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スロットを長期にわたって打ってきた人間にありがちなのかもしれないが、山村崇はおよそ人間らしい人間とはいえない。
強い言葉で言ってしまえば（おれ自身、人のことを言えた義理では全然ないが）、こいつは少し、頭がおかしい。
もちろん、人間である以上、内部には熱い血が流れているはずだ。だけど、表層に出てくるのは、合皮のごとき非人間性なのだ。
一緒にいて有難がられる人間は、笑顔をたやさず、不平不満を言わず、ユーモアがあり、いつも前向きにことにあたるような性格の持ち主だろう。少なくとも、おれや山村のような人間ではない。おれは前向きに人生を否定したいと考えていた人間だし、山村は、自分なんて存在しないと言い張る自分を持っている。そんな二人が１ＤＫの空間にいるのだから、よい空気が流れるわけがない。
「今日は何すんの？」おれは聞く。
「今日は本を読む」山村は言う。
「それで、いつ、どうやって、宇宙と戦うんだ？」
「もう、戦ってる」山村は言う。
「その結果は、どれくらいで出そうなんだ？」
「さあ」
一事が万事、この調子なのだ。とりつくシマがないとはこのことだ。
その代わり、パチ屋の中での行動は、ほとんど、というか完全にシンクロする。当たり前だ。パチ屋の中では、効率だけを求めればいい。効率のためならば、協力することもやぶさかではない。お互いの行動は、負担にはならない。効率を共有しているから、むしろ、負担が減る。その意味では、おれたちは、ゴミ拾い同盟のようなものだ。ゴミというと語弊があるか。おれたちは、効率的な死体拾い仲間なのだ。効率を追う以上、非人間にならざるを得ない。死体拾いをする死体。そんな存在がおれたちだ。
男友達を選ぶ基準でよく使われるたとえのひとつに、「戦場で背中を預けるなら誰？」というものがあるが、幾ら効率よく動けるとしても、山村崇と一緒に戦争に参加するのはちょっとやだな、と思う。効率を突き詰めると、割に合わないことはしなくなる。ということは、おれがピンチになったら、さっさと見捨てるに決まってるのだ。といって、おれは、彼を助けるだろうか？ 状況によるだろう、と思う。常に自分よりも相棒を優先する人間が、高い戦闘力や高度な戦略を有しているとは考えにくい。戦争は相手を倒すこと、あるいは生き残ることが目的なのだから、見捨てざるを得ない状況も出てくるだろう。最終的には、ひとりの方が楽だ、とお互い言いそうな気もする。
とはいえ、こちらの戦場には、流れ弾が飛んでくる心配がない。山村は、月に２０万円ほどの死体値をパチ屋から拾う。それ以上は落ちていても拾わない。それはもはや期待値ではない。やせ細ってカラカラの骸である。だからおれも、それにならって、同じくらいの数の死体を集める。実働時間は、１日に３～４時間。長くても５～６時間。毎日決められた時間に起き、御飯をつくり、掃除をし、洗濯をし、余った時間は本を読んでいる。酒はほとんど飲まない。ギャンブルもしない。無駄遣いもしなければ、夜の街にくりだすこともない。
こいつは一体、何と戦っているのだろう？
７７７
パチ屋から出ると、「打たん方がいいよ～。お金、減るよ～」と誰かが言った。見ると、つっかけを履き、プレイボーイのセットアップを着たおっさんだった。
「そっすよねえ」と笑顔で返す。「この店、ぜんぜん出してくれないですねえ」
「だろ。本当に。しょうもねえ」
「しょうもないっすけど、スロット楽しいんですよね」と言う。
「ま、それは、そかもしれんけども……」
納得いかないのか、首をかしげながら、ジャージ姿のおっさんはつかつかと去っていく。
山村を見に行くと、まだ打っているので、先帰ってるわ、と言って、外に出た。といって、帰ってもすることがないのだった。どうすっか。
プレイボーイのジャージを着たおっさんが、どこから手に入れたのだろうストロングゼロを片手に、まだ駐輪場近辺をウロウロしている。いつもパチンコ屋にいる人は、一体どういう生活を送っているのだろう？ あまりに暇なので、ついていってみようかしら。
つづく
皆々様へ
スロ小説は、今日を入れて後１０話で終了します。
ということで、「仮タイトル」予告をば。
♯１３「本日新装開店！」
♯１４「台選びは慎重に。かつ迅速に」
♯１５「低設定を掴まされた際のリカバリー」
♯１６「この店に高設定は入っているのだろうか？」
♯１７「スロッターのハマるアナ」
♯１８「ひっそりと連チャンが始まる」
♯１９「止まらない時計と連チャン」
♯２０「そして閉店へ」
♯２１「景品交換所にて」
以上となります。
長い間、本当にありがとうございました。なお、明日（土曜）、明後日（日曜）は、新台入れ替えのため、お休みさせていただきます。月曜のご来店、心よりお待ちいたしております。
書くこと、賭けること 寿
物事に終わりがあるのは必然なのですが、終わってほしくないことも時々あります。寿さんの紡ぎ出すスロ小説もその一つです。
大団円なのかどんでん返しなのか、最後まで刮目してます。