パチスロは終わったとみんな言うけれど
(小説です)#9/10
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 これは、おれが悪いのだろうか。

 めっちゃ早口で説明しますけど、おれは、かつてのスロットの相棒であるヤマサ、の遺言なるものを託されたキャバクラ嬢リノ、に頼まれ、ヤマサの娘さんと夜を過ごすべく、スロットを早々に切り上げ、おれの住むマンスリー建物よりは幾らか快適だろうリノのアパートメントにやってきて、リビングでうだうだというかウトウトしていたわけなんですね。

 そこに入ってきたのが、このジジイで、おそらく、借金を抱えて出ていったリノの旦那で、そいつにおれは、金を貸せと脅されている。いや、言葉が悪かったかもしれない。脅されているではなく、懇願されている。

 これって、おれが悪いんですかね。おれが悪いなら、ここから去るし、逆に悪いのはこいつで、おれはこの場から全力で排除すべきなのか。あるいは、悪い人間なんてのはどこにもいなくて、ただ立場だけがあって、今はたまたま、立場が逆なやつがいるという状態なのか。その場合、おれは自分の主義を曲げるべきなのか、曲げないべきなのか。ウェアイズザ期待値? 何が正しいのか。誰か、教えてください。お願いだから。

 つうか、何でおれがこんなにも嫌悪感があるかというと、たぶん、借金というものが、おれの中でありえない行為だからで、どうしてありえない行為かというと、借金だけはするなよ、みたいなことを、聞かされて育ったから。たぶん。それ以外の理由はちょっと思いつかない。

 冷静に考えてみると、怒る必要なんてぜんぜんないのだ。借金それ自体は、法律違反でも何でもないうえに、金を貸しているのはおれじゃない。利害関係があるわけでも、危害をくわえてくるわけでもないのだから、勝手にしろという話なのだ。こいつはどうせ、仕事に行ったであろう奥さんの居ぬ間にここに忍び込んで、金目のものを持って行こうくらいの目的なんだろうし。

 ただ、おれのこの嫌悪感が、親の影響だとして、こいつの親は、それとは逆に、男の価値は幾ら借金できるかで決まる、みたいなことを吹き込んでいたとしたら、こいつの行動は、親の言うことを忠実に守っただけであって、その場合、おれが借金をしないのと、こいつが借金をくりかえすのは、同じことをしているだけということになる。そして、その可能性は、なくはない。

「どうしたんですか?」ヤマサコを抱えたまま、考え込むおれを、心配するような態度でジジイが言った。
「どうして、借金なんてするんですか?」
 おれは、大丈夫だよ、とヤマサコの肩に手を回しながら言った。
「金を借りると、金に困らなくなるという話を聞いたんですよ」
「は?」
「あのですね、いいですか。A社から金を借りますよね。A社に返すお金を、B社から金を借りる。B社に返すお金をC社に借りる。そうやっていったら、無限にお金を借りられることになりますよね?」
「へえ。そんなこと、考えたこともなかった」と、おれは言った。
「でしょう? これは、発見だ、と思いました」
「ふうん」おれは、小声で(こいつの発言から、身のうちに発現した苛立ちのヴォリュームで声を出すと、ヤマサコが泣き出してしまいそうなので、小声で)「それで、幾ら借りたんですか?」と聞いた。
「ざっと、1千万くらいですか」
「へえ」やばいやつだ、という素直な感想と、おれにそんな金を借りるのは不可能だ、という複雑な感情が、心の中で戦っていた。
「でも、ほとんどが利息みたいなもんですけどね」
「はい?」
「いやあ、利息って、増えていくんですね。知りませんでした」
「……」
 ヤマサコを見ると、ぜんぜん怖がっていない様子。むしろ、ジイさんに近づこう、近づこうとしている感がある。悪いやつではないからだろうか。それとも、こいつに洗脳されているからだろうか。いや、子供を洗脳するような悪意や知性は見当たらない。それでも園長という職にあったのは事実なのだ。

 騙す/騙されるという関係で考えてみれば、明らかに頭のよさそうな人間より、明らかに阿呆に見える人間の方が危険だ。頭がよさそうな時点で、人は警戒する。そんな状態で人を騙すのは、なかなかに骨が折れる。しかし、阿呆に見える時点で、なめてしまう。なめられている前提で、人を出し抜くのは、監視されているよりもずっと簡単だ。みたいなことを、昔さんざんヤマサと話したな、そんなことを思い出しつつ、ジジイの顔を覗いた。

「あの、お金の件は前向きに検討いただけましたでしょうか」覗かれている方のジジイが言う。
「金を何に使うの?」
「さっき言ったように、ご飯を食べておりませんで」

 金を渡して帰ってもらおうか、というのが、かなり有力な選択肢として浮上してきた。が、こいつの懇願を聞き入れた結果、今後、金をねだられ続けたらどうする? 一度貸してしまったことが、命取りになるのではないか?

 ……おい、ヤマサ、これ、どうしたらいいんだ? と、いって、死んだやつに何を問いかけたところで、返って来ないのだ。

つづく
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