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「山村崇。おれは、あなたに会いにここに来た」
 おれがそう言うと、山村崇は、冷めた顔で、「T・Pぼんみたいだね」と言った。
 TPぼんが何を意味する言葉かはわからなかったが、おれは構わずに、「何かしたいこと、あるんでしょ?」と言った。
 ピースという言葉を桜井さんは使った。それは、桜井さんにしたいことがあったからだ。計画の中のピースなのだ。が、おれにそんなものはない。おれがピースになるべきなのだ。誰かにとっての。
「したいことはないけど」と山村崇は言った「しなければいけないことはある」
「その助けになりたい」
 山村崇はアイスカプチーノのグラスを持ち上げると、上品にするするとストローをすすった。
「いや、別にいい」
「何でよ」
「だって、知らない人だし」
 いや、ちょっと、待って。
「タメ年。誕生日同じ。血液型同じ。スロット打ち。初めて打った機種は?」
「サンダーV」
「同じ。これで他人って無理があるでしょ」おれは言った。
「でも、それって永里が同じって言ってるだけだよね」
「1999年」おれは言う。
「ん?」
「初めてサンダー打った年」
「同じだね、でも、俺とタメなんだったら、だいだいそんなもんだよね。当時の高校生はみんなスロット打ってたし」
 いやいや。おれは人差し指で、おれと山村の顔を交互に指差した。「顔。これが他人の空似とでも?」
 山村は、だから何? という感じでおれを見る。
「え、もしかして、似てると思わない?」
「正直よくわかんない」山村は言う。
「マジ?」
 ……この感じは新鮮だ、と思う。どうすればいいんだろうか。

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 スマホを出して、山村崇と肩を組み、カシャ。スマートフォンをテーブルに置いて言う。
「ほら。同じ顔」
「目が二つ、鼻が一つ、口一つ。人間の構造ってだいだいそうだよね」
「おまえ、マジで言ってんの?」
「たとえば、蚊の識別とかって、永里はできる? 全部同じ顔に見えない?」
「確かに小さな虫はよくわからない。でも、それは単に大きさの問題と、人間にわかりにくい個性を持つ生き物だからじゃね。猿とかになると、違いわかるじゃん。みんな別の顔をしてる」変わったやつだな、と思いながら言う。「おまえの目にどう映ってるかはわからないけど、おれの目にはまったく同じ生物に見える」
 山村は、背の高いグラスを持ち上げ、するすると上品にストローを吸った。
「永里は無一文だって言ってたよね」
「うん」
「これからどうするつもりなの?」
「だから、山村崇を補佐する」
「補佐って俺、欲してないけど」
「絶対に、役に立つ」
「役に立つ有能な人間が、どうしてお金ないの?」
「だからおれは、ここの人間じゃないんだって。時間移動にともなう金の管理方法ってのもあるのかもしれないけど、おれにはよくわからない」
「初期投資金、貸してあげようか?」
「だから、おれはスロットを打ちにきたわけじゃない」
「でも、スロッターなんでしょ?」山村崇は手に持っていたグラスをテーブルに置いて言った。
「うん」
 それにしても、スロッターには不釣合いなカフェだ。スウィーツが1000円から。珈琲が600円から。座り心地のよいソファ。流れるアントニオ・カルロス・ジョビン。土地代もあるんだろうが、それを考えると、日本全国同じ値段のコンビニとかファミレスってすげえんだな。
 ん? 
「TPボンって、藤子不二雄の漫画?」
「そう」
「女の子と二人でタイムパトロールする中学生の話か」
 タイムスリップパチスロッター。おれやん。
「何がおかしい?」山村は言う。
「期待値って考えを共有できるのはいいよな」
「ん?」
「期待値があるって状態は、誰かの期待値がないって状態だろ」おれは言う。
「うん」
「つまり、期待値は、渡せる」

つづく
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