書くこと、賭けること

書くことを賭ける。賭けることを書く。とどのつまりは遊び。Life is the gambling you know?

「寿という言葉は経験による人の円熟という意味に使われていた」
「成功は、遂行された計画ではない。何かが熟して実を結ぶ事だ。其処には、どうしても円熟という言葉で現さねばならぬものがある。何かが熟して生れて来なければ、人間は何も生むことは出来ない」

小林秀雄「考えるヒント」より

私小説

パチスロと出会った日


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(フィクションだと思って読んでください)

1997年。ぼくは高校2年生だった。16歳。あるいは17歳。当時のぼくにとって、それが若さとは思えなかった。目の前の世界は今でしかないのだ。当時も、今も。

が、部屋の中でパソコンの前から動かない(動く必要があまりない)2022年の今とは異なり、1997年のぼくは家にいたくなかった。

とにかくもう、学校や家には帰りたくなかった。自分の存在が何なのかわからず震えている……。尾崎豊(文字にしてみると、尾崎の尾ってこんな文字だったかしら、といつも思う)を路上で口ずさむ高校2年生だったのだ。

はたして、家に帰らずに生活することは可能なのか?

……知り合いの家を転々とすればいーんじゃね? と思いついた。

はた迷惑な人間とは思うが、その日初めて会った人の家にも積極果敢に泊まらせてもらった。もちろん、親と同居している女子の家にあがりこむのは無理難題だったから、泊まらせてくれるのはほぼほぼ男子の実家だったが、ある日、同い年にもかかわらず、一人暮らしをしている女性を紹介されたことがあった。

K王線のSという駅の近くで、そのアパートにたむろしていたのは、だいたいみんな悪いやつだった。




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小説家という最後の仕事

肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな

イエス・キリスト

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不倫騒動の渦に沈んでいったかに見える乙武弘匡氏に向けて、瀬戸内寂聴がこんなことを言っている。

「これから生きのびるには、小説家になるしかないのでは。小説家は不倫をしようが、色好みの札つきになろうが、その恥を書きちらして金を稼いでもどこからも文句は言われないよ」

かつて知事をつとめた人の本にも、「作家は人を殺したってそのことを書けばいい」というような言及があったが(うろ覚え)、それは極論にしても、世界から孤立してもできること。一人ぼっちになって初めてできること。それが文章表現である。

おれは(ぼくは、僕は、私は)過去を肯定したいわけじゃない。否定したいわけじゃない。現実がつくられた過程を披瀝(ひれき)し、今ここにある世界を更新したいだけだ。過去をなかったことにはできない。過去から目をそらすわけにはいかない。おかえりなさい。ただいま。

過去を振り返って思うのは、普通だな、ということ。まったくもって特別な体験をしていない。或る特別な使命があって行動したわけじゃない。悪意ある運命に抗うための行動でもない。結局、おれは求めてしまうのだと思う。心の欲するものを。体の望むものを。ただし、特別じゃないにしても、おれの手足は他人を傷つけ、自分を傷つける刃(やいば)になった。その傷は癒えることなく、鮮血を流し続けている。ジャングルジムはいつだって血にまみれている。おれはかつての仲間たちを許すことはできないし、小学生の頃の親友もおれを許すことはないだろう。

どうすれば不毛なジャングルジムをつくらなくて済むだろう?

ジャングルジムの別名を既得権益という。その運用体系のことを政治という。たぶんおれにはその才能がない。というか熱意がない。土台、社会は理不尽なものだ。どんなスペースにも既得権益が張り巡らしてある。ジャングルジムと関わらない人生はない。でも、ジャングルジムをつくらずに済む道はあるかもしれない。不浄なるジャングルジムをぶっ壊す。そんな光景を望む人=読者だっているかもしれない。そうだ。おれは寿という虚名で、虚構のジャングルジムを粛々と破壊していこう。

欲望を否定したところでどこにも進めない。しかし何かを手に入れた刹那、人は守りに入る。欲望は攻撃的であり、生存本能は守備的なものだ。文章を書いているときだけは前者にゼンツしたい。希望をもらった。呪いをもらった。ありがとう。さようなら。ジャングルジム、壊しに来たよ。

8/31
夏休みの宿題2016「欲望」 終
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幸せって何だっけ?

肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな

イエス・キリスト

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どこにいっても同じことのくりかえしだった。衝突。融合。おれはただ自分の幸せを求めただけだった。が、ジャングルジムをめぐる闘争は終わらなかった。


とはいえ、奇跡みたいなことだってあった。恋の季節、公園でワキャキャした女の子に高校生になって再会したのだった。小学5年生のおれに夢みたいなものはなかった。大人になったら自動的に家業を継ぐものだと思っていたし、特に希望のようなものはなかった。しかし彼女に対する思いは別だった。真剣だった。ずっと一緒にいられますように。神様。みたいなことすら願っていた。しかしそれは過ぎ去った過去だった。

恋の季節から5年経ったある日、その彼女から告白された。おれが何と返答したかというと、……覚えていない。ちょっと待って、とかだったと思う。なし崩し的に付き合うことになった。夢にまで見た女性との邂逅は、しかし小学生のおれが望んでいたものではなかった。というよりも、16歳のおれが11歳のおれではなかった。

付き合って半年が経過した頃のこと。
「ねえ、家出してきちゃった」
そんなパンチラインをくらったのは生まれて初めてだった。知り合って間もない女性だった。真冬だった。16歳のアオハルユースに帰れなんて言葉は出てこなかった。それは一夜のみの秘事であったが、数ヵ月後、小5時分の憧れの君とは別れることになった。理由は覚えていない。


ここまで書いて、全部一緒やないか、と思う。

おれはただ自分の幸せを求めただけだった。が、おれにとって都合のよい世界は誰かにとって都合の悪い世界だった。男も女もみんなそう。人間の欲しがるものが似通っている以上、誰かの幸せは誰かの犠牲の上に成り立っている。幸せを求めることが不幸せの入り口だとしたら、人生のどこに救いがあるのだろう?


つづく
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8/30

夏休みの宿題2016

真っ赤な美しい火になって燃えて夜の闇を照らして



肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな

イエス・キリスト
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ついにその順番がやってきた。今まで何人も、その状態に陥った人間を目撃してきた。登校拒否をするやつもいたし、別の世界に居場所を移したやつもいた。無視するほうは、理由が重要なわけではないのだ。太平洋戦争と同じだ。戦争した事実はあっても、首謀者の存在は明るみに出ない。ともあれ、次はおれがハブられる番だった。理由はわからない。今でもよくわかってない。しかしジャングルジムの主の座は誰かの手に渡ってしまった。このときばかりはなかったことにはできなかった。生来の運動神経も、ためこんだ知識も、おれの苗字も何の役にも立たなかった。

カブ、というタバコの遊び(というかオマジナイ)があった。当時の日本のタバコには、律儀に1本1本4ケタの数字が記してあって、その4ケタの数字を足して9か19になればカブ(オイチョカブのカブ)といって、よいこととされた。四葉のクローバーみたいなものだ。取り出したタバコの数字が9か19だった場合、その1本(最初に触った1本)は向きを逆さにしてタバコケースの中に戻す。そして裏返したタバコを最後に吸うと願い事が叶う、という、乙女の花占いのような願掛けが流行っていた。イキッていたとはいえ、そこは中学生。どうか前の空気が戻ってきますように、と願いながら、ひとりこっそりタバコを吸った。もちろん願いは叶わなかった。

次に考えたのは、世界の更新だった。学校を休むことは1日もなかった。世界がよきものになりますように。この世界がよりよきものになりますように。そんな文言を唱えながら登下校をくりかえした。おれの祈りの原型は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくるバルドラ野原のサソリの話だった。


「お父さんう云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎(サソリ)がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附みつかって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命げて遁げたけどとうとういたちにおさえられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりはおぼれはじめたのよ。そのときさそりは斯う云っておいのりしたというの、
 ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちにれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなのさいわいのために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さんおっしゃったわ。ほんとうにあの火それだわ。」


ああ、おれは悪いことをしてしまったのだ。だからこんなに寂しいのだ。おれはひとりのサソリなのだ。今度こそ、おれはみんなのマコトのサイワイのために生きたい。おれは一心不乱に祈りながら中学校に通った。

マコトのサイワイは得られなかった。もしかしたら、おれ以外のクラスメイトは得られたのかもしれない。だとしても、おれはそれをよかったとは思えなかった。父親がおれを地元の小学校に通わせたかった理由。それは地元に友だちができるように、という配慮だった。ずっと私立の学校に通っていた父親は、地元に友人がいないことを寂しく思っていたらしい。今のおれは割と日本の広範囲に連絡を取り合う知人がいる。が、地元にだけはいない。

つづく
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8/29
夏休みの宿題2016



引用は宮沢賢治「銀河鉄道の夜」より

青空文庫 

恋の季節


肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな

イエス・キリスト

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覚えておられる方もいるだろうが、1991年の今ごろ、東京で世界陸上が開かれていた。家族はみんな、カールルイスを見るといって(今はなき)国立競技場に出かけていった。このときカール・ルイスは100メートルの当時の世界新記録を樹立し、種目は違うがそのカール・ルイスを破ってつくられたマイク・パウエルの走り幅跳びの世界新記録はいまもって破られていない。列島は即席の陸上ブームに沸いていた。なぜおれがそんな大イベントに参加しなかったかというと、恋をしていたからだった。

当時、ほとんどのクラスメイトはその女子に恋をしていた。当時の親友もその子のことが好きだった。親友と、おれと、その女の子と、その女の子の親友の4人は、その日、共同で夏休みの宿題(自由研究)をするという名目で会っていたのだった。

おれと親友はリアルな銃が見たかった。ふたりの女子は銃には興味がなかったが、宿題を1日で消化することには興味があったのだろう。そこで一挙両得(どころか3得も4得も)をはかるべく、警察官に話を聴きに行くことにした。派出所のドアはおれが開けた。不安神経症の疑いがあるくせに、わけのわからない行動力だけはあった。
「はじめまして。~小学校5年~組の寿と申します。今日は職業研究というテーマでいくつか質問をしたいのですが、かまいませんか?」
警察官は終始ご機嫌で、時に褒めてくれた。しかしそういう空気になればなるほど、銃を見せてくれ、とは言い出せず、結局、職業についての質問に終始するという、夏休みの宿題としては満点でも、少年の心にとっては零点の結果になってしまった(たとえ言っていたとしても、見せてくれたはずがないけど)。

ともあれ、この共同研究はプレミアムな利権だった。誰もがうらやむ既得権益だった。しかしクラスの男子が思い焦がれる女子が好きなのはおれの親友だった。それは何となく感じていた。それでもワンチャンはあるはず。おれたち4人は派出所でのインタビューを終え、公園でワキャキャした。公園の水飲み場の蛇口を目いっぱいひねったりなんかして、4人の体はびしょびしょになった。虎視眈々とワンチャンを狙うはずだったおれは、そのワキャキャで満足してしまった。ダサ、と言うなかれ。そこは小学五年生が望みうる最高到達地点だった。その水しぶきの勢いは、ほとんど世界新記録だった。

同じ女性を好きになった親友とは、小学6年生の3学期を境に疎遠になってしまった。どういう理由があったかは覚えていない。なぜかクラスの空気が彼を遠ざけたのだった。今になってみれば、クラスの男子の嫉妬がその遠因だったのでは、と思う。しかしどんな原因があったにしろ、彼を遠ざけた事実は変わらない。またぞろ、この身を縛る呪いが刻まれた。

卒業式が終わり、男3女3くらいでディズニーランドに行った。そこにかつての親友はいなかったが、その子は笑っていた。こんな幸せがあっていいのか、と思った。しかしこの恋は静かに終わる。別々の中学に通うことになったからである。

つづく
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8/28
夏休みの宿題2016
作者 寿
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ふと思う。スロ歴ってどれくらいなんだろう? 今年で20年? そんな経つ? ピーいれたいね。スロットばっか打ってるわけじゃなくて、普段は小説書いてんすよ。ちっとも売れないけどね。つうか売ってないしね。けどこのブログだと読めんすよ。フォウ!

ブログポリシー「my rights sometimes samurai!」
当ブログは、寿という人でなしが小説を書くなかで、
また、スロットを打つなかで、トレードをするなかで、
はみ出たものを一所懸命につづったものです。
基本的に毎日更新してはいますが、
毎朝グビグビ飲めるというほどあっさりした、
また、健康的な文章ではありません。
油ギトギトのラーメンというほどではないと思いますが、
胸焼け、食あたりを起こす可能性がある由、ご留意くださいますよう。

また、コメントは大歓迎です。
引用ももちろん大歓迎ですが、引用元の記事を明記していただけると幸いです。
それでは今日もはりきってまいりましょう! どこへ? チャートの世界へ。
1日1回のポチを。
血がたぎります。

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