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「リール一周のスピードで 第三章」~山賊スロット2~



 翌日も、山賊団は朝から動いていた。
「あいつらと鉢合っても、相手にするのはやめましょうね」小僧は言う。
「はい」前日の飲みで解消されたのか、リバースは、スッキリした顔で答える。
 小僧の決めたルートにしたがって、牙大王が運転する。最初はリバースと交互に運転していたのだが、いつの間にか、運転席は牙、助手席にリバ、後部座席に小僧というのが定位置になっていた。

 まずは、下見をした店から、期待値を拾っていく。その作業をしているうちに、正午を回る。当日の客が朝から吐き出してくれる期待値が育つ頃合だ。
 が、平日ということもあってか、行く店、行く店が、閑散としている。打てそうな台はあっても、3人で打つほどの仕事量はない。このあたりで一番大きな店は、すでに出入り禁止になっている。巨大な駐車場のあるコンビニで手短に食事を済まし、さて、どうしよう、ということになった。
「やっぱり昨日の店、行ってみません?」と、リバース。
「たぶんあの人たちいますよ」小僧が返す。
「大丈夫。無視します」
「牙さんはどう思いますか?」
「まあ、行くだけなら」名目上のリーダー(兼運転手)は、無難な答えを口にした。
 こうして、山賊団は、県道沿いにあるスロット台数150台ほどの中型店に向かった。駐車場を囲うように、新装開店ののぼりが揺れている。
「喧嘩はダメですよ」黒い眼帯をつけた小僧は、念を押すようにリバースに言った。
「ラジャー」
 3人は、耳栓をつけて入店。20パチ、1パチのフロアを通り抜けると、スロットコーナーの入り口(そこから先は、照明が暗くなっている) が見えてくる。
「……早速おるやん」牙が口に出した。
 マルメンライトは、マルメンライトをくわえ、白いジャージを着て、ブランド別注のバッシュを履き、3席を占領するかのごとく足を大きく組んで、バジ絆を打っていた。
 すたすたと、リバースは男に近づくと、昨日はすいませんした。と言った。マルメンライトは、まるで犬に向かって、あっち行け、というように、左手をヒラヒラと振った。
 小僧と牙は、リバースのこめかみに浮かんだ血管を見つめていた。


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 ノリ打ちの集団というのは、パチ屋の中では、ゴト師などの犯罪者集団の次に嫌われる存在だ。いや、存在感という意味では一番かもしれない。そんな嫌われ者が何を言ったって、店の人間は対応してくれない。それは山賊団も熟知しているはずだった。
 リバースは、放心状態で、生ビールのジョッキを抱えていた。
「リバさんはよく我慢しましたよ」小僧はリバースをかばった。
「うん」牙もうなずいた。
 話を聞く限りではあるものの、その二人組は、好ましい打ち手ではなさそうだった。そこから浮かび上がってくるのは、二人の横暴を放置するくらい、意識の低い店という事実だ。設定が入っているわけでもなければ、匂わすことはおろか、リセットをかけるそぶりもない。立地のみで客が集まるような店なのだろう。誘蛾灯に誘われるようにやってくる客たちと、その客に寄生するマルメンライトたち。できれば、そんな店では打ちたくない。そのストレスを天秤にかけて、得られるものがただの期待値では、吊り合わないと思うから。が、小僧はそんな店であっても、スロットを打つのは楽しいという。
「つい最近まで、引きこもってたからですかね。それに比べれば、生きてるって感じがするんですよねえ。それに、一つのものをみんなで目指すって楽しくないですか?」
 わからない感覚だったが、あいまいにうなずいた。
「後、師匠が昨日言った、衝突は避けられないって何かいいなあって思って」
「どこが?」
「師匠は、その衝突に勝ち続けてきたってことでしょう?」
「いや、衝突しない方法を考えてきただけだよ」
 ……ふと、思いついた。
「なあ、そいつらって、何をメインに打ってんの?」
「ハーデスとかバジ絆ですかねえ」
「そのホールのデータ機って新しい? 差枚数とか出る?」
「いや、古いです。回転数しかわかりません」
「そいつらがめちゃくちゃ嫌がること、教えてあげようか」


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 マルメンライトの男とそのツレがパチ屋に現れたのは、正午を回った頃だった。

 マルメンライトは、昨日と同じ、金色の刺繍の入った白いジャージに、ブランド別注の真っ赤なバッシュという傾奇者スタイル。ツレの方はというと、細身のブラックジーンズに、シャカシャカ素材のフーディ、カンゴルのハットをかぶって、洞窟のような暗さのスロットコーナーにいながら、サングラスをかけている。
 2人は、ざっと店を一周して、打つ台を決める。マルメンライトは、バジリスク絆BC6スルー。サングラスがBC5スルー。どうやら力関係は、マルメンライトの男の方が上らしい。

「クソが」悪態をついたのは、マルメンライトだった。「テーブルNかこいつ」
「まだわからんやろ」サングラスはなぐさめるように言った。
 2人の台にBTはなかなか訪れなかった。40分後、サングラスはBC8スルーでBTを引き、単発。即やめ。席を立つ。
 マルメンライトの台は、BC7スルー満月、BC8スルー三日月、BC9スルー三日月、通常テーブルにおける最終天井のはずだが、そんな雰囲気ではない。
「やっぱこいつ、テーブルNや」店を一周してきたサングラスに告げる。
 サングラスは、ハーデスに打つ台を見つけたらしく、移動。マルメンライトの男は、ダルそうに足を組み直し、マルメンライトに火をつける。
 300ゲームほどハマって巻物からBCを引いて、台を殴る。朧BCを選択。見上げた空には、満月が浮かんでいる。
 バジリスク絆のBCは、いわゆる小当たりのようなもので、BTという大当たりが確定する最終天井は、11回目のBCである。当然、次のBCで、BTを引けるはずだ。100ゲームほどで、BCがヒット。弦之介BCを選択。敵は1000人。マルメンライトは、勝てるものだと思っている。が、200人以上を残して、弦之介は負けるのだった。
「おーい」
 マルメンライトは店員を呼び、これ、壊れてるんやけど、と言った。店員は困惑の表情を浮かべ、データランプをポチポチと押した。
「な。11回BC引いてるやろ」
 騒ぎを見て、サングラスがやってきた。
「何が起きたん?」
「BTが引けん」
「もしかしたら、前に打ってたやつのBCの押し順ミスとかで、BTの信号が出なかったんかもな」
「それやったらどうなるん?」
「テーブルNではないってことやな」
「ってことは、今何スルー?」結論を急がすように、マルメンライトは言う。
「最悪で、5スルー」
「マジか」
 店員が愛想笑いを浮かべながら、仕事に戻っていく。
「おまえの台はどうなん?」マルメンライトは訊いた。
「ハーデスの天井手前」
「じゃあ、変わって」
「ああ」と言って、サングラスは不承不承、バジリスク絆のBC11スルー(実際は5スルー)に移動した。
 店にバジリスク絆は8台。ハーデスも8台。スロットコーナーはコの字型に配置されており、バジリスク絆のシマは縦棒部(|)、ハーデスのシマは、底の横棒部(_)にあった。バジ絆からはハーデスが見えず、ハーデスのシマからはバジ絆は見えない。
 そのうちに、マルメンライトが不機嫌な顔で現れ、天井前で犬に当たった、と言った。気分わりーから飯でも食ってくるわ、と言ったマルメンライトの目の前にあったのは、BC7スルーというバジ絆だった。
「これ打ってからにするかな」というマルメンライトを止めたのは、サングラスだった。「その台さっき当たってた気するわ」
「何でわかるん?」
「台枠ランプが光ってた気がする」
「気がするくらいじゃわからんやろ。それとも、誰かオレらをハメようとしてるやつがいるってことか?」
「いや、さすがに、そんなやつおらんやろ」サングラスは否定した。「何のメリットがあるん?」
「そやな」
 マルメンライトは、その台にタバコを置いて、トイレに向かった。トイレに向かう途中に、BC5スルーのバジ絆が見えた。そこにもスマートフォンを置いてキープ。
 トイレにいたのは1分くらいのものだった。マルメンライトが戻ってくると、キープしていたはずのBC5スルーに、別の人間が座っている。
「おいコラおっさん、ここに置いてあったアイフォンどこやった?」
「はい?」50代くらいだろう、人の良さそうな中年男性は、意味がわからないという顔で白ジャージの男を見た。「何も置いてませんでしたよ」
「はあ?」
 マルメンライトは、サングラスのもとに駆け寄り、「アイフォン盗まれた」と言った。
「誰に?」
「わからん」
「店員に言ってきたら?」
 マルメンライトは店員を呼び、こうこうこういうことがあったと説明した。店員は自分では判断できず、インカムを使って上役と相談している。
 そこまで見届けると、小僧は店を出て、駐車場に向かった。


つづく
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作者ひとこと

店員を呼ぶ「おーい」という声の哀しみ……

次回は、来週25日頃更新予定です。