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「リール一周のスピードで 第三章」
~山賊スロット28~


 自尊心とパンツは、ゴミ箱に捨ててきた。

 彼は、どこに向かうのだろう? 血の涙の代わりに、液体状の便を垂れ流した修羅に、行くあてなどない。あの薄暗い部屋には、ブランケット一枚のカナちゃんと、リバの兄が2人きり。どう考えても、どのような角度から考えても、あの2人は、ことを始めているだろう。当たり前だ。おれがそうしたいのだ。誰だってそうしたいはずだ。

 どのような角度というのは、カナちゃんの気持ちだったり、事情だったり、あるいはリバの兄の気持ちや事情もあるはずだが、修羅と化してしまったタツゾーくんに、客観的という概念は存在しない。

 行く場所はない。帰る場所もない。修羅は、薬をキメた人のように、目が据わっている。もう、何も感じない。何も考えない。そんな修羅の姿を目にした真夜中の通行人は、ヤバイ人おる。この人とはかかわらんとこ。という顔で、避けていく。いや、目が据わっているどころではない。憎悪の炎で燃えている。修羅は他者を威嚇する。威嚇された人は萎縮するか、腹を立てるか、あるいは無視するかの三択を迫られる。そう、修羅が求めているのは、敵なのだった。

 すべての通行人は、修羅を無視して、通り過ぎる。ふと、修羅は思う。なぜ、おれは、こんな風になってしまったのか? パンツを失い、カナちゃんを失ったのは、誰のせいなのか? 

 脳裏に浮かぶのは、一人の男の姿だった。そう。この状況は、全部あいつのせいだ。タクマ。兄ではない。弟の方。あいつがいなければ、こんなことにはならなかったのだ。常人には、どういう理論かはさっぱりわからないが、とにかく修羅の憎悪の炎は、リバに向いてしまった。

 修羅に名指しされたリバは、今どこで何をしているのだろう? 時間は少し、巻き戻る。


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 リバの兄が、リバの足を刺し、そのサバイバルナイフをポケットにしまい、トイレに立った後、その広いカラオケルームに一人の男が入ってきた。
「大丈夫?」横たわるリバに声をかけたのは、サカシタくんだった。「タクマくん、だよね?」

 小僧いわく、キツネ顔の男、サカッチことサカシタくんは、16時~22時というシフトでバイトに来たばかり。半透明のガラス窓から、人が倒れているのを見つけ、あわてて駆けつけたのだった。
「……誰や? サカシタ? ああ。すまんけど、ちょっと、肩貸してくれんか?」
「いいけど、大丈夫なの?」
「大丈夫や。ほんで、悪いけど、ちょっと、部屋代を精算してくれんか? お前、店員やろ? この部屋じゃなくて、向こうのフロントの前の部屋なんやけど」
「わかった」
 アルバイトリーダーであるサカシタくんは、少し時間が過ぎていたが、2時間飲み放題の2時間で時間を切って、レシートを持って来た。
「すまん。ありがとう」と言って、リバは外に出ようとした。が、足がふらついてどうしようもない。歩き出したはいいが、転んでしまう。見るに見かねたサカッチは、外に出て、肩を貸すのだった。


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 中学の頃のサカッチは、5段階のピラミッドからなるスクールカーストの、下から2番目あたりでじっとしていた。今でこそ、ノリの良さを身上としているが、これは、高校で花開いた資質であって、当時のサカッチは、ただの暗いやつだった。勉強はできるが、運動神経があまりよくないガリ勉タイプのソノダくん(帽子プロ)も、同じ層か、よくてもう一つ上の層で生活していた。

 対して、タツゾーくんは、ナミ中3年3組の、トップオブトップというべき地位を確保していた。頭はそれほどではないが、顔がよく、運動神経がよく、ノリがよく、かつ、下位カーストにいるクラスメイトに対しても、偉そうにしない。それでいて、リバのようなスクールカーストから外れたアウトサイダーとも対等に渡り合えるコミュニケーション能力。誰かに打ち明けたことこそないが、サカッチが後天的に獲得したノリの良さは、別の高校に進んだタツゾーくんの真似だった。

 中学校生活を通して、リバとはほとんど話したことがなかった。怖くて話しかけられなかったし、実際当時のリバにとって、クラスの男子というのは、三角コーンのようなものだった。おれの歩く道の前にあれば蹴飛ばすし、なければ目に入らないというような、どうでもいいものだった。そんな風に、周りを見ているから、リバはいつも痛い目を見てきたのだろう。三角コーンがなぜそこにあるかといったら、その先は危険(あるいは工事中)という意味なのだから。

 ともあれ、その室内には、スロット終わりのソノダくんと、バイトを早退したサカッチがいた。
「どういうことだよ」部屋の持ち主である、ソノダくんが言う。
「だって、うち、実家やし。お前くらいしか、頼れるやつおらんかったし」
「いや、こんな怪我してるやつ連れてきて、どうするつもりなんだよ?」
 シングルベッドの上で寝ているリバを見つつ言った。
「病院は行かんって言うけん」
「知らんけど、何でおれんちなんだよ」
「やけんお前しか頼れるやつおらんかったんやって」
「……」ソノダくんは、これ以上話してもしょうがないとあきらめ、「シャワー浴びてくるわ」と言って立ち上がった。

 まあ、スロットのことはいい。年末やし、設定も入らんことやし、人多いし、早上がりしたことの機会の損失は、別にいい。タクマが怪我したのも、別にいい。他人やし。おれの痛みやないし。ソノダくんのイライラの原因のもとは、おれが、タクマの兄ちゃんの情報を、タクマに教えたから、タクマが怪我したのかもしれない、という理路だった。帽子プロは、スロッターの鑑のように論理的な男だった。……だとすると、おれにも、責任はあるんかなあ。それやったら、おれんちにタクマがおるのも、まあ、しょうがないのか。帽子プロはシャワーにうたれながら、そこまで考えると、シャワールームを出て、新品のボクサーブリーフを穿き、新品のTシャツを着た。

 帽子プロが住んでいるのは、1DKのマンションだった。彼の性格を反映しているように、部屋はきれいで、かつ整理整頓されている。帽子プロは冷蔵庫を開け、缶チューハイを2本取り出すと、ベッドルームにいるサカッチに、手渡した。
「ありがと」
「で、サカッチ、バイト休んだんやろ? こんなかきいれどきに、大丈夫なの?」
「うーん、しゃあなくない? 状況的に」
「それはお前の都合やろ。店的に」
「まあ、明日から倍働けば、許してくれるんじゃないかな」サカッチは、楽観的な人間だった。そのあたりも、タツゾーくんと似ている部分かもしれない。
 ん? と言って、リバが目を覚ました。
「痛ってえ……」
「これ、飲んどきなよ」ソノダくんは言った。
「何?」
「抗生物質と、痛み止め」
 何が何だかわからないが、渡された薬を、リバは渡された水で飲み下した。痛む足を見てみると、包帯がしてある。こいつらがしてくれたんだろうか?
「ああ、それ、ソノがしてくれた。こいつ、何でもできるから」
「何でもはできない」帽子プロは首を振る。
「ええと、ソノダくんと、サカシタくん」リバは、日本語を学んでいる人のような言い方でそう言った。「迷惑かけたな。すまん」
 帽子プロとサカッチは、こいつ、こんなキャラだったか? という顔で固まっていた。
「すまんついでに何なんやけど、腹めっちゃ減ったんやけど、何かないかな」
「ええよ、今作ってくるわ」と、帽子プロは言った。「何でもええんやな」
「うん。ありがとう」
 サカッチは缶チューハイを一口飲んで、「な、何でもできるやろ」と言った。

つづく
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作者ひとこと 

昨日は聖闘士星矢海皇覚醒スペシャルの天井狙いを1台して、セイレーンのソレント(50%)に一撃でほふられました。

集中してスロ小説を書いていると、スロットちっとも勝てない説というのを検証したいところですが、そんなことをするよりは、小説の続きを考える方が良さそうです。

それでは、また明日お会いしませう。