書くこと、賭けること

どうもはじめまして。スロ小説家のブログです。

すべての書かれたもののうちで私が愛するのは、自分の血で書かれたものだけだ。
血で書け。そうすればきみは、血が精神であることを経験するだろう。

フリードリヒ・ニーチェ 永井均訳
「ツァラトゥストラはこう語った」
読むことと書くこと、より

遍歴時代

第二百十七話「夢が叶う」

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第百八話「朝焼けと拳銃と月光(我は神の子)」

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「パエトンの墜落」ピーテル・パウル・ルーベンス

若い頃は誰でもそうだと思うが、ぼくも昔はちょくちょくバイトをした。

 
今から十数年前、ぼくは派遣会社(今は存在しない)に登録していた。その日もらったのは、大手レンタルビデオ店の、新規オープンのための仕分け作業で、ぼくは眠い目をこすりつつ電車に乗った。

朝早く、人もまばらだ。

と、ひとりの男性が車両に滑り込むように乗ってきた。年齢はおそらく三十歳前後。オールバックの髪は若干乱れており、セットしてから時間が経ったという感じ。この寒いのにスーツ一丁で、おまけに白いワイシャツの第一ボタンと第二ボタンははだけている。全身からただごとではない雰囲気が立ち上っている。男はぼくの右前方、六メートルほど離れたところにでんと座った。

何だか胸騒ぎが止まらなかった。

ぼくは彼の何に反応しているのだろう? と考えながらそれとなく観察すると、男の腰のところに妙な物体が見えた。ぞっとした。黒光りしたその物体は、ぼくの目がおかしくなければ、拳銃だった(あるいは拳銃のような形をした何かだった)。


目を閉じる。ぼくの耳の中のイヤホン、つまり携帯音楽機器(その当時はソニーのMDウォークマンだった)からは、鬼束ちひろの「月光」が流れていた。目を開ける。窓の向こうに見える空は朝焼けに染まっていた。これから一日が始まるのだ。そしてあの武器は、誰かの人生を終わらせるためのものなのだ。


「我は神の子」という、大仰な言葉が耳の中で聴こえる。心の中で首を振る。ぼくはこれからバイトに向かう。朝は早いし勤務地も遠いけれどこの仕事は今日一日で終わる。

目を開ける。窓の向こうに空は広がり、右前方には死の予感そのもののような人がやはり目を閉じている。

やがて乗り換えるべき駅がやってきて、ぼくは電車の外に出た。冷たい風が吹いていた。

チャイムが鳴って、ドアが閉まる。電車は目的地に向かって滑るように走り出した。

朝日が目に入り、ぼくは目を閉じた。


ぼくはいったい何をしているのだろうか? そして、何をしにどこへ向かうのだろうか? よくわからなかった。目的も、それから、その意味も、何もかも。


ぼくは向かいのホームにやってきた電車に乗り、家に戻った。

仕事に行けなかった言い訳を考えたけど、めんどくさくなったので寝た。


今思えば、あのときのぼくの視力は0.1あるかないかくらいで、しかもコンタクトをせずに生活をしていたため、六メートル向こうの人の腰に何があるかなんて見えるはずがないのだった。だから、たぶん、携帯電話か何かだったんだろうな。たぶんそうだ。うん。

仕事に行きたくないぼくの脳が、そういうものに変換させてしまったのだ。たぶん。


今はなき派遣会社の社員さん、それからレンタルビデオ屋のみなさん。あの日行けなくてすいませんでした。

 

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第百四話「同級生の死」

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「日没」フランソワ・ブーシェ

少し昔の話。


高校の頃の同級生が亡くなったという。わかった。明日、通夜ね、ぼくは電話の向こうの同級生にそう言った。


式場は立派な建物だった。ぼくは記帳し、受付のスタッフに香典を渡し、香典返しの引換券をもらい、同級生たちにまぎれ、パイプ椅子に座った。


ぼくたちはまだ三十になったばかりだった。いや、なってないやつだってまだ大勢いるはずだった。すすり泣く声がそこここから聞こえた。人徳、あったんだな、と思った。死因は不明。そりゃ色々あるんだろう。けれど死因のわからない働き盛りの人間の通夜に参列する同級生たちの顔は暗かった。

しかし一様ではない、人によって様々に神妙な顔をしている。涙で崩れているやつもいれば、それほど仲が良くなかったからか、あるいは哀しみを処理しきれないのだろうか、置き所のないひきつった顔をしたやつだっている。それでも暗い顔であることは一致している。こんなところで暗くない顔をするのは難しい。けらけら笑っていたら叩き出されるんだろう、とか思う。父親の葬儀にすたすた入っていって塩を投げ撒いた織田信長はすげえな、とか思う。


十数年ぶりに会う同級生の中には驚くべき変化を遂げている人間が何人かいた。そしてその中でぼくだけが仕事をしていなかった。

死んでしまったことと、激太りすること、激痩せするということ、変な髪形をしていること、性別が変わっていること、または全然変わっていないこと、どれが一番大きな変化なのだろう? と考えていくと、わからなかった。重い空気がねっとりと絡みつくように降りてくる。


気づくとお坊さんがお経をあげていた。お坊さんの声がマイクに拾われ、式場を包む。ちーん、という鐘の音。ぽくぽくぽくぽくという木魚の音(その音は否応なく一休さんを想起させる)。誰も喋らず、誰も動かなかった。でも、鼻をすする音だけは聞こえた。スタッフのアナウンスと共に親族から焼香が始まった。


棺の中には遺体がしまわれている。だけどぼくはその棺よりも、飾られた写真の方に彼を感じる。これはどういうことなんだろうか? 遺体は彼であって、もう彼ではない。そういうことなんだろうか。焼香の番がやって来る。ぼくは、彼の写真に向かって手を合わせた。

焼香が終わり、お経が終わり、散会となった。最後に棺の小窓から故人とのお別れができるという。そこには白くなってしまった彼がいた。もう笑わないし、怒らない。彼のその表情が変わることは二度とないのだ。

今度は彼の顔の前でしっかり手を合わせ、遺族の方たちに一礼して、香典返しを受け取って、ロビーに下りた。


飲みに行く、という同級生たちに別れを告げ、ぼくは外に出た。外は真っ暗だった。てくてく駅まで歩き、電車を待った。がたごと電車に揺られた。地元の駅に降りると人がたくさんいた。そういえば今日は土曜日だった。誰かと何か、話がしたかった。たまらなくそう思った。


ある光景がよみがえってきて、ぼくは立ち止まった。


あれは十年以上前のこと。


ぼくはパチンコを打っていた。

気づくと彼が隣にいて、「おう」と言った。

ぼくも「おう」と返した。

「出てるね」と彼は言う。

「うん」とぼくはうなずく。

「いいね」

「で、おまえは何やってんの?」

彼はパチンコを打つこともなく、ぼくの隣に座り、ただ、ぼくの打っているパチンコを見ているのだ。

「え、おまえのこと待ってようかなと思って」と彼は言う。

「何で?」

「え、おごってくれるっしょ」

「(苦笑)」


彼はその日、しこたま呑みやがったのだった。あのパチ屋に行けば彼に会えるかもしれない。そう思った。でも、そんなわけがないのだ。

ぼくは塩っぽい唾を呑み込み、再び歩き出した。


家に帰り、香典返しの袋の中に入っていた清めの塩というのを見て、玄関でそれを自分に振ってみた。

でも、どうして清める必要があるのだろうか? 

香典返しの日本酒を飲みながら考えたけど、わからなかった。眠りが訪れるまで、酒を飲んだ。なかなか寝付けなかった。それでもいつの間にか一日は終わっていて、そして、新しい一日が訪れていた。ぼくは目を開け、立ち上がる。それからあくびをした。顎が外れるんじゃないかというくらいの大きなあくびだった。
 

さて、パチンコ屋行くか。


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第九十九話「異国で押忍番長!」

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「狂ったお茶会」アーサー・ラッカム


今は昔、他機種とは相対的に機械割の低い初代番長の6をしょっちゅう打てていた頃のこと。



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第五十話「そこは魔窟ぞ(恥さらし最終回)」

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「うさぎの穴に落ちて」アーサー・ラッカー

役者の面白みというのは、ここではないどこか、自分ではない誰かに瞬時になれるところではないか。それは言うなれば、人生の別の可能性に触れる、ということではないか。


でもそれは、役者に限ったことではない、役者としての才能のなさを棚に上げてぼくは思ったのだった。


どうやらぼくは、演技では矯正できない心根の持ち主だった。
なぜかぼくは憤慨していた。やりたいことを探す、という言葉に、そもそも矛盾があるのだ。やりたいことは、もうすでにやっているに決まってるじゃないか。


ぼくの場合、それは文章を書くことだった。

しいて言えば、やりたいのは、スロットだった。


その後、本当に人生すべてを文章に賭けようと決めるまでには、幾つもの挫折をくりかえすことになるのだが、ともかく、そのような自己確認の後、ぼくはパチンコ屋でのアルバイトも、演技も、やめることにしたのだった。


アリスはウサギを追って不思議の国に入る。ぼくは獣を追って芸能界という穴に落ちた。そして、その穴から抜け出たと思いきや、気づくと別の穴に落ちていた。
 

この文章を見ている方の中に、やりたいことがあって、何かの穴に入ろうとお思いの方がおられるかもしれない。

だが、そこは、魔窟ぞ。


……少なくとも、魔窟の可能性大、である。
 

永遠に日の目を見ない、日の光を浴びることができない可能性がある。普通の幸せが手に入らない可能性がある。


それでもぼくはこの穴の中の住人として生き、死んでいこうと思っている。

拙文を読んでくださって感謝します。 

短期集中連載 終 

poti. 寿


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作者 寿
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ふと思う。スロ歴ってどれくらいなんだろう? 今年で20年? そんな経つ? ピーいれたいね。スロットばっか打ってるわけじゃなくて、普段は小説書いてんすよ。ちっとも売れないけどね。つうか売ってないしね。けどこのブログだと読めんすよ。フォウ!

ブログポリシー「my rights sometimes samurai!」
当ブログは、寿という人でなしが小説を書くなかで、
また、スロットを打つなかで、
はみ出たものを一所懸命につづったものです。
基本的に毎日更新してはいますが、
毎朝グビグビ飲めるというほどあっさりした、
また、健康的な文章ではありません。
油ギトギトのラーメンというほどではないと思いますが、
胸焼け、食あたりを起こす可能性がある由、ご留意くださいますよう。

また、コメントは大歓迎です。
引用ももちろん大歓迎ですが、引用元の記事を明記していただけると幸いです。
それでは今日もはりきって行きましょう! どこへ? パチンコ屋へ。
1日1回のポチを。
血がたぎります。

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