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「リール一周のスピードで 第三章」
~山賊スロット11~



 パチ屋に行けば、期待値が落ちている。期待値は高確率でお金に換わる。その仕組みを共有する仲間がいる。仲間に利益をもたらすことは、自らがおかしてしまった過ちを償うことにつながる。

 リバは、これからのことを考えていた。これからを考えるということは、これまでを振り返るということでもある。おれの人生は、コオくんに捧げている。ということは、コオくんが嫌だと言ってこない限り、おれとコオくんは、運命共同体のようなものだろう。ということは、おれの抱える問題は、コオくんの問題ということになる。ほな、マツリちゃんのことも、まずは、コオくんに相談しよか。それが、筋というものではないか。

 この期に及んで、リバはおめでたい男だった。牙は怒るだろうな、とは思う。あいつはそういう男だ。
「はあ? リバお前、この子をどうするつもりなんや?」
 ほらね。
 牙が予想通りの反応を見せたのは、マツリちゃんが寝てしまい、マツリちゃんを前に大はしゃぎだったたけさんも寝てしまった後のたけさんの家の居間だった。
「しゃあないやんけ。ほな、あの子、どっかに放るんか?」リバは言う。
「何を言うてるん? 兄貴を探せや」
「探すって、あれをか? あのな……」
「何よ? 言えや。てかお前に兄貴がおるなんて、知らんかったぞ」
「言うてへんし」
「はあ? 言えや」
「言えんことやってあるわ」
「ないわ。少なくとも、おれには一個もない」牙は言う。
「それは、お前が恵まれてるからやろ」
「恵まれてるって何やねん。おれら親友ちゃうんか?」
「親友や。でも、それとこれは違う問題やろ。牙、お前、親友やからって、ケツの穴見せろ言うたら、見せるんか?」
「見せるよ。ぜんぜん」
「いや、見せんな……」
「おれが言うてるのは、リバお前、スロットはどうするんかってことや」
「もちろん、打つよ」
「パチ屋にあの子は連れていかれんやろ」
「保育園とかあるやろ」
「金はどうするん? それから、誰が連れて行くんや?」
「牙、おれら、家族みたいなもんやろ」
「いや、それこそ、それとこれは違うやろ」牙は、強い調子で否定する。「何がメインかって話や。お前の言う家族の中心には、『お前』、っていうか『お前の都合』があるやろ。違うやん。『家族』をメインで考えな」
「それは一理ある」リバがうなずいた。「おれらの生活の中心は、コオくんや。おれは、コオくんのしたいことを、サポートする。ほんで、その生活に、お前は付き合ってくれている。おれの認識やけど、そこまではオーケイ?」
「オーケイ」
「その生活に、新メンバー加入。マツリちゃん。あかん?」
「あかんとかあかんくないとかじゃなくて、子供は親元で育てるべきやろ」
「いや、そんな正論なんか意味ないねん。あんな、一つ言うとくわ。世の中にはマジでやべーやつがおるんやって。それが、うちの兄貴や」
「言われてへんから、そんなん、知らんし」牙は、若干、すねたような態度で言った。
「わかるやろ、何となく」
「わからん。なあ、お前の見えている世界と、おれの見えている世界は違う。言わな、言われな、わからん。違うか?」
「……」
 いつだってリバは、過去の出来事をうまく言葉にできなかった。それは、そういうことをしたくない、という強力な蓋が、それをすることを、はばんでいたのだ。ともあれ、そんな場合じゃないことも、リバはわかっていた。
「なあ、おれ、弱点があるんやけど」とリバは言った。「弱点さらすんやから、お前も覚悟しろよ」
「何や、覚悟って?」
「聞く覚悟や」
「……何や、聞く覚悟って?」
「お前が思ってるよりしんどい話でも、最後まで付き合えってこと」
「わかった」
「おれ、ぶつぶつがあかんねん」
「はあ?」
「ぶつぶつを、よう見れん」
「意味がわからん」
「ぶつぶつ、あるやろ。ぶつぶつを見ると、悪寒がする。ゲー出そうになる」
「高所恐怖症みたいな?」
「高所は大丈夫や」
「そういうことちゃう。高所恐怖症とか、閉所恐怖症みたいな、恐怖症ってやつちゃうの?」
「知らんけど、とにかくぶつぶつが嫌なんよ」
「……てか、ぶつぶつって何?」
「点々でもええけど、細かいもんがぎゅっと集まってるのがあかん」
「ふうん」牙は、他人事のように、いや、実際他人事なのだが、うなずいた。
「牙お前、これを簡単に考えるなよ」
「だって、わからんもん」
「お前には怖いもんないんか?」
「いや、苦手なもんはいっぱいあるよ」
「何よ?」
「女の人、とか……」
「はーん」リバは、他人事のように、もちろん他人事なだけに、牙の話を流そうとした。「女は別に、お前のこと襲ったりせんやろ? おれはぶつぶつに襲われるんやぞ」
「ぶつぶつに襲われるってどういう状態や?」
「あいつらは、何もせんよ。でも、おれの体内があいつらから何かを感知して、逃げようとするんや。とにかく、嫌やねん。ぶつぶつが嫌やねん。冗談抜きで。真剣に。そこはわかってもらわんと、この先の話はできん」
「わかった。お前は、ブツブツが怖い。オーケイ?」
「オーケイ。で、おれのその弱点を知ったあいつは……」
「待て待て、あいつって誰や?」牙は、落ち着け、というようなジェスチャーで、リバの言葉をとめた。
「兄の話やろ? あいつは、3歳だか4歳のおれに、ぶつぶつの画像を、延々と見せてくるんよ。おれは泣き叫ぶ。あいつは笑う。これがおれとあいつの関係の原点にして頂点なわけよ」
「どっちにしろ点やん。お前の苦手なやつやん」
「うん」
「お前の兄貴は、悪いやつってことやな」
「まあ簡単に言えば」簡単に言えないから困ってるんやけど、と思いつつリバはうなずいた。
「その弱点、でもけっこうやばいな」牙は苦笑した。「そんな柄のタトゥを顔に彫ったやつおったら、お前の攻撃力ゼロになるやん」
「やめろや。そんなん言うの。想像するだけで吐き気する」
「でも、たとえば、台取りのときに、そんなやついたら、お前絶対負けるやん」
「だから、弱点ってのは、人に言うもんじゃないやろ。それを言ったんやから、察せや。察しと思いやりは、お前の得意ジャンルやろ、牙」
「え? おれそんなやつやった?」
「頼むぜ、皇帝」
 リバが、思いのほか真面目な顔だったので、牙はうなずくしかなかった。
「で、あの子はどうするん?」
「そんなやつの手元に置いておくわけにはいかんやろ?」


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 パチ屋に行けば、期待値が落ちている。期待値は高確率でお金に換わる。その仕組みを共有する仲間がいる。仲間に利益をもたらすことは、かつての過ちを償うことにつながる。それは、牙とリバにとって、これ以上ない素晴らしい物語だった。

 牙、リバ、小僧という山賊団。たけさんという、人たらしのお父さん。りんぼさんという怖い叔父。僕という地味な兄。そんな擬似家族に、マツリちゃんを迎えるべきかどうか。この物語は、どうすれば続けることができるのか。2人が話し合っているのは、そういうことだった。

 家主であるたけさんの意見はこうだ。
「大歓迎。おじいちゃん本能がくすぐられるのは嬉しい」
 おじいちゃん本能というのが、母性本能と同じように存在しているのかどうかは(また、母性本能というのが本当にあるかどうかも)さておき、リバは、マツリちゃんをこの家に連れてきた後で、がっつり昼寝をしていたから割と元気。対して、がっつり山賊稼動をしてきた牙は眠い。そうすると、どうしたって、リバの意見の方が強くなる。
「牙お前さあ、女の人が苦手って言うてるけど、子供も苦手やろ?」
「まあ、そうなあ」牙はうなずく。
「子供と喋れん男は、女ともうまく喋れん。何でかわかるか?」
「わからん」そんな話はしたくないんやけどなあ、でも、お前の弱点の話を聞いた手前なあ、という複雑な顔で牙は言った。
「お前が何で女とうまく喋れへんかって言うたら、格好つけてるからや。自分をよく見せようみたいな気持ちがあるからや。なあ、牙、これは、神様が与えてくれたチャンスやと思うんや。天があの子を遣わせてくれたんや、と」
「……なあ、何で、おれの話になってるんや? 一番の問題は、あの子がどう思てるか、やろ。ご両親に問題があるんやとしたら」牙は、眠気をこらえて正論を言った。
「ほな、お前は、あの子がここで暮らしたい言うたら、あの子がここで生活できるように、応援するんやな?」
「まあ」うまく言いくるめられてる感はあったが、牙はうなずいた。
「じゃあ、明日聞いてみようや」
「そやな。ほな、……おれは、寝る」牙はそう言うと、意識を失ってもいいという指令を、肉体に出した。

 過去の話を言葉にしたことで、リバは不思議な興奮に包まれていた。とはいえ、リバはいつでもどこでも眠れる特殊能力の持ち主でもあった。今日も、深夜の竹田家に、3種類のいびきが響く。

つづく
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作者ひとこと

苦手なものを口に出せるようになると、苦手の質が変わることってありますよね。克服とはまた違うのでしょうけど。

次回は、8/30頃更新予定です。