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「リール一周のスピードで 第三章」
~山賊スロット10~


 パチスロ花の慶次のキャラクター、伊達政宗は声高らかに言う。
わしの隻眼はものを見ることはできぬ。だが、人の心が見える」と。

 眼帯という共通点はあっても、小僧の目に人の心は映っていない。小僧の目は、期待値を追っている。至近距離でないと見えないため、小僧はぎりぎりまで顔を近づけてデータロボを見る。そんな小僧の動作は、とても目立つ。目立つことを知っている分、動作を最小限に留めようとする。

 小僧は、パチ屋にいる他者の顔をほとんど見ていない。片目が眼帯でふさがっているうえに、見えている方の目も弱視のため、正面からじーっと見ないと、うまく像を結ばないのだ。山賊団を結成した当初、牙とリバは、小僧のガードマンというような立場でもあったのだが、あまりに小僧の立ち回りがスムーズだったからか、その役割を忘れてしまったようだった。

 結局、リバは、朝になっても帰ってこなかった。牙は怒っていたが、まあ、しょうがない。多少期待値は減るだろうが、一人ずつの取り分はさほど変わらないだろう。2人で店回りをすることに、特に問題はなかった。

 小僧は、天井に近い台を発見し、遊技を開始した。これを、天井狙いと言う。2014年のパチスロ台の多くは、天井という、大当たりが遠くなった台に、強制的に大当たりを成立させる救済措置が施されており、その天井に近いところから打てば、まず負けない。まず負けないことをくりかえせば、お金が貯まっていく。これが、山賊団の戦略の根幹だった。





















 何だ? この唐突な空白は? 




 3枚目の千円札を入れたところで、台がフリーズしたのだった。いや、そうか。フリーズというのも、スロッター用語だった。台の故障ではない。選ばれし者のみが許される、絶対に遊技が許されない特別な時間のことである。
『全回転フリーズ』
 あのタイミングで誰かにぶつからなかったら、このフラグは引けなかったかもしれない。小僧はぶつかってしまった誰かに感謝しつつ、打てる状態を待った。
「これでいいのか?」という声が聞こえたのは、レバーを叩こうとする、まさにその瞬間だった。
「いい」と、小僧は思った。
「これが単発でも?」
「いい」
「後悔しないか?」
「しない」
 瞬きほどの間に、幾度もの応酬があった。そして、小僧は左手でレバーを叩いた。


 結果、単発で終わってしまった。期待枚数が2000枚は優に超えるだろうプレミアムフラグが、わずか数百枚で終了したというのに(それは、ポケットの中に入っていた4万円が、6千円に変わってしまったような悲しみのはずだが)、小僧の顔は晴れやかだった。
 覚悟とは、このことだったんだ、と思う。覚悟とは、これしかないと思いこむことじゃない。これがダメだったら死ぬしかないと入れ込むことでもない。威張ることでも、誇ることでもない。後悔しない。言い訳をしない。何かのせいにしない。覚悟とは、最悪のことが起きたときに、ただそれを受け入れる体制のことだ。これ以上ない悪い結果を受け入れられない人間に、これ以上ない良い結果を受け取る資格はないのだから。


       777


 打つべき台を探し、紙幣をコインに替える。レバーを叩き、ストップボタンをとめる。ポケットの中にあるチョコとグミを、時々口に放り込む。ご飯を食べるのが面倒くさいというよりも、時間がもったいないと思うからだ。とはいえ、スロットが打てない時間もある。小僧は、そんな待ちの時間すらも、嫌いではなかった。この店にある、ほとんどの台が、お金に換わる可能性がある。状況は刻々と変化する。それを見極め、行動に移す。

 部屋にひきこもっているとき、小僧の世界は部屋と同じくらいの大きさしかなかった。狭い部屋の中から、インターネットの向こうにいる誰かの言葉を養分のように吸って生きてきた。そこには、広がりというものがなかった。いや、むしろ時間の経過とともに、世界そのものが縮小していくようですらあった。今、小僧の世界は、パチ屋のサイズにまで広がっていた。小僧の感覚は、プロジェクションマッピングのように、変化するパチ屋の状況を、三次元的に捉えている。誰かが何かを打っている。誰かがもう少しでやめそうだ。目が見えない分、聴覚と想像力で勝負する。期待値を欲してはいけない。すべてを拾えるはずがないのだから。頭の中の地図を更新しながらも、レバーを叩く。自分の手が空いているときに、期待値に期待できる台があれば、拾う。

 牙と小僧は、閉店近くまで期待値を追い、拾い続けて、たけさんの家に帰ってきた。たけさんの家は、何か雰囲気が違うような気がした。
 居間の座布団にあぐらをかいて、たけさんの酒に付き合っていたリバが、「あの、コオくん、今日はすいませんでした」と言った。
「ぜんぜん大丈夫です」小僧は笑顔で返す。
 小僧がそう言う以上、牙は何も言えなかった。その空間は、どこか、いつもと雰囲気が違うのだが、小僧は疲れていて、歯を磨くと、すぐに眠ってしまった。

「おはよー」小僧を起こしにやって来たのは、着ぐるみを着た女の子だった。
「ええと、どなたですか?」小僧は言った。
 おはよー、と声をかけたことで満足したのか、着ぐるみを着た女の子は、スタスタと走って部屋を出て行った。
「……師匠、どういうことですか?」
「リバのめいっこ、らしい」

つづく 
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作者ひとこと

パチンコ/パチスロ花の慶次シリーズで、いい思い出が一つもありませぬ。
が、今日文章に書いたことで、一つできました。

明日も更新します。