パチスロは終わったとみんな言うけれど(小説です)#8/10
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 ズギューンと、おれのそれが起き上がっていた。

 はあ? 今のリノの話のどこに興奮要素があった? おれは不幸な話フェチか何かなのか? そんなフェチがあるのか? 頭おかしいんか? 意味がわからなかった。もういい、意味とか仕組みとか期待値とかどうでもいい。

「わかった」と、言って、リノを抱き寄せた。わかった。便利な言葉だ。わかっているのは、自分の性欲に火がついていることだけなのに。リノの口からは煙の匂いがした。

 明日も早いから、帰らないと。リノは言った。情けなさ、気まずさ、申し訳なさ、色々な感情がごちゃまぜになって、おれは泣いた。で、帰って、エロ動画を見て、興奮しないことを確認し、少し傷ついた後で掃除をして、眠りについたのだった。


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 ヤマサコと初めて会ったのは、次の日の夕方だった。リノと3人で、サイゼリヤでご飯を食べて、リノのアパートメントに向かった。リノが化粧をして、仕事に行ってしまうと、ヤマサコと2人きりになった。

 何や、この状況は……

 ヤマサコこと、ヤマサの娘、マサコは、ほぼ口を開かない。さっきからしゃべりかけてはいるものの、反応らしき反応がない。あっても微少なもので、解釈が難しい。といって、電池の切れたロボットのような感じでもなく、何やらよくわからないごちゃごちゃしたタッチの絵本をじっと見つめている。ヤマサとよく似た顔の綾波レイという感じ。

 おれはおれで、大学を中退して以来、家や親戚の集まりに寄り付かなくなったのもあって、これくらいの年代の子と話す機会がないうえに、そもそも、人と話すのが得意じゃない。ヤマサコレイVSコミュ難スロ専。ファイ。といって、何に勝てと?

「お風呂入る?」「そろそろ寝る?」と、聞いてみてはいるものの、ヤマサコはうっすらと首を振って、絵本に目線を落とすばかり。そのうちに、やることがなくなったおれは、リビングのソファに座ったまま、ウトウトしてしまった。

 ガタン、という音に、ヤマサコが反応し、絵本を落とした音で、おれは目が覚めた。
「誰ですか?」リビングに入ってくるなり、そのジジイはそう言った。
「そっちこそ誰だよ? 警察に電話すんぞ、おい」おれはビビりつつも、ヤマサコをそばに引き寄せてそう言った。しかし、あろうことかヤマサコは、ジジイのもとに歩き出そうとする。何だろう。この気持ちは……

 おれは、立ち上がり、歩こうとするヤマサコの体を手で制し、「帰れよ」と言った。
「あなたがどなたかは存じませんが、ここはわたしの家なんです」
「は? リノの家だっつうの」
「りの? ああ、源氏名ですね。ここは、彼女の家であると同時に、わたしの家でもあるんです」
「うるせー。ジジイ。殺すぞ。コラ」
 何という口ぶりだろう。おれの憧れる悪党は、こんなしょうもない言い方はしない。しかし、我がことながら、自分の感情が、不思議だった。それは明らかな怒りだったのだ。
「おまえがその、なんとかって施設の園長なんだろ?」
「児童養護施設ですかね」と、ジジイは言った。「まあ、帰るところはここなんですけど、消えろというなら、消えますけど。お金を貸していただければ」
「は?」
「昨日から、ご飯を食べてなくて、死んじゃいそうなんです」
「じゃあ、死ねよ」
「何で死ななきゃいけないんですか」
「あんた、借金があるんだろ」
「そうですけど」
「けど、何?」
「それとあなたに何の関係が?」
「リノは、おれの仲間だから」
「だから何ですか?」
「仲間は助け合うものだろ」
「そうですか。じゃあ、わたしも、仲間ですよね? 助けてください」
「いや、初対面だし」
「その子とあなたは、旧知の仲なんでしょうか?」
「いや、会ったのは今日」
「じゃあ、条件は一緒です。その子を助けるなら、わたしも助けてください」
「……あんた頭大丈夫?」
「大丈夫だと思いますけど」
「けど、何だよ? つうか、けどけどうるせえな」
「頭は大丈夫だと思いますけど」
「大丈夫に聞こえないから聞いてるんだけど」
「今、あなたも、けど、で語尾を終えましたね?」
「真似してるんですけど」
 どういうわけか、腕の中のヤマサコが泣きそうな顔で立ちすくんでいた。

 ……あれ、これ、おれが悪い空気になってないか?

つづく
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