いきなりこんなことを書くのも何なのだけど、横書きに慣れていない。


行間をこれくらいぽんぽんと空けることに対する違和感が、手を硬直させる。


ふむ。


まあ、しょうがないね。ぽんぽん空けてみましょう。



ポンポン。


Ponpon.



やってみれば、積み木崩しにも似た破壊行為だ。楽しいものだ。




よし。行こう。


200X年、ぼくは仕事をクビになった。


おそるおそる、付き合っていた彼女にそれを告げた。

「ごにょごにょごにょ」と。

彼女は笑顔で言った。「おまえの器に合う仕事じゃなかっただろ。良かったじゃねえか」(プライバシーの問題で、声色を変えております)

「もぐもぐもぐ」とぼくは冷たくなったマクドナルドのポテトを食べた。



数週間後、彼女は「で○ちゃった○○」(プライバシーの問題で一部伏字を入れさせていただきます)という偶然のきらめきの一致現象によって苗字が変わった。


どういうわけか、友だちが減った。


よくある話である。


あるある。


で、酒に溺れたんでしょ?


そうそう。


やけくそになって手を出したギャンブルでは連戦連敗。


うん。


何をやっても裏目に出る。


うん。


「そういうときは神様がくれたロングバケーションなんだよ」


という、一世を風靡しまくったゲックのごとく、ぼくは運命に身をゆだねることにした。


というのはウソで、気が狂いそうで、とにかく外に出たのだった。

何か計算ドリルのような単純な目的が必要だった。



ということで日本を一周することにした。

47都道府県を回った。


飛行機、電車、マイカー、原付、と、財政状況の移り変わりとともに、移動手段が変わっていった。


観光はほとんどしなかった。


本当にただ回っただけだった。


目的を設定したとはいえ、特に理由があったわけじゃない。しいていえば、桃太郎電鉄的な何かに期待した。社長、国王、大魔王みたいなキャリアアップ。あるいはRPG的なレベルアップ。


天孫降臨の地、宮崎県にて47都道府県制覇を達成した(そこだけはちょっと狙った)。


でも何も起きなかった。神龍があらわれるわけでも、体が光り輝くこともなかった。


素敵な出会いがあっただとか、試練に直面して覚醒しただとか、何かのスキルが上がっただとか、男前度に磨きがかかっただとか、そんなことはたぶんいっさいなかった。



こんなことはあった。


一般道を45キロで走行中に切符を切られた。


山道でタイヤがパンクして途方に暮れた。


整備不良で切符を切られた。


一日一食くらいで生活していたから、とても痩せた。


車の車検が切れ、ディーラーに引き取ってもらった。


燃費の良い原付を中古で買った。


野宿中、雨が降ってきてえらい目にあった。


砂利道でスリップして、原付がぼくを運転しているみたいな格好でぼくは気を失った。


バイクを直しがてら、近くにあった旅館に泊まった。

久しぶりの室内の寝床に安堵したのか、怪我の影響か、高熱が出て、三日三晩うなされた。


切り詰めに切り詰めたけれど、旅の終わりとともにお金が尽きた。


幸いなことに、ぼくには精神と時の部屋というところがあった。実家とも言う。実りはないが、頭を垂れた。


ぼくがこの旅で唯一したことといえば、全国のブックオフで105円の本を大量に買ったことだ。途中実家に送ったりしながら移動を続けたのだった。


それをせっせと読んだ。


人に会わなくなった。代わりに軽い筋トレとストレッチをするようになった。



なぜ、そんなことをしたのだろうか?


たぶん、何のために? と突っ込んでくれる人がいないからだ。


いや、違うな、その頃しきりに読んでいた村上春樹の影響だな。


何かことが起きる。

何をすればいいのだろう。

しょうがない。とりあえずまあアイロンでもかけるか、というような自制の態度である。



ぼくはアイロン台を出し、架空のシャツを広げ、ぬるま湯程度の温度にしかならないアイロンで、架空のシャツのシワを伸ばしていった。


そのようにして、ぼくは自室にこもって文章を書くようになった。



気づくとけっこうな年月が流れていた。

書いた文章は膨大な量になった。片っ端から清書して、目に付いた文学賞に送った。


落選に次ぐ落選。

ごく稀に一次を通ったり、二次を通ったりする作品ができた。

でも結局は落ちた。

落ちた。


何が悪いのか、自分では全然わからない。

ウソだ。

もうわかっている。

一言で言おう。


「我輩は、天才ではない」

それに尽きる。

あるいは、ぼくは村上春樹ではない。



以前書いたものを改めて読んでみると、村上春樹を劣化させたようなものばかりだ。


ぼくがせっせと書いていたものは、誰かの模倣に他ならなかったのだ。

ぼくは大きく息を吸い込み、そして、吐き出した。


ぼくという人間に先天的な才能は存在しない。


それでもぼくは文章を書きたいのだった。

ならば、ぼくはぼくの、ぼくにしか書けない(まだ地球上で書かれていない)ことを書かなくてはいけない。

決別のときがやってきたのだ。


村上春樹はこう言っている。


「人は何かを失ったぶん、べつの何かを得るための資格を得るものだ」と。

ありがとうございます。ぼくはこの言葉に救われました。

けれど、その言葉は同時に、ぼくに巣食ってしまった。



文章を書き、書き、書き続けて、ある日、ようやく気づいた。資格を得ることと、その資格を運用することは、別問題なのだ、と。


これがぼくの200X年から2014年までの遍歴である。

我が名は寿、これよりブログをはじめる。




要するに、さびしいのです。 


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