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 山村からの連絡は途絶えたままだった。既読スルーをする意味もないだろうし、あいつは何をしているんだ?
「少し新宿から離れる。何かあったら連絡ちょーだい」ラインを送り、スマートフォンをポケットにしまった。
 おれとカナは、新宿からJRに乗り、私鉄に乗り継いで今間に向かった。
「何人くらいおるんかな」カナが言う。
「何が?」
「時間を行ったり来たりしてる人らって」
「さあ」
 今間駅に着く頃には、すっかり空は暗くなっていた。東口も南口もない駅を降りると、2018年だというのに、20世紀で時が止まっているのではないかという町並みが広がっていた。
 生まれて初めてのパチ屋はここだった。ここか、在原か。記憶は定かではないが、とにかくこのあたりなのだった。
 もっさりとした桜並木を歩き、施錠のされていない正門から堂々と学校のグラウンドに入っていく。イマ中。その古びた水銀灯の下に、宝物は埋まっているのだった。100均で買った小さなシャベルで掘っていく。小さなシャベルは実用性に欠け、なかなか掘り進むことができない。
「なあ、永里蓮」
「ん?」
「あんた、夢とかあんの?」
「住所不定、時間軸未定、ストロングゼロの36歳ニートにそんなんはない」
「昔は? 何かなかったん?」
「考えたことない」
「いや、男の子やったら、何かあるやろ。功成り名遂げたる、とか、一旗揚げたる、やったるねん、みたいなん」
「ない」おれは即答する。
「ふうん」珍しいことを聞いたときのような言い方でカナは言った。「でもまあ、そういう考えだったから、自分の理想の世界みたいなのの到来を願ったりせんかったんやな」
「そら、願ったことくらいはあるよ。叶わへんかっただけで。てかさ、どこまで行っても、ないものしかねだれんくない? 人間って。ないものねだりのことを夢って言うんやとしたら、追うってよりも、追われるって方がピンと来るけど」
「ふうん。とりあえず私が思うのはさ、夢システムの欠点は、既得権益やねん。誰かの叶った夢に、ぶら下がる人間が出てきてしまう。親から子へ、子から子へ、みたいに。人間って、絶対に、易きに流れるもんやねん。絶対的な権力は、絶対的に腐敗するねん。そこに例外はない。どれだけ偉い実績を残しても、永遠に続く価値なんて存在しないのよ」
「まあな。でも、自分の子供に楽をさせたい親の気持ちもわからんでもないけどな」
「でも、その子は、歪む。どこか別のところで苦労することになる。愛されるのと甘やかされるのは違うやろ」
「そらまあそうやわな」
「あ、お宝発見」カナは言った。

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 慎重に、まわりの土を取り除き、宝箱をそっと取り出した。宝箱みたいな形こそしているが、ここに入っているものは、自分の弱点に等しい。持っているだけで、心臓の鼓動がかまびすしい。というか、この宝箱自体が脈動しているのだ。
 この心臓はね、アカシックレコードのようなものなんよ。あんたらが辿ってきたすべての道、すべての分岐、すべての起こってしまったことを記録している。だから、ある意味では、この存在自体が、あんたらの寿命を縮めてるねん。動き自体は人体の中にあるときよりもゆっくりやから、すぐに死ぬってことはないけど。
「何でそんなん知ってるん?」
「だから言うたやん。時間を逆行してるって」カナは中腰になり、ふう、と息を吐いた。
 しゃあないな。私が連帯保証人になってあげよう。そう言うや否や、カナはおれたちの心臓を丸呑みしたのだった。あまりに大胆な行動に、突っ込むことも、奪い取ることもできなかった。ただ、阿呆のように眺めていた。
 おれ、死んだ?
 ……いや、死んでない。
 カナは、何かをインストール中のPCのように沈黙している。
 首をコキコキと何度か曲げ、両手を伸ばし、背筋を伸ばし、快便後か、ネイルと合体した後のピッコロみたいな爽やかな顔でカナは言った。
「良いニュースと悪いニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」
「悪いニュースからでおねしゃす」おれは言った。
 ええとね、山村崇くんに危険が迫ってる。
「は?」
 次は良いニュースね。蓮。あんたはうちの、甥っ子やった。
「……は?」
「だから、偉そうなことわーわーゆうたけど、おばちゃんやから、堪忍してな」
「まったく意味わからん」
「意味なんかどうでもええねん。うちとあんたには、血の繋がりがある。大事なのはそこや」
「いや、勝手に話を進めんな」
「ほな、デッパツするぞ。甥子よ」

つづく
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