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「リール一周のスピードで 第三章」
~山賊スロット25~    


 おれはこれから、どこに連れて行かれるのだろう? 拷問をされるのだろうか。犯されるのだろうか。マグロ漁船に乗せられるのだろうか。地下王国に連れていかれ、ペリカをめぐって労働させられるのだろうか。悪の秘密結社に売られ、怪人に改造されるのだろうか。タツゾーくんは、嫌な妄想を膨らませながら、リバの兄の後ろをついていく。

 そんなタツゾーくんの不安な心境を知ってか知らずか、リバの兄は、早足でつかつか歩く。5分、10分、リバの兄が足を止めたのは、雑居ビルの前だった。タツゾーくんの顔は真っ青だった。やはり、ここに誰か、悪いやつがいて、おれはここで、何かをされるのだ。肛門に、あるいは性器の表皮に異物を入れられるのかもしれない。臓器を抜かれるのかもしれない。不安をかきたてる狭い入り口を通り、極端にスピードの遅いエレベーターを待って、最上階に向かった。

 そこは、開店前のBARかスナックのようだった。
「ここは何ですか?」タツゾーくんは、おそるおそる、訊ねた。
「おれの寝床」と、リバの兄は言った。「まあ、座れや」
 スツールというのだろうか、背の高い、あまり座り心地のよくない椅子に、タツゾーくんは浅く腰をかけた。
「何か、飲むか?」
「お水をください」と、タツゾーくんは言った。飲み放題で、飲みに飲んだというのに、ノドがカラカラだった。
「ビールでええな」と言って、リバの兄は、缶ビールをタツゾーくんに手渡した。
「ありがとうございます」
 タツゾーくんは、渡されたビールのプルトップを開け、ゴクゴク勢いよく飲んだ。そのビールはぬるかったが、ともかく液体だった。半分くらいを飲んで、ようやく人心地ついた。

 よくよく見てみると、確かにその空間は、客商売をしている感じではなかった。バーカウンターは残っているが、それ以上に存在感のあるサイズのベッドがあり、その横には小型の冷蔵庫が置かれ、裸の女性のポスターが貼られ、どことなく、生活臭のようなものまで漂っているようだった。落ち着いて景色を見回すと、またぞろ恐怖心のようなものが起き上がってくる。タツゾーくんは、ぬるいビールを飲み干した。
 それを見た兄は、ビールをもう1本手に取って、タツゾーくんに渡した。
「ありがとうございます」タツゾーくんは、プルトップを開け、ぬるいビールをゴクゴク飲んだ。
「これから、お前はニゴウな」
「……はい?」
ニゴウ。お前の名前や。おれが呼んだら、すぐに返事をすること」
 にごう? にごお? にごー? 頭の中でクエスチョンマークが踊っていたが、タツゾーくんに否定する権利はなさそうだった。
「……はい」
「ニゴウ、お前、仕事は?」
「今は、無職ですけど」
「前は何してたん?」
「ホテルのフロントで働いていました」
「ふうん。まあ、ええわ。ニゴウ、お前は今日から、ここに住め」
「……ええと、あの、どういう話でしょうか?」
「おれのファンなんやろ? じゃあ、おれの言うこと、聞くよな?」
「……へ?」
「おれの言うことには、『はい』か『いいえ』で答えろ」
「……はい」
「決まりだな」

 タツゾーくんの思考は、2杯目のビールを口にしたくらいから、ほとんど停止していた。というか、こうなった以上、リバの兄のシンパになった方が得だろうという算段もあった。繰り返すが、タツゾーくんは、穴を見ると飛び込んでしまう人間なのだった。3杯目のビールの後は、無色透明のテキーラがふるまわれた。タツゾーくんは、それを一気にあおった。


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 テキーラを飲む。塩をなめて、テキーラを飲む。もう、こうなりゃやけだ。飲んじまえ。テキーラを飲む。塩をなめて、テキーラを飲む。テキーラを飲む。テキーラを飲む。

 ……しんどいことを続けているうちに、急に、ふっと、楽になる瞬間がある。ランナーズハイと呼ばれる現象のような。いや、この場合は、ただアルコールが回っただけだが。

 ベッロベロに酔っ払ったタツゾーくんは、話の脈略をぶった切って、リバの兄に恋愛相談を始めたのだった。
「ねえ、兄貴、ちょっと、聞いてくださいよおお。カナちゃんっていうんですけどおおお」
「は?」
「マジでぇ、可愛いんすよおおおおおお」
「可愛いから、何なん?」
「宝物と言いますか。愛していると言いますか。もう、何言わすんすかあ。兄貴ィ。恥ずかしいなあ、もうううう」
「それはお前の気持ちやろ。向こうはどうなん?」
「わかりましぇん」
「……ニゴウ、お前はどうしたいん?」
「結婚したいんれすよおおおおおおおおお」
「結婚したかったら、したらいいやないか」
「えええ、そんなん言われてもォ、どうしたら、いいんれすかねえ?」
 リバの兄に対して抱いていた恐怖心は、どこかに吹き飛んでいた。リバの兄もリバの兄で、いつの間にか、『はいか、いいえで答えろ』というような、高圧的な態度ではなくなっていた。ニゴウことタツゾーくんの飲みっぷりに、感化されてしまったのだ。何という摩訶不思議な化学変化だろうか。これが、アルコールのなせるわざだろうか。
「お前は、結婚したい」
「はい」
「それやったら、後は、相手がオーケイと言えば、結婚は成立するんちゃうか」
 おおー。何と。そんな簡単に結婚はできるのか。さすがや。兄貴。さすがやー。タクマも、同級生が言うほど悪いやつじゃなかったし、人間、付き合ってみないとわからないもんやなあ。
「兄貴ィ。じゃあ、何て言ったら、オーケイと言ってくれますかねえ。ねえ、ねえ」
「そんなもん、決まってるわ」
「何すか、何スカ?」
「結婚しよう、や」
「おおー」と言って、タツゾーくんは立ち上がり、拍手をした。「『結婚しよう』……どうすか? いけまスかね?」
 うむ、という感じで、リバの兄はうなずいた。
「えー、でも、心配だなあ。もし、やだって言われたら、おれ、どうしようかなあ」
「しつこいな、おまえ。わかった。これから、その店、行くぞ」
「でも、おれ、今そんなに金がないです」
「今日は、おれが出す。その代わり、お前にしてもらいたいことがある」
「マジすか。何でもします」と言いながら、タツゾーくんは、リバの兄に抱きついた。まっかっかの顔で。

 はたして、どうなってしまうのか。

つづく
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作者ひとこと 

昨日のバジ絆は、BTを2回引いて、2連(追想強チェリースルー、絆高確「想」スルー)、2連(甲賀8:8伊賀/絆高確「恋+想」スルー)で、ちょい負けという内容でした。

また明日、同じ時間にお会いしませう。