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 一応、回れる範囲のパチ屋を回ったが、ウサギ団は見当たらなかった。やはり、おれが打たない限り、彼らは現れないのだろうか? でも、それって、どんなシステムなんだ? 誰かに尾行されているのだろうか? でも、そんな気配はない。発信機でもつけられているのだろうか? が、居場所がわかったとして、スロットを打っているかどうかをどうやって判断するんだ(マンガコーナーでマンガを読んでいるだけかもしれないじゃないか)? というか、一体誰が、どんな目的で、こんなことを首謀したのだろう。第一に、目立ちすぎる。あんな集団がいたら、一般の遊技客が気持ちよくスロットを打てない。新手のテロだろうか?
 このままでは埒が明かない。ん、待てよ。そうか。直接聞けばいいのだ。どうしてそのことに気づかなかったんだろう。簡単なことじゃないか。
 おれは最初の店に戻って、彼らの姿を探した。が、見当たらない。しょうがないので、打てる台を探し、探し、少し待って、台にありついた。
 GOD凱旋の722~
 打っているうちに、プレイボーイのジャージを着た男を発見した。おれは席から立ち上がり、耳元で、すいません、と言った。
「はい?」男は、テンパッた人のような、甲高い声をあげた。
「何してんすか?」
「え? え? スロットをしにたんですけど……」甲高い声の男は言った。
「どうしてそのジャージを着てるんですか?」
「どうしてそのジャージを着てるか? え? それは、一体どういういった趣旨の質問ですか?」男の表情からは、やましいことをしているのだ、という認識が見て取れる。万引き犯が、万引きGメンに詰問されているときのような。
「その服、自分で買いましたか?」Gメン気分でおれは聞く。
「え? いや……もらいものですけど……」
「誰からもらいましたか?」
 男は今にも泣き出しそうな顔で、「さっきです」と言った。
 自らの罪を白状するみたいな言い方だった。
「誰からもらいましたか?」
「同じジャージを着た男の人です」
「その人に何て言われたの?」知らず知らずのうちに、口調が鋭くなっていた。が、そのせいもあってか、ウサギ男は、ペラペラと喋るのだった。
「お金を渡されて、絶対に勝てるゲーム数一覧という小冊子を渡されたんです。でも、おれ、まだ、何もしてないです。これは、犯罪なんですか?」
「いや」と首を振った。それから、口調を柔らかなものに変えた。「それで、その、プレイボーイのジャージを着た男の人とどこで出会ったの?」
「ドンキの前です」
「他に特徴は?」
「いや、おれ、あんまり人の顔をジロジロ見れないので、年配の方という以外は何も……。あの、もし、迷惑をかけたのであれば、すぐに、帰りますけど」
「ありがとう」おれは言った。「全然迷惑じゃない。むしろ助かった。あそこに、天井まで500ゲーム弱の凱旋(910ゲーム)があるから、打ちなよ」
「凱旋。GOD凱旋。ボーダーおよそ700……」男は小冊子を開きながら呟いた後で、目を丸くした。「いいんですか?」
「絶対に勝てるかどうかは保障できないけど。ま、頑張って」
 店を出て、ドンキホーテに向かう。が、そう都合よくウサギ団のボスがいるはずもなく、しばらくドンキ前で人を待つふりをした後で、いっそのこと、おれもウサギ団のユニフォームに着替えちゃおうか、と店内に入った。が、衣服コーナーを見るも、彼らが着ているようなジャージは見当たらなかった。売切れてしまったのか、取り扱いがないのかはわからない。
 店内をひとしきり回り、外に出る。ウサギ団の姿はない。ポケットからスマホを取り出すも、山村からの連絡はない。

       777

 期待値を彼にゆずったこともあり、何だかスロットを打つ気分になれなかったので、気分転換に、バッティングセンターに行くことにした。
 100キロのレーンに入り、バットを構える。気分は落合。神主打法。
 現実のピッチャーと違い、ほとんど確実に、ストライクがくる。変化球を投げてくるわけでも、剛速球でもない。毎回、ほとんど同じ場所に、素直な球筋のボールが飛んでくる。そこにバットを出す。芯に当たると、いい音とともに、ボールが遠くへ飛んでいく。
 20球を消化すると、幾分気が晴れた。
 バットを置いて、レーンを出ようとすると、隣のレーンでバットを握る女性の姿が目に入った。ミニスカート姿のその女性は、カーン、カーン、といい当たりを連発しているのだった。
 おれは魅入られたように、隣のレーンを見つめていた。いくら100キロとはいえ、ここまでミートできるって、すごくね。プチプチを潰しているような爽快感というか。
 と、女性は、その行為に飽きてしまったかのように、まだゲーム中にもかかわらず、バッターボックスを離れ、ヘルメットを取った。マシンが律儀にストライクを投げ込む中、彼女はおれの方を向いて、こう言うのだった。
「久々やな。永里蓮」

つづく
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