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 ほろ酔い気分で、カラフルな路地を進む。
 ん?
 気になるものを発見し、立ち止まる。
 手を水平に掲げ、ぐるぐると回っている男がいるのだった。おれが気になるのは、彼のその所作ではない。ちらちらと見える顔だった。
 面長、横に向きぎみの耳、二重ではあるが、眠そうな目、髪のクセ。酔いが瞬時に醒めていく。
「何してんすか?」おれは言った。
 回転男は回転を緩めることなく、回っています、と言った。
「どうして回ってるんすか?」
 勝つためです、と彼は言う。
「誰に?」
「宇宙に」
 ちょっといいですか? と言った。
 彼は回転を止め、おれの前に立った。
 薄手のスウェットパーカ、細身のカーゴパンツ、コンバース。格好こそ違うが、彼の顔は、鏡に映るおれそのものだった。
「回るのは楽しいすか?」と聞いた。
「楽しくないです」と彼は言った。
 ヘリコプターがパタパタパタという音を立てて、青い空を横切る。
 彼はどうやら、目を回しているようだった。
 しばらくは踏ん張って立っていたが、もうダメだ、というように、アスファルトにへたりこんでしまった。
「大丈夫すか?」おれは言った。
「すいません」
 何か飲み物でも買ってこようか、と思うものの、金を持っていないのだった。
 アスファルトにへたりこむ彼、そんな彼を見下ろすように立つおれ。おれたちの横を人々が行過ぎる。
 おれはしゃがみこみ、まじまじと彼の顔を見た。他人の空似というにはあまりに似ている。
 彼と目が合った瞬間、彼は何かを発見したといような表情になった。
「……サダさん?」彼は言った。
「いや」おれは首を振った。「永里蓮」

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 誕生日は?
 1982年、4月29日。
 同じだ。血液型は?
 O型。
 うん。一緒。
「どういうことだろう」山村崇と名乗る男は言った。
 自分ではよくわからないが、たぶん、声も似ているのだろう。
 こんな一致は、まずない。
 山村崇は、人をまっすぐに見ない癖があった。チラッとだけ見て、たぶんその網膜に残った残像をたよりに会話を組み立てる。あまり褒められた態度に思えないのは、たぶん彼の顔があまりに似ているためだ。
 山村崇とおれは、表参道に面したカフェに入って、アイスカプチーノを飲んでいる。お金が一円もないことを説明すると、彼は快くお金を支払ってくれたのだった。
「永里は、何をしてる人なの?」山村崇は言う。
 苗字で呼ばれるのは新鮮ではあったが、何と答えていいかわからずに、「旅人」と言った。
「へえ」興味があるのかないのか判別できないような言い方で山村崇は言った。確かに、いきなり旅人と言って興味を持ってくれる人はそんなにいない。
「山村は?」
 おれも彼にならって苗字で呼んだ。
「宇宙と戦ってる」彼は言う。
「それ、何なん」おれは自分を棚に上げて言った。「仕事とかは?」
「スロット」山村はそう言った。
 同じ年齢、同じ誕生日、同じ血液型、そしてスロッター。間違いない。おれが探していたのは、彼なのだ。
 
つづく
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