金が入ります。押す?」
「押さないです」
「何で?」
「何となく」
「だってさ、スロットだって同じじゃない? 大勢の誰かが負けてくれて、ようやく君みたいな人間に恩恵が届く。敗者のいないところに勝者は存在しない。やってることが同じなのに、ボタンは押さないってきれいごとじゃない?」
「そうですね。でも、そのボタンで不幸になる人には自己決定権がない。それはフェアじゃない」
「うーん」と言ってりんぼさんは芋焼酎をぐびと飲んだ。「こりゃ是が非でもパチンコ屋の存在しない世界で君が何をするのか見たくなってきたな」
「あの、りんぼさんは人を不幸にする仕事をしてたって言ってましたけど、何をしてたんですか?」
「人の不幸が利益に直結するビジネスモデルってけっこうあるんだよ。君も知ってのとおり、ギャンブル産業がそう。金貸しってのもそう。警備会社もそう。日本にはないけど、刑務所の経営とかもそうかな。軍隊もそうだね。武器、兵器をつくるってのもそう。社会が不安定になればなるほど事業拡大の契機になるっていう。もしかしたら酒造メーカーもそうかもしれない。娯楽産業もそうかもね。もちろん、それらには両面あるわけだけど。何て言えばいいのかな。ビジネスってのは、人に奉仕するのが第一義。その裏では依存させたいっていう思惑もある。良い商品、良いサービスは、必ず依存の対象になるからね。そして、できればその商品にまつわる流通を独占したい。それを防ぐために独禁法があるんだけど、現実はメジャーの論理で世界は回ってる。結局、世界で行われているすべての経済活動は、既得権益をめぐる戦争なんだよ。簡単に言えば、桃鉄みたいなもんなんだけど。桃鉄ってゲームやったことある?」
「はい。学生の頃に」
「あれってさ、モノポリーをベースにしたようなゲームだから、ある種の経済モデルでもあるわけ。で、ひとつの会社が成長する裏で、会社にとってネガティブな事件が発生する。台風とか、地震とか、キングボンビーとか、そういうの。そういうのを意図的に起こす人ってのも、世の中にはいるんだよ」
「火事場泥棒みたいなことですか?」
「それもその一例、だね。世界を構築しようとすることで生きる糧を求める人間、世界を崩壊させようとすることで生きる糧を求める人間、それぞれ立場は違うけど、糧を求めるという意味では同じ。そんな感じかな」
「金ってことですか?」
「そう。君たちが、今まさに、パチンコ屋という、極めて日本的なグレーゾーンで日々を過ごしているのも、金のためだ。だけど僕にわからないのは、どうしてパチンコ屋じゃなきゃいけないんだろう? ということだよ。別に、本気でお金だけが稼ぎたいなら、他にいくらでも方法はあるじゃない。どうして、パチンコ屋という空気のあまりよくない場所で、体を酷使してまでスロットを打ちたいの? 楽しいから?」
「うーん、ちょっとその質問は保留させてもらってもいいですか?」
「いいけど、どうして?」
「明日も朝から行きたいんで……」
「わかったよ。寝ようか」
「すいません。おやすみなさい」

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 僕と小僧は快進撃を続けた。1週間のうち、半分は高設定台に座れるようになった。そのうちに古株のジグマプロ(いつも帽子をかぶっている二十代中盤くらいの男)から、「明日はどの台っすかねえ?」と喋りかけられるようになった。喧嘩を売られているのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしかった。ジグマ同士の情報のやりとりは、設定を見極める精度の向上につながった。
 そんなある日、小僧が何かを発見したような顔をして、「師匠、ビタ押しって、もしかして、0.75秒を21で割るだけのことじゃないですか?」と言った。
「厳密に言えばリール1周のスピードは0.75~0.8秒の間くらいで、攻殻機動隊とか北斗転生とかは20コマだから、機種によるっちゃ機種によるんだけど、まあ、そういう認識でいいと思う。何か掴んだ?」
「何となく、ですけど」
「すげえな。てか、マジでメガネとかコンタクトとかしないで問題ないの?」
「別に遠くが見えなくても、そんなに困らなくないですか?」
「いや、困る。あの台が空きそうとか、おいしいゲーム数の台があるとか、わかんないじゃん」
「でも、目で見えない情報もありますよね」
「たとえば?」
「あ、今、あっちの台で人が立った、とか、あっちの台のボーナスが今終わった、とか」
「ふむふむ」と僕は言った。「音か。たしかに、音とかってあんまり気にしてなかったわ。うるさいからすぐ耳栓つけちゃうし」
「耳栓してても、何か、敏感になりましたね。気配とか音とか、そんなのが」
「ヴァルゴのシャカみたいな話だな」
「何ですか? それ?」
「いや、ただの昔話」
「てか、師匠、この二週間でいくら稼ぎました?」
「ふたりで50万くらい」 
「いくら貯まったら遍路するって言ってましたっけ?」
「ひとりあたり100万かな」
「じゃあ二ヶ月以内には貯まりそうですね」
「現在のペースで未来は占えないよ」
「でも、そうなると、まだ寒いですよね。真冬に遍路します?」
「うーん、それもそうだな」
「春まで待っちゃいますか」
「何で嬉しそうなんだよ」
「え、その分スロット打てるじゃないですか」
「……」
「ねえ、師匠、何でスロットって楽しんですかね」
「リールってクルクル回るだろ?」
「はい」
「リールってピカピカ光るだろ?」
「はい」
「だからじゃね?」
「……おれ、今、バカにされました?」

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スロット小説第一弾より

【ためし読み3】条件のいいパチ屋の条件「トン、トン、トン」より


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 翌日も朝から勝負。並びは五十人ほど。

 ここに来て初めて予想が的中したらしい。僕の台が朝から好調。小僧の台は微妙だったので、やめてもらって、交替しながら閉店までぶん回した。小僧は随分スロットを打つということに慣れてきた。途中おいしいゲーム数の台を拾ったこともあり、会心の勝利。

 投資22000円、回収95000円。73000円勝ち。経費を含む総収支はプラス71500円。目標まで28500円。

「はい。これ、おつかれさま」僕はそう言って小僧に金を渡した。35750円。「明日からは経費計算するのめんどくさいから、自分の分は自分で買うって感じでよろしく」

「師匠。ありがとうございます」

「いや、別に、ただの対価だから」

「おれ、自分で金を稼いだことなかったんで、何かめっちゃ感動です。でも、今日は何もしていないも同然なんで、何か申し訳ないですけど……」

「いや、決まりを守ってくれて、同じ方向を向いていてくれれば、ふたりいるだけでリスクを軽減しているわけだから、出た方がエラいとか、出ない方がダメだとか、ないよ。だからその金額はおまえの正当な取り分。それに、まだ終わってないから。明日これがそっくりそのまま呑まれる可能性だってある」

「いやあ、でも、嬉しいなあ」

「一喜一憂してたらもたないよ」

「うおお。今日は贅沢したい」

「ダメ。明日イベントだから今日は早く寝る」

「え、……今日も野宿っすか?」

「うん」

「何でそんなストイックでいられるんですか?」

「大敗して気分を変えるために贅沢するならわかるけど、勝ったときはそれ自体が報酬だし、嬉しいんだから、節制もできるでしょ」

「マジか。すげえな。師匠すごいですね。ジャングルとか砂漠とかでも生きていけそうですね」

「いや、無理だろ」

「やったー、とか、どよーん、とか、師匠は感情の起伏をどうやってコントロールしてるんですか?」

「コントロールはできないよ。ただ、必要なものと不必要なものはフォルダー作ってポンポンって感じで整理してる」

「マジすげえ」

 ウソだった。そんな簡単に感情をゴミ箱送りにできるはずがない。小僧は朗々とした表情でダンボールとダンボールの間に入り込み、「おやすみなさい」と言った。寒いのだろう、時々鼻をずるずるとすする音が聞こえる。明日勝ったらこいつともお別れだな、と思う。これからますます寒くなる。こんな生活は体力的に不可能だ。昨日マンガ喫茶で寝たせいで、なおのこと屋外の寒さが身に染みる。上空の星が輝いている。残酷なまでに。 

 ……こんな風に条件の良いパチンコ屋が今日本にいくつあるだろうか? と思う。
 少なくとも、お金を欲しいと望む人間の数だけはない。あのホールだって客側が嬉々として打ちにきてくれるから(敗北を繰り返してくれるから)営業できるわけで、それがいつまで続くかは、誰にもわからない。今まで何軒の優良店が潰れるのを見てきたか。ぜったいに勝つはずの胴元ですら消え去る可能性のある世界なのだ。ある日法律が変わったら、年間二十兆円と目されるパチンコ業界にかかわる大多数の人間が失業する。

 何かが決定的におかしい。けど誰もそのおかしさの理由がわからない。わかってても言わない。一番上のボタンがかけ違っていたら、その下が合うはずがない。ぬかるみに建てた建物はいずれ倒壊する。僕はそのような場所で生きている。適材が適所にはまることのない環境で、それでも居場所と信じて生きている。自堕落に、感興の趣くままに。他人を蹴落とすことにはマメに、マジメに、一心に。絶望には見て見ぬ振りをして。

 どうして狙い通りの勝利の後は、いつもネガティブな方向に感情が向かうのだろう? 負けたときは気持ちが勝ちたいに集中できるのに。拡散する気持ちを集めて明日の狙い台のことを考える。結局抽選次第なんだよな、と思う。重力に導かれるように、やがて眠りがやって来る。


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 予想の正解を示すような盛況。百人を超える列が店の前にできていた。抽選次第ではあるが、いくつかのパターンを考えておいた。イベントにおいては、開店までにしておくことの量で勝敗が決まると思う。この店に設置された20円スロットは百二十台ほど。最高設定は十台がいいところだろう。それを取ろうというのだから、十二分の一を二分の一、三分の一程度まで限定できなくては勝負にならない。そこは予想。その後は臨機応変に。ぞろぞろと伸びた列が抽選ボックスに向かって縮まっていく。

「何番くらいが理想ですか?」と小僧が言う。

「十番以内。ただ、ここの抽選はパチンコとスロットが同時だから、正直読めないんだけどね」

「何か良い番号な気がする」

「だといいけど」

 僕たちの番号は、七十八と一〇六。まいった。が、こればかりはどうしようもない。小僧に作戦を伝え、先に入場する。予想台はほぼ埋まっていた。ということで、バラエティコーナーにある少し古めの台を打つことにした。こういう台に設定が入る可能性があるというのも優良店の条件である。常連を大切にしている証拠だからだ。小僧がやってきて、狙い台は全部埋まってました、と言った。そっか、じゃあ、とりあえずあっちのシマの後ろでそれとなく見ててよ。
「はい」 

 さて、この台はどうなんだろう? 設定を開始一時間程度で見極められる状況というのは少ない。だいたいは数値とにらめっこして押し引きの決定をする。そうこうしているうちに、小僧が顔を腫らしてやってきた。

「どうした?」

「いや、あの、こないだのやつらがいたから、お金を返してくださいって言ってみたんですけど、逆に殴られちゃって。でも大丈夫です。今持ってるお金は死守しましたから」

「大丈夫か?」

「はい」

「もう少しで判断できるからちょっとマンガ読んで待っててくれるか?」

「はい」

 コインを流すと千三百枚ちょっとあった。

 正直腹が立った。でも、あいつらに反撃する方法がわからなかった。僕に力があったら暴力で蹴散らすのに。僕に知恵があったらあいつらを騙すのに。僕に人脈かお金があれば復讐を代行してもらうのに。僕に銃があったらぶっ放すのに。でも、僕には何もなかった。何もできなかった。

 投資3000円、回収26000円。23000円勝ち(11500円ずつ)。放心状態のまま換金して道後温泉に向かった。
「坊ちゃん泳ぐべからず」という札の下のお風呂に浸かりながら、なあ、小僧、おまえが持っていた金はほぼ原点に戻った。もういいんじゃないか? と言った。

「師匠はどうするんですか?」
「うーん」と言いながら、考えた。何も思いつかなかった。
移動を続けるんですか?」

「どうすっかな。つうかおまえ、遍路に戻るんじゃないの?」
「いずれは必ず」
「なあ、何で遍路をしようと思ったんだ」

「弔いです」

「弔い」

「はい。両親が他界して、それでおれ、高校辞めて、親戚に引き取られたんです。でも、何だか納得いかなくて。それで」 

 ああ。やっちまった。だから他人のバックボーンなんて知りたくなかったのだ。しまった。これは致命的だった。情が、移ってしまった。
 客観的に見ると、背骨の形はみんな同じである。この湯船にいる数人も、体を洗うおじいちゃんも。そしてそれは、小僧から金を奪ったあいつらも同じなのだ。死んだ小僧の両親も、もちろん僕の両親も同様に。
 でも情は、その理を曲げる。客観を保てず主観に堕ちる。必要不必要ではなく、好きと嫌いに分断する。今俺は、完全に小僧の味方になってしまった。小僧を殴ったあいつらが憎かった。それはスロットをするうえで、不必要な感情だった。こんな気持ちは久しぶりだった。……まいった。

 風呂から出た。久しぶりにヒゲをそると、無理して若づくりしたみたいな風貌で、それがひどくむなしかった。ヒゲがないと師匠ってけっこう若いんすね、と小僧は言った。

 風呂代と飯代を払い、総収支はプラス92000円(46000円ずつ)。目標までは8000円。


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【ためし読み2】ノリ打ちのルール 「トン、トン、トン」より


 

 列はすでに百人を軽く超えていた。
 問題は、入場に際して、会員カードが必要か否か。前に並んでいる老人にそれとなく聞いてみると、カードは必要ないとのこと、後はいい番号を引けるかやけどなあ、とのこと。今日は熱い日なんですか? と聞くと、熱いといいんやけどなあ、とのこと。笑顔でお礼を言う。しかし、この人数。店が力を入れているのは間違いなかった。であったとしても、初見の店でいきなりノープランの勝負は愚の骨頂である。とにかくスマホで情報を収集する。ブログ。掲示板。もちろん信憑性には疑問符がつくが、雰囲気はつかめる。しかし、情報はほとんどなし。本当はそれとなく若い子に聞くのが一番だけど、僕にそのような人懐っこさはない(太郎はこういうことが上手だった)。まあ、とりあえず今日は状況を見て、後で腰を据えてこの店を攻めてもいい。
小僧には白装束を脱いでもらい、服と帽子とサングラスを貸した。これであいつらに気づかれることもないだろう。

「なあ、あいつらに復讐したいとか、そういう気持ちはあるの?」

「いや、ないです。おれが間抜けだったんですから」

「そうか。じゃあ、頑張ってここで五万稼ごう」

「お願いします」

「いや、一緒に稼ぐんだよ」

「え、でもおれ、パチンコ屋って入ったことないっすよ」

「大丈夫だよ」

 しばらく待っていると、抽選の時間になった。僕は七十六番、小僧は十番。悪くない番号だった。

 入場までの時間を使って、できる限り小僧にレクチャーした。パチスロの単純な構造、設定という勝てる可能性、店の営業努力。小僧がどの程度理解したのかはわからないが、とにかく「数学」を数えれば設定を判別できるということはわかってくれた。そして高設定台を打つのが誰であれ、店の懐はまったく痛くないということも。

 十番の入場順番券で入場する。小僧には七十六番を渡し、入ったら俺を探せ、と言った。

 入場が始まる。朝一から店に入るのは久しぶりで、胸が高鳴った。開店の音楽に軍艦マーチが流れる店も久しぶりだった。ワクワクしている自分に首を振り、仕事をしよう、と気持ちを切り替え、前の人間が進む先を見据えた。おじさんおばさんはパチンココーナーに流れ、若い子たちはスロットの人気機種を目指した。まず機種を絞り、データカウンターを足早にチェックし、めぼしい台を入場順番券で押さえた。さてどうするか。とりあえず小僧が打てそうな台を探さなくては。ということでAタイプと沖スロのシマを徘徊する。データカウンターをポチポチ押しながら眺めていくと、割とボーナス回数がついている。通常営業でも設定状況が悪くないのかもしれない。が、いきなり彼に打たすのは荷が重過ぎる。そうこうしているうちに、小僧が現れた。想像以上に素人との二人三脚は難しいものだと思った。とりあえず今日は小僧に雑用をしてもらおう、と決断する。

「うるさいっすねえ」と小僧は言う。「それで、どうすればいいですか?」

「とりあえず今日は見学。適当に研究しといて。で、飽きたらあの隅にマンガコーナーがあるから、スロ雑誌でも読んで待ってて。とにかく何かあったら呼びにいくから、絶対に店内にいて。いい?」

「わかりました」

 

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 パチンコ屋に併設されたうどん屋で昼飯を食べながら、小僧が口を開く。

「素朴な疑問なんですけど、高設定ってほとんど勝てるんですよね。じゃあ、店の人がその高設定台を知り合いに打たせたら、絶対にお金を稼げるじゃないですか」

「そうだよ」

「どうやって、それを防ぐんですか?」

「防げないね。ぶっちゃけ」

「それっておかしくないですか?」

「おかしいよ。そもそもぜったい勝てる設定なんてのは、ギャンブルの概念と合わない。だってギャンブルは基本的に客が勝てないような金吸い上げシステムでのみ成立するビジネスであって、大勢の敗者のお金が胴元に入り、その中から少数の勝者におこぼれが出るっていう仕組みだけど、パチンコとスロットの場合は、もうハナから勝てるっていう釘なり、設定なりが仕込まれている。それが幻想だっていう人もいる。あの設定というのはウソだ、と。ギャンブルに必要な控除率が、スロットの場合は低すぎる。最低設定で3パーセントくらいで、なおかつ高設定を入れるなんてことをしたら、店の儲けはどこから生まれるんだ、とかね」

「控除率って何ですか?」

「参加料。日本の競馬の例でいうと、売り上げの25パーセントっていう金額がJRAに入って、残った75パーセントでオッズを割り振る。実際はもうちょい複雑だけど、簡単に言えばそんな感じ。だから一レースごとに、主催者側は最低でもその25パーセントのお金だけは得られる。確実に」

「すげえ」

「パチンコ屋の場合はそれが曖昧なのは事実。でも、設定ってのが存在するのは事実だし、高設定が負け難いのも事実。店が遠隔とかしない限りね」

「どうやって見極めるんですか?」

「今は雑誌社がメーカーからもらって出す解析データと照らし合わすしかないんだよね。後は自分の経験を踏まえてさ」

「師匠がいる世界ってすごいっすね。でも、今日は調子悪いんですね」

「うん」

「これからどうするんですか?」

「とりあえず台が空くのを待つしかないかな」

「地味ですね」

「うん」

 

 店の会員カードを作り、メール会員にもなった。ろくな情報は来ないにしても、念のため。小僧から金を巻き上げたあいつらは、早々に負けて店からいなくなっていた。小僧の金はこの店に流れたということになる。一台目を見切った僕は、ひたすら店を歩き回った。確かに高設定はある、と踏んだ。気づいた点をトイレの中でメモった。

 小僧には、僕が言った台が空いたら取るべし、という指令を出している。その客がトイレに行くたびにそわそわする小僧を眺めながら、僕は不毛な時間をやり過ごした。

 投資30000円、回収15000円。この日は15000円(ひとりあたり7500円)の負け。


       777


「ノリ打ちをするにあたってのルールを言うからゼッタイに遵守して」

「はい」

「まず、コインは共有財産。だから、一枚たりともムダにしてはいけない。取りこぼし、ムダ回し、勝手に換金したり、ジュースやホットドッグを買ったり、落としたりしてはいけない」

「はい」

「分け前は完全に二等分して分配する」

「でも、いいんですか?」

「ルールだから」

「そのルールって誰が決めたものですか?」

「俺」

 これは以前太郎とコンビ打ちするにあたって提示したルールだったけれど、結局太郎は全然守らず、気を抜くと小役を取りこぼすし、勝手に珈琲を飲んだりホットドッグを食べたりタバコに交換したりしていた。でも、僕は一度もそういうことをしなかった。良かれ悪しかれ僕はそういうことのできない人間なのだと思う。

 

 近くで野宿して、翌日は午後からの出勤。寝袋を持たない小僧は寒さでまったく眠れなかったらしく、僕が起きた後の寝袋で朝から眠っている。その間、僕は戦術を練ることにした。まずしなければいけないのは、彼を戦力にすることだった。小僧がすぐにでも使える戦法は、ゲーム数で大当たりを管理する台のゲーム数狙いと天井狙いである。が、僕はできれば設定狙いをしたい。そのために覚えることはガッチガチに組んだ木の葉積みのコインほどもある。ともあれ必要なのは、目押し力と台の特性の暗記だった。

「あのさ、本当にやる気ある?」小僧が起きた後でそう聞いてみた。

「何のですか?」

「パチンコ屋で稼ぐ」

「はい。というか、頼んだのはおれの方なので、もちろんやる気あります」

「じゃあ今から言うことを何かに書くか、記憶して」

「はい」
 

 その後食事を取り、店のデータをチェックしたり、気づいたことを(その場では書かず)スマホにメモったりした。

「これって何か不審者みたいじゃないですか?」と小僧が言った。

「そうだよ。不審者だよ。ギャンブルで勝とうとしてるんだから不審者に決まってるだろ。でも、なるべく不審に思われないように、目立たないように」

「難しすぎます」

「人の顔を直視しない。店員の顔を直視しない。早くもなく遅くもないスピードで歩く。体を動かすんじゃなくて目を動かす。なるべく一回で記憶する」

「はい」

 結局この日は何も打たなかった。やろうと思えばハイエナはできたけど、とりあえず小僧には、この仕事がしんどいのだ、ということを知ってもらいたかった。

 その夜、スマホでスロットのアプリをダウンロードして小僧にやらせた(小僧は携帯電話を持っていなかった)。
「それを四六時中やって、リールが一周するスピードを覚えて」
「はい」
 小僧の飲み込みは早そうだった。この分だと目標額までは二週間もあれば何とかなるだろう。たぶん。


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スロット小説第一弾

【ためし読み1】パチンコってめちゃくちゃバッシングされてるじゃん?  スロット小説第一弾「トン、トン、トン」より




 僕たちはアタリメをつまみながら、湯飲みに氷を入れて、パックの芋焼酎を飲んでいる。
「四国はどう?」とりんぼさんは言う。

「いいところですね」僕は答える。「道後温泉しか観光らしいことをしてないですけど。ただ、こういう風に面識のない人の家に泊めてもらうのは人生で初めてで、少しとまどってます」

「君は何か不思議な雰囲気があるね。外見は二十代のようだが、妙に老成している」

「そうですかね」
「何の仕事をしてるんだっけ?」
「……」言葉につまった。誰かにこの質問をされるのが苦手だった。 といっても、この生活をはじめてから、頻繁に人に出会うこともなかったから、いつもお茶を濁していた。夜の店なんかでは。
「何かごめんね。言いたくないことなら無理に言う必要はないよ。僕だって人様に誇れるような仕事をしているわけじゃないし」
「スロットをしています」僕は正直に言った。 この期に及んでお茶を濁す意味もなかった。
「スロプロってこと?」
「そんな大層なものじゃないですけど」
「いつから?」
「十代からです」
「すごいな。それは。大学は?」
「高校もろくに行ってないです」
「へえ。何で?」
「……」そう言われてみると、何でだろう? と思った。「何でだろう」
「他者と関わるのが好きじゃないとか?」
「うーん、たしかにあんまり好きではないです」
「パチンコってさ、今めちゃくちゃバッシングされてるじゃん? ヤフーニュースとか見てると記事のトップに出たりする。それについてどう思う?」
「廃止しろ、とかですか?」
「廃止しろ。日本から出て行け。百害あって一利なし」
「何を言われても何も思わないです」
「そういうネガティブな情報は見ないってこと?」
「見ないわけじゃないんですけど」
「他人の意見は気にならない?」
「気にならないこともないんですけど」
 あれ? と思う。俺、ネットの言葉に傷ついて旅に出たんじゃなかったっけ? ……今はもう何とも思っていない自分が不思議だった。
「世間から白い目で見られることに対して何とも思わないの?」りんぼさんは意地の悪そうな顔でそう言った。
「というか、世間って幻想ですよね」僕ははっきりと言った。「俺、幻想を振りかざす人って苦手で。
たとえば、昔は勝てたんだけど、今は勝てないからダメだ、とか、昔はそんなにお金がかからずに遊べたけど、今はかかるからダメだ、とか、そういうことを言う人ってけっこういると思うんですけど、それ幻想ですし、もっと言っちゃえばウソですよね。陰謀論もそうですけど、合理的整合性っていうんですかね、そういうのがない。勢力の弱い団体が、より大きな団体を支配できるはずがない。昔にしても、今にしても、無策で勝てるほどギャンブルは甘いものじゃない。パチンコ業界の衰退はそういうことじゃなくて、ただ単に娯楽の多様化というか、無料化というか、要はインターネットのせいですよ。娯楽産業はほとんど全部右肩下がりじゃないですか。上がってるのはインターネットかスマホ関連のコンテンツ産業だけで」
「師匠はすごいね」りんぼさんはしみじみと言った。「僕は君が怒ると思ってこんな質問をしてみたんだけど、そんなそぶりもない。じゃあ質問を変えよう。師匠は何をしてるときが楽しいって感じる?」
「スロットですかね」
「ゲーム性みたいのが楽しいってこと? それともギャンブル自体が楽しいの?」 
「ちょっと説明が難しいんですけど、スロットを打っていると、時々未来が見えるような瞬間があるんです。ああ、何か引くな、とか。ほとんどはネガティブなことですけど。朝、鏡の前で顔を洗いながら、ああ、今日は勝負しに行ったらダメだな、とか。この台打ったらダメだな、とか。ただ、ダメだな、と思ってもパチ屋には行くんですけどね。で、やっぱダメだったって帰ってくる。科学的じゃないし、突拍子もないですし、論理的整合性とか言っておいて何だって感じですけど

「それってすごいね。武道の達人みたいな感覚なのかな」 

「そんないいものじゃないと思います。オカルトみたいなものです。うまく説明できないですし。りんぼさんは何をしてる人なんですか?」

「僕は人を不幸にするのが仕事だったんだけどね。でも、君みたいな人間を相手にするのはやりにくいだろうなあ」

 人を不幸にする? 僕は首をひねった。 


スロット小説第一弾
作者 寿
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ふと思う。スロ歴ってどれくらいなんだろう? 今年で20年? そんな経つ? ピーいれたいね。スロットばっか打ってるわけじゃなくて、普段は小説書いてんすよ。ちっとも売れないけどね。つうか売ってないしね。けどこのブログだと読めんすよ。フォウ!

ブログポリシー「my rights sometimes samurai!」
当ブログは、寿という人でなしが小説を書くなかで、
また、スロットを打つなかで、
はみ出たものを一所懸命につづったものです。
基本的に毎日更新してはいますが、
毎朝グビグビ飲めるというほどあっさりした、
また、健康的な文章ではありません。
油ギトギトのラーメンというほどではないと思いますが、
胸焼け、食あたりを起こす可能性がある由、ご留意くださいますよう。

また、コメントは大歓迎です。
引用ももちろん大歓迎ですが、引用元の記事を明記していただけると幸いです。
それでは今日もはりきって行きましょう! どこへ? パチンコ屋へ。
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