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「何、考えてんだ?」梅崎が言う。
「昔のこと」
「おまえの師匠のことか?」
「うん」
 梅崎の頼みというのは、とあるホテルに、客として泊まってほしい、というものだった。
「おれは反対ですね」リバと呼ばれている男が言った。「こいつ、素人でしょ、部外者に頼むくらいなら、おれがやりますよ」
「おまえは黙っとれや」キバと呼ばれている坊主が言った。「うちうちで処理できないから太郎さんに頼んどるんやろ」
「危険なこと?」俺は聞いた。
「まあ、危険っちゃ、危険だな」
「一泊でええんか?」
「いや、しばらく住んでもらう」
「俺はそこで何したらええの?」
「好きにすればいい」
「嫁は?」
「申し訳ないが、一緒には暮らせない」
「会うことは?」
 梅崎は首を振った。
「マツダ、頼むわ」
「わかった」

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 パチ屋に入ったのは、本当に久し振りだった。まっすぐ家に帰る気になれなかったのもある。サダオをより身近に感じたかったのもある。だけど一番は、何だか勝てる気がしたのだった。
 が、適当な台に座るのは気が引けた。サダオのせいだ。ラインナップを見て、後継機だろうな、という台はあるものの、知ってる台は一台もなかった。しいて言えばジャグラー、か。
 スマホで台の情報を見ていくと、期待値がそもそも載っている個人サイトがチラホラ出てきた。こんな時代に勝つってのはしんどそうだな、と思いつつ、昔よく打った島唄に比較的スペックが似ていそうな、沖ドキ!という台にあたりをつけ、スルー回数と、天井までのゲーム数で、打つ台を決めた。
 1000ゲームぴったりでハイビスカスが点滅。で、バケ。レギュラーボーナス。
 20ゲームくらいで無音ビッグ。これ、天国に移行したってことか? それともヒキか? 10ゲームくらいでビッグ。天国でいい? 25ゲームでビッグ。天国スルーが確定する32ゲームでやめて、ちょい負け。
 昔の自分だったら、ここで帰るって選択はありえなかったな、と思う。
 行動と結果ってのは、今と未来ってことだ。サダオは昔、そんなことを言った。結果ってのは、未来と一緒だ。永遠に届かない。今という結果は、未来にどう変化するかわからない。わかるか?
 サダオが言っていたことが、ようやくわかってきたのかもしれない。
 交換所で紙幣を受け取り、家路を急いだ。
「ただいま」と言った。
「おかえり。こんな早い時間にどうしたの?」嫁は不思議そうな顔で、パソコンのモニターから目を離した。
「仕事、辞めた」
「どうして?」
「どうしても。それで、マコトには、迷惑をかけることになる。すまん」
「……」
 嫁は、不審の目で俺を睨んでいた。
「今、マコトって言った」
「え?」
「マコトって言ったやろ」
「言ったけど」
「うん。わかった」
「え?」
「仕事、辞めるんやろ。お疲れさん」
「ええの?」
「しゃあないやろ」
「それで……」
「それで?」
 そんな軽い感じなのか? と戸惑いつつ俺は言う。
「ここを出て行かんと」
「さよか」と嫁は言った。「ほな、出よか」
「……出れる?」
「しゃあないんやろ?」
 嫁は、幾分、緊張した面持ちだった。それもそのはず、家庭裁判所以来、彼女は外に出ていないのだ。
 タクシーを拾い、「熱海までお願いします」と俺が言うと、タクシー運転手は懐疑的な目で俺の顔を見た。
「ダメですか?」
 俺がそう言うと、タクシー運転手は、あわてて否定した。
「い、いや、全然ダメじゃないです。昨今では、長距離で乗ってくれるお客さんがおりませんもので、驚いてしまいました。失礼しました」
「お願いします」と頼み、嫁を後部座席に乗せた。
「りょーたろ」
「ん?」
「はよ、迎えにきてな」
「うん」
 後部座席のドアが閉まり、嫁を乗せたタクシーが西に向かって走り去った。

つづく
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