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「わかってんじゃん」山村崇は決して人に好かれないだろう言い方で言った。
 それはおれの台詞だ、と思いながら、山村におごってもらったアイスカプチーノを飲み干した。
 同じことを、別の言葉で言う。同じものを、別の経験で語る。距離を、高さを、角度を変えて眺める。山村崇という存在が、自分という存在の確かさを証明してくれているような気がした。
 それだけに、ピースになった人間の末路について、考えずにはいられなかった。死んでしまったら最後、メインの人間の記憶からは消えてしまうのだ。それはさながら、期待値のある台をやめていった客の姿が記憶に残らないように。

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 おれたちは、表参道を右折し、明治通りを新宿方面に歩いている。
「幽遊白書って読んだ?」山村は言う。
「おれらの世代で読んでないやつほとんどいないんじゃね」
「ユーハク世界のボス的存在の雷禅(ライゼン)が、死ぬ間際に主人公の幽助(ユウスケ)に言う。『お前はオレの息子だが、人を食いたいと思うか?』って。首を振る幽助に雷禅は続ける。『きっとオレ達魔族の一部が過渡期の突然変異なのさ』『いつか普通の人間も海外旅行気分で異界を往来する日が来る。その時にオレ達はジャマなんだ』って」
「ああ。雷禅が死んで、魔界トーナメントっていう超展開になって作品が終わるんだよな」
「これ、俺たちのことじゃね」
「パチ屋がなくなって、パチンカスじゃないやつが、バカンス気分で、カジノに行く日が来る。その時におれらはジャマなんだ、か」おれは笑う。「確かにな」
「グレーっていうか、アングラ的な場所って、ある程度必要な気がするけどな」
 信号が赤になると、車の赤いテールランプが灯る。
「パチ屋が存在しない日本を見たよ」おれは言った。
「どんな感じ?」
「全然変わらない。『パチンコ』が諸悪の根源みたいに言ってるやつは、『の中身』を変えるだけだったし、庶民の娯楽とか言っても、人間はヒマだったら何かしらするもんだし、傍目には何の変化もなかった」
「まあ、そうか」
「過渡期の突然変異。戦後日本に現れたパチ屋ってそういうもんだったのかもな。てか、実際そんなのっていっぱいあるよな。昭和。平成。高度成長期から、斜陽期。ベータマックス、VHS、MD、ガラケー、アイモード、企業戦士サラリーマン。一世を風靡して、みんな退場した」
 19時に近かったが、まだ日は暮れていなかった。
 明治通りを折れ、代々木駅方面に進み、おれたちはそのまま新宿を目指す。
 夜の帳がゆっくりとゆっくりと下りていく。

つづく
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