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ウソをつき、
使ってはいけないお金を使い込み、
負けを取り返そうとして、大負けし、
時間や金額を忘れ、自分が何者かを忘れ、
お金を借り、大切な人とケンカをし、
その経験を糧にして、大人になりたい。

書くこと、賭けること 寿 


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 時空とは、時間と空間のことだ。そのふたつは、決して飛び越えられない壁のようなものとして存在している。しかし、飛び越えることはできなくても、いや、飛び越えることができないからこそ、人類は時間をかけて、空間と空間を結ぶ道を建設してきた。時短のために。地道に。文字通り地道に。
 そのようにしてできた道を、僕は運転している。左ハンドル右車線のアメリカから、右ハンドル左車線の日本という違和感はあったが、すぐに慣れた。道路。それは空を飛ぶ乗り物が登場しても、インターネット回線が世界をつないでもなお、有効なインフラなのだ。
「お、デニーズあったで」太郎が言った。「そろそろゾーンやめて食事休憩しようや」
 ちっ。デニーズに入店。しばしメニューを眺め、ジャンバラヤとキウイフレッシュというジュースを頼んだ。何たる贅沢。朝っぱらからフレッシュ&ヘビーな、1000円を超えるこんなコンビを食せるのはスロッターくらいだろうという自己表現。何というか、感覚が全体的に尖っている。これが若さだろうか? 太郎はブラックコーヒーとホットケーキを注文。
 まず最初にキウイフレッシュがやってきて、それをすすっているうちにジャンバラヤがやってきた。ジャンバラヤってどこの料理だったっけ? アメリカの南部だった気がするけど、自信なし。ともあれ、トマトとチキンが絡み合うスパイシーな焼き飯である。
「スマホないと不便だな」
 太郎は「そやな」と言った後で、ブラックのコーヒーを口に運び、ホットケーキをぱくりと食べた。
「なあ、サダオ、スロットってどうして勝てると思う?」
「期待値があるものは勝てる蓋然性が高い。それだけのことだろ」
「違う。そもそもの話をしてんねんで。そもそも、どうして客に期待値がこぼれ落ちるようなギャンブルが成立したか」
「そりゃきっと、誰かが儲けようとして、だろうな」
「ああ。パチンコの釘は目に見える。ある程度の公正さの担保にはなりえる。だけど設定は違う。あれは客を寄せるという目的よりも、店側の人間が不当な収益をあげるためにある。そう思わんか?」
「まあな」
「あれ、田所班長がしかけたんやないかな」
「は?」
「詳しくは言えんけど」
「詳しく言えよ」僕は笑った。
「おまえを巻き込みたくない」太郎はそう言ってブラックのコーヒーをすすった。
 笑った後で、僕は怒った。「ふざけんなよ。言えよ。俺たちが再会したのは、偶然じゃない。俺たちはノリ打ちみたいなことをしなきゃいけないんだよ。嫌でも」
「嫌なん?」
「いや。言葉の綾だ」
 ふう、と太郎はため息をついた。「こんなんじゃ食った気にならんから、飯食っていい?」
「食えよ」と言って僕は笑う。
 太郎はめんたいこスパゲティとドリアとから揚げという炭水化物だらけの組み合わせを頼み、一気に食したのだった。こいつのこれも、自己表現なのか?
「なあ、サダオ」
「ん?」
「ちゃちゃいれんと聞いてくれるか?」
「善処する」僕はそう言って、ほとんど水同然に薄まったキウイフレッシュを飲み干した。
「おれのいた団体のことはわかるよな?」
「何となく」
「まあ、非合法の団体と聞いてイメージできる団体や」言葉とは裏腹に、清々しい顔で太郎は言った。「幹部になると、幹部しか閲覧できないデータベースが見れてさ。お金の出所とか流れみたいなんも見れたりしたんやけど、何故かパチ屋からの入金があって。コンサル料っていう名目なんやけど、おれはおまえとスロット生活してたやろ。ほんで気になって、調べていくうちに、パチスロが日本各地に広まっていくのと、組織が拡大していく時期が重なってることに気づいた」
「……」言いたいことはあったが、黙って聞いていた。
「おまえ、模合って知ってる?」太郎はコーヒーのお代わりに口をつけた後で言った。
「モアイ?」
「沖縄の風習みたいなもんらしいねんけど、たとえば10人の仲間がいて、月に1万ずつ出し合う。Aくんが最初の月に10万円を受け取る。次の月はBくん、次の月はCくんっていう風に融通しあって、安定を得るっていうか、一種のエンターテイメントなんやろうな、琉球王国の頃から続くって言われる独特なコミュニケーションなんやけど」
「ああ、聞いたことはある」
「おれのいた組織は、もともとはそのモアイでつながっていた、あぶれもんの集団が発祥らしくて。が、モアイというシステムは、仲間うちで金を回すだけで、資金が増えることはありえない。その金を投資に回そうとした人間がいた」
「資金源として、パチスロを利用したってこと?」
「というか、パチスロの仕組みを田所班長がつくったことで、全国規模になったんやないか、って。確実な資金調達方法として。黒い金を白い金に、文字通りグレーなマネーロンダリングの手法として」

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 りんぼさんがパチスロの生みの親? それはあまりにぶっ飛んだ話だった。わかりやすいといえばわかりやすい。が、物事の原因をひとつに収斂させるのは、陰謀論と同じじゃないか。陰謀論はオカルトと同じく、人の思考をそこでロックしてしまう。
「りんぼさんが、スロットの創成期に関わっている。それが事実だったとして、おまえは何をどうしたいわけ?」根源的な質問を僕はした。
「おまえさっき、ふたつ推論できるって言ったやろ」
「うん」
「ひとつは、時間の流れはひとつの方向に進むわけじゃない。もうひとつは、梅崎樹はただの殺し屋ではない」
「かもしれない、な」僕は付け足した。
「前にさ、スロガイのライターが、初代北斗を評して、未来から来た人がつくった台とか言ってたやん」
「中武さんだっけか」
「スロットに設定を導入したこと。遵法精神のまったくない集団を全国規模にまで拡大させたこと。田所りんぼ。あの人こそが、未来から来た人なんやない? てかな、普通に考えて、やで。パチスロみたいなのが堂々とある世界って変やと思わへん? 非合法集団とか、凄腕の殺し屋くらい現実離れしてへん?」
「おまえは現実離れしてねえのかよ」
「いや、明らかに離れてもたやろ。離れたもんは取り戻さんと」太郎は冷めたであろうホットコーヒーをぐいと飲んだ。

つづく
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