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このコロナ禍で、一軒のパチ屋がひっそりと閉店した。

お客様へ。閉店のお知らせ。貯玉の交換のお願い。交換の期日。そんな淡々とした情報が書かれた貼り紙を見て、いよいよ来たか、と思った。

ジグマの打ち手からすれば、マイホールがなくなるというのは、年収分の機会の損失ということになるのだろうが、もちろんそれはパチンコ店の健全な経営が前提の話であって、一軒のパチンコ店が閉店に至るには、さまざまな要因があり、ぼくたちにその一端がないとは言い切れない。

ここ何年かで、三軒もの馴染みの店が消えていった。

特に今回は、店員さんと仲が良かったというか、ライバルの少ないアットホームな雰囲気だったからか、ことのほかこたえた。

「やってますねぇ」
「やってますよぉ」

「打つ台ありますか(笑)」
「打つ台ありません(嘆)」

「いやあ、出ましたねえ」
「1000枚出たの初めてですよ。あの機種で」

そんな、どうでもいい会話はもうできないのだ。

「唐突ですけど、今度、子供、生まれるんですよね」
「マジですか? それはめでたい」
「今日もし勝ったらご祝儀くださいね」
「負けたら、どうしましょうか」
「勝ったときでw」

「子供、生まれました」
「おめでとうございます。未来のスロッターですね」
「いや、ギャンブルは絶対にさせませんw」

結局、ご祝儀は渡せずじまいになってしまった。

COVID-19というウイルスの出現で、本当に必要なもの/必要じゃないものの線引きを、地球上に住むありとあらゆる人間が迫られた。そして線を引いた。線の向こう側に、どうでもいい会話のようなものが置き去りになった。

これまで、期待値だとか、台ごとの平均消化時間だとか、店回りの効率だとか、自分にとって必要なものだけを手に入れようと、パチンコ店での行動を最適化してきたつもりだった。必要と不必要の選別は、パチスロで勝とうと企む人間の専売特許のようなものでもあった。今はただ、あの店でかわした会話が懐かしい。

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