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しゃっせー、しゃっせー(いらっしゃいませ、いらっしゃいませ)

書くこと、賭けること 寿

パチスロは終わったとみんな言うけれど(小説です)
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 何かが、明らかに、前の世界とは違うのだった。

 ”お”のつくもの、おっぱい、お尻を見たり、触ったり、というか、”お”のつくものを、思ったり、連想するだけで、起動するもの。そんなシステムが、長年、おれの中心にあって、それは空気や水を欲するのと変わらないような生成システムで、それがあまりに自動的なものだったから、システムが起動しなくなる日が来るなんて疑ったこともなかった。嫌々連れていかれた風俗ですら、”お”のつくものには飛びついた。それは大前提的によいものだったのだ。

 その日、おれのOパーツは、どれだけリノに触れても、触れられても、ピクリともしなかった。歩きながら、あまりの情けなさにおれは泣いた。

 ラブホを出て、マンスリー建物に帰ってきたのは朝方で、そんな時間にもかかわらず、どこかの部屋で、チャイムが鳴らされていた。ここまでくると、誰かが鳴らしているのではなくて、むしろこの建物じたいが共鳴しているのかもしれないかった。リンポーン、と。知らねえ。おれはノートパソコンを開いて、エロ動画を漁った。古今東西、さまざまなジャンルの映像を見ても、そんな気分にはなれず、しまいには部屋の掃除を始めていた。もはや朝というよりも、昼に近い時間だった。

 この際、全部捨ててしまおうか。全部? 自分のものといえば、衣類、スマホ、ノートパソコン。ほとんどの家具は備え付けだった。何だ。おれはすぐにでもここから出ていけるのだ。ふん。パチ屋なんて、別にどこにだってあるんだし。ここである必要なんてまったくないのか。と思いながら、ベッドに横になった。いつの間にか眠っていた。


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 ヤマサとともにスロットを打つ夢を見た。快勝し、酒を飲んで、風俗に行った。まさしくギンギラパラダイスだった。何だ余裕じゃん、と思ったところで目が覚めた。あれ? 友達は? アサダチフレンズがいなかったときの落胆たるや。

 15年寄り添った相棒ことヤマサは、別にスロットメーカー山佐の回し者でも何でもなく、ヤマダマサトというのが本名だ。たぶん。そのヤマサに、子供がいるとリノが言った。そして、写真を見せてくれた。だから何や? というのがおれの偽らざる気持ちで、この意見はハッキリと言った。「だから?」と。
「ブッキー、ネグレクトって知ってる?」
「育児放棄、だっけ」
「そう。本当はヤマさんが引き取りたがったんだけど、病気のことがあって」
「意味がわからないことが2つあるんだけど」とおれは言った。
「何?」
「ヤマサは、自分に子供がいる事実を最近知ったってこと? それと、元カノっていう理由だけで、そんなややこしいことをリノに頼んだの?」
「そう。わたし、昼間は児童養護施設に勤めてるのね」
「そうなんだ」
「うん。でも、お金になる仕事じゃないし、夜は夜で働く必要があって」
「ああ」
「それで、今の店も、ヤマさんが紹介してくれて」
「あいつ、そんなことしてたのかよ。で、その子がどうしたの?」
「ブッキーにまかせたいって」
「はあ?」
「あいつはいいやつだから、きっと助けてくれるって」
「……おれが何もしなかったら、その子はどうなるの?」
「そのままだよ。児童養護施設で生活する。働いているから言うわけじゃないけど、わたしのところはそんなに悪くない場所だと思う。でも、やっぱり家庭との違いはどうしようもなくある。それはもうどうしようもなく」
「おれに、面倒を見ろって?」
「それはわたしが決めることじゃない」
「無理でしょ。普通に」
「そう? どうして?」
「その子、何歳なの?」
「5歳」
「その子と一緒に生活をしたとして、年齢的に、保育園か幼稚園に入るわけでしょ。朝、起きる。その子を送って、おれはパチ屋に向かう。その子の名前は?」
「マサコ」
「は?」
「ヤマダマサコ」
「ヤマサでヤマサってそれどういうネーミングセンスなん?」
「それはちょっとわたしにはわからないけど」
「まあそれはいいとして、マサコを保育園か幼稚園に送って、おれはパチ屋に向かう。で、スロットをいったん切り上げて、保育園か幼稚園の終わる時間にマサコを迎えに行って、ご飯を食べさせて、寝かせて、おれはまたパチ屋に向かって、閉店まで期待値を追って、また朝起きて、ってそんな生活できるかよ」
「どうして?」
「色々な意味で間違ってる気がする」
「ひとりで打ってるときは間違ってなくて、ヤマさんとふたりで打ってたときも間違ってなくて、そこにマサコちゃんが加わると、間違ってることになるの?」
「マサコは子供で、おれはおっさんで、子供にはちゃんとした親が必要だろ」
「ちゃんとした親がいなかったから、児童養護施設で保護されたんだよ」
「その親と同じように、おれだってちゃんとした人間じゃない」
「ブッキーは違うよ」
「何が違うの? 37歳無職カッコ(スロプ)よ?」
「自分では問題ないと思ってるから、続けてるんでしょ? だったら、胸を張って、スロッターの背中を見せてあげたらいいでしょ」
「ありえん」おれは首を振った。
「ブッキーは自分の生き方を肯定できないの?」
「できない。めんどくさい。何もかんもめんどくさい。ぶっちゃけ生きてることもめんどくさい。それに、いつまでスロットで食えるかわからないし、そんな人間が、子供を育てる? 無理だろ」
「お金のことなら、たぶん、その子が成人するくらいまでなら、何とかなる、と思う」
「お金が何とかなるなら、リノが育てたらいいんじゃないの?」
「そうしたいのは山々だけど、わたしにも色々事情があって」
「そんなんずるくね? 事情って言葉でまとめられるなら、おれのスロットとか、うしろめたい、めんどくさい、気乗りしないってのも事情じゃねえの」
「さっきは、そのままって言ったけど、彼女が今、生活を送っている児童養護施設はなくなるの。というのも、その施設の園長というのが、わたしの夫で、もともと資金繰りがうまくいってなかったってのもあるんだけど、それとは別に、彼には借金があって、つい先日、書き置きがあって、いなくなった。今は、生死もわからない。児童養護施設は、来月か、再来月いっぱいで閉めざるを得ない。だから、どちらにしても、彼女の受け入れ先を探さないといけないんだ。重い話で申し訳ないんだけど」

つづく
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