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愉快なもの、阿呆なものを、できるだけ阿呆なものを、と意気込んで文章を書き始めたものの、2日目にして、物語が進まなくなりました。どこで何を間違えたんだろう? いや、頑張ろう。頑張れ。

書くこと、賭けること 寿

パチスロは終わったとみんな言うけれど #2/10

これは、小説です
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 献杯、と、リノは言った。
「何でそんな言葉知ってんの?」
「エスパーだから」
「ああ、そう。ケンパイ」
「献杯。もう一杯飲んでもいい?」
「うん」とうなずいた。「どうせなら、もう少し原価の高いやつにしてね」
「やっぱ細かいじゃん」
「うん」
「じゃあビールにする。ブッキーは焼酎でいいの?」
「うん」
「すいませーん」リノは硬質の声で言った。わたしにビールください。
「おれのことブキって呼ぶやつ、リノしかいなくなるな」
「わたしが呼んでるのはブキじゃなくてブッキーだよ」と言って、リノは笑った。「そうか。朗報。わたしのことをおまえって呼ぶ失礼なやつが、ついにこの世界からいなくなった」
「ああ、そう」
「ヤマさんのこと考えてるの?」
「ちょっと、能力抑えてくんない?」そう言って、クソまずい焼酎の水割りに口をつけた。
「てか、ブッキーとふたりって初めてじゃない? 何気に」
「一人でこういう店に来るの初めてですね」
「初めての相手にわたくしを指名していただき、光栄至極に存じます」リノは頭をぺこりと下げた。「本当は、聞いてたんだ。もう長くないかもって。あいつのこと、気にかけてやってほしいって言ってたよ。ヤマさん」
「……」

 ヤマサに出会ったのは、いつだった?

 たしか、大学在学中の22歳のことで、以来、15年にわたってパチ屋がバラまく餌を掠め取って生きてきた。少なく見積もっても、ふたりで1億は稼いだはずだ。が、そのほとんどは、生活費と夜の街に消えた。

 自分のしていることに疑問はなかったし、将来に対する不安もなかった。なぜかといえば、パチンコ/パチスロがあったからで、パチンコ/パチスロというギャンブルは、一貫して、客に勝つ可能性を与えてくれたからだ。

 普通に考えれば、そんな都合のいいことがあるわけないし、仮にあったとしても、続くわけがない。そんなおかしなことが、実際にあって、しかも続くだなんて、容易に信じられるものではないが、しかし目の前で起きていることは現実だ。おれとヤマサは、その現実に乗った。

 ほとんど毎日一緒にいて、それで特に喧嘩もせずに15年やってこれたということは、縁があったのか、相性みたいなものがよかったのか。

 風俗は苦手だったが、自分の手で外に出すのも、他人の手で外に出すのも、現象としては同じことで、精子を精巣にためることは、たぶん精神衛生上好ましくなく、あいつが風俗行くべと言えば、しゃあなしに付き合った。それで、特に何の問題もなく、日常は回っていたのだ。

 雨が降っていた。頭が痛かった。ちくしょう。飲みすぎた。

 昨夜はキャバクラを出た後、ピンサロに行った。風俗が苦手だ、とかほざきながら、行かずにはいられなかった。で、人生初のタタずイキというのを経験した。そんな言葉があるのかどうかは知らない。タッテもいないのに、イッテしまう。そんなことってありますか? 年齢によるものなのだろうか。それとも、精神がまいっていたからか。肉体よりも、精神が二日酔いの様相を呈していた。
「昨日はありがとう(スタンプ)」
 リノからのラインを読んで、もう一度目を閉じた。眠れそうになかったので、シャワーを浴びて外に出た。

 パチ屋に入って、期待値を追った。5万負けた。スロットで飯を食う身としては、負けることにいちいち腹を立てていては話にならない。これはただの必要経費なのだ。酒を飲もうと居酒屋に入った。サッポロ黒ラベルの生ビールを飲みながら、アジと大葉の和え物を食す。美味い。が、何かが足りなかった。

 何が足りないんだろう。

 パンドラに行くことにした。リノはいなかった。店は昨日よりも更に空いていた。他愛のない会話を女の子2名とかわし、1時間で切り上げてマンションヘルスに行った。あれだよ? 本当に、風俗は苦手なんですよ。ただ、何だろう、悔しさみたいなものがあったのだ。そう。昨日は口だけだったから、タタなかったのだ。そうだ。そうに違いない。しかし、おれは、昨夜と同じ感情を味わうはめになった。タタず、イキ。およそ精通に関し、こんな不快な事象はあるだろうか? ささやかな雨を浴びながらマンスリー建物に帰る。今年、おれは37歳になる。

 小さい頃から、死ぬ年齢は決まっていると思っていた。17歳か、27歳か、37歳。そのうちのどれかで、この世界からおさらばする。そう思い込んでいた。7という数字が好きだった。47歳まで生きる気はしなかった。であればこそ、大学を辞めることも、社会のレールから外れることも、迷いなく選ぶことができた。ただ、自分が死ぬ覚悟はできていても、相方の寿命が37歳で尽きるのは想定外だった。まさかのまさか。開いた口がふさがらないというのは、このことだわ。まったく。

つづく

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