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パチ屋通いの童貞と、ホスト狂いの処女の物語♯8


小説の途中ですけど、まえがきを



          29


 ニーナがいなくなり、ヤマピーさんとふたり残されて、空間には何か妙な雰囲気が生じていた。

 テレビがついていて、それはワイドショーで、心からどうでもいい話題を専門家という人が熱心に語っていた。それを見ながらヤマピーさんは、ポテトチップをパクついているのだが、妙にもじもじしているのだった。唐突にヤマピーさんが言った。

「ニックはさあ、アイス、食いたくねーの?」

「そりゃ食いたいっすよ」

「ねえ」

「はい?」

「おまえ、唯のことが好きなん?」

「はい」おれはきっぱりと答えた。はずだった。

「あいつ、彼氏いるじゃん。それでも好きなん?」

「はい」

「うちとセックスしちゃう?」

「はい?」

 何を言っているんだ? この人は? そんなわけにはいかない。いく、はずがない。が、大きな問題があった。何が? おれの男性器のことだ。びきびきなのだ。ビッキーという名前をつけたいくらいなのだった。正直に言えば、その提案は魅力的だった。その豊満な肉体も、その油に濡れた口も、舌も、声もすべて。ニーナは? ニーナの存在は? 薄れていく。かすれていく。ダメだ。つなぎとめないと。「っていうか、ヤマピーさんも彼氏いるじゃないですか」何とか、振り絞るように声を出した。

「いい。全然いい。むしろやりたい。リベンジセックス。やられたらやりかえせ、みたいな」

「そういうのに、おれを利用しないでください」

 とはいえ、おれの生殖器は、戦闘準備を完了している。

 うわっ。ヤマピーさんが眼前に迫ってきて、あわててよけた。よけたはいいが、力の逃げ場がどこにもなく、おれは倒れてしまった。そして、倒れた先には当然ポテトチップの袋があり、何袋かが、ポン、ポン、と開いた。

「ニック」

「はい?」

「じっとしてて」

 おい!

 おいおい!

 おいおいおい!

 ……油っぽい動物的な味が、口の中に広がった。ヤマピーさんは、舌の硬度を自由自在に操ることができるらしく、その特殊能力をもって、おれの口内の色々な場所を撫で、つつき、かきまわすのだった。おれの口の中でヤマピーさんの舌が踊っていた。かと思うと、あっという間に服を脱がされ、裸になっていた。首筋に、なめらかで温かいものが這う。それは移動する。下へ、下へ。ポテトチップの袋をどかしながら、ヤマピーさんはおれを横たわらせて、パクと、おれのその今にもちぎれそうなものをくわえた。先ほどおれの口内に侵入したのと、ほとんど同じ戦略で、おれのその砦は攻略されつつあった。なぶられ、吸われ、しごかれた。何かが出そうだった。




 攻撃が止んだ。目を開けると、ヤマピーさんは小さな箱から何かを取り出し封を開けていた。おれの服を脱がせるのと同じようにスムーズに、それは装着された。おそるべき手際だった。途端、ぬるっとした何かが入ってくるような感触があった。それはおれを捕まえて逃さない、巧妙な罠のようなつくりになっていた。ヤマピーさんがくねくねと前後に、ずんずんと上下に動くたびに、快感が全身をめぐった。

 おれはニーナのことを考えていた。

 あれは、小学校四年生のことだった。下校途中だった。雪が降っていた。誰かが走ってきて、寒い、寒いと言いながら、後ろからおれの顔をごしごしと撫でた。あ、ごめん、「カオリちゃん」かと思った。身長が似てて間違えちゃった。ごめんね。でも、寒いねえ。風邪、気をつけてねえ。じゃあね。

 その人は走り去った。あの瞬間、上級生の冷たい手から、温かい何かを受け取ったような気がした。女子と間違われたことはどうでもよかった。ただ、温かい気持ちになったのだ。その何かが醸成(じょうせい)され、上級生はファムファタールに、ニーナになったのだった。冷たい手、温かい何か。それがおれの初恋だった。

「……おい」

「……おい」

 声が聞こえる。
「おい」 
 誰だよ? 今ひたってんだよ。邪魔すんなよ。

「おい」

 ヤマピーさんが、おれの上で笑っていた。ずっしり重かった。「マジで気を失うやつっていんだね。何か感動したよ」

「え?」

「おめでとう」

「何がですか?」

「童貞、卒業したね」

「え?」

「うちもリベンジ成功」

「え、え、え?」

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「お待たせ」ジュンヤくんは言った。

 わたしの心臓は、もうやばいことになっていた。ジュンヤくんの股間もえらいことになっていた。攻撃する目的以外には考えられないくらい、何というか、カチンカチンの物質だった。

 するり、するり、と愛撫をされた。するり、するり、わたしは濡れた。何かずるい気がした。向こうは明らかに一枚上手で、わたしはそれを受けるしかなくて、それが何か悔しくて、「舐めようか?」と言っていた。「お願い」と言われ、口にくわえると、やっぱり硬くて、わたしの肉体にはこれほど硬いものは骨以外ないような気がして、男ってすげえなと思っているうちに、歯が当たってしまったようで、「いてえ」とジュンヤくんは言った。「ゴメン」と謝った。そうか、歯の方が硬いのか。

「優しく、優しく」ジュンヤくんは言う。

 この凶器のようなものを、優しく、しかも口のように繊細な部分で扱える女性ってすごいんだな、と思う。今度、機会があったらヤマピーに教えてもらおう。あいつ、いつも自慢してるからな。

 でも、そんな謙虚な気持ちは持続せず、「舌使って」とか、「吸って」とか、「もっと奥まで入れて」とか、何か命令ばっかりで、アゴも疲れてきて、飽きてきた。

 ジュンヤくんはそれを察したのか、わたしの口からそれを抜き、体勢を入れ替え、わたしの両足をがばっと持って、わたしのその、いわく言い難い部分の周辺を舐めはじめた。近づくのかと思ったら、遠ざかり、じらすように舐められ気づくと声が漏れていた。あれ、エーブイとか、だいぶ大げさに演技しているんじゃね、と思っていたけれど、自分の口から、本当に声が漏れて、びっくりして、びくんとなってしまって、ジュンヤくんは「あれ? いっちゃった?」と聞いてきた。どこに? と思ったが、「うん」と答えておくことにした。

 それはそれとして、この、女性器周辺部一帯を舐められるという感動を、どう伝えよう? とにかく、申し訳ないくらい気持ちいいのである。アイスクリームになったような気分なのだ。

「いれよっか?」とジュンヤくんは言った。

 え? もう? もう少し、そうしててくれないかな? とは思うものの、はしたないと思われるのも何だし、「うん」と答えていた。

「いくよ」
 どこに?

「……う」液体と固体の中間みたいな良い気分が、ふっ飛んだ。傷口を、そこをぐりぐり広げられているように痛かった。痛い。痛い。ただ、痛いのだった。ひええ、と言った。泣いていた。

「痛い?」ジュンヤくんが聞いてくる。

「うん」泣きながら言った。「でも、大丈夫」
  ……耐え、忍ぶ、耐え、忍ぶ、耐え、耐え、忍ぶ。昔の美徳みたいに、わたしは必死にこらえていた。声が漏れているが、これは歓喜の声じゃない。苦痛に呻吟(シンギン)しているのだった。ジュンヤくんは、ゆっくり動いてくれているのだろうが、それでも痛かった。申し訳ないけど痛かった。

「あの、質問ですが、これは、いつまで続くんでしょうか?」

「痛いか。そうだよね。あれ飲むと硬くはなるけど、いきにくくなるんだよな」

 ジュンヤくんの顔が何か変だった。よくよく見ると、こすってしまったか何かで、化粧がはがれてきているのだった。目の淵が黒くにじんでいる。一生懸命腰を振ってくれるのはわかるが、怖いし、痛いし、もう止めて欲しかった。本気で。

 空気を読むことに、大変長けたジュンヤくんは、わたしの中から男性器を抜き、わたしの横に寝て、わたしの胸部をまさぐりながら、それをものすごいスピードでしごきはじめた。はあはあはあはあ、息が漏れている。映画か何かで見た蒸気機関車みたいに加速度的に、ジュンヤくんは息を荒げている。何だろう。形の違うパズルを無理矢理はめたときのような、コンビニの、本来ジュース類が置いてあるべきところに生理用品が置いてあるような、時代を間違えて生まれてしまったような気まずさがあった。

 爆発寸前のエンジンみたいに、ジュンヤくんの呼吸は荒くなっていた。すさまじいということはわかる。それだけはわかるが、共感はできない。はあはあはあはあ、ジュンヤくんは息を荒げる。手入れの行き届いた長い髪を振り上げる。気持ちいいのか、それとも義務感なのか、使命感なのか、よくわからないけれど、何だか大変そうだった。

「唯、いくよ、唯、いくよ」とジュンヤくんは言った。どこに? ジュンヤくんは、急に立ち上がり、わたしの顔に向けて、白い液体を発射した。

 そのどろどろした生臭いものが目に入った。髪の毛についた。鼻についた。その間にも、じくじくじくじく膣内が痛んでいた。この痛みはいつまで続くのだろう。 

 それはそれとして、これはこれとして、地球はこの瞬間も回っているわけで、政治も経済も、道徳も宗教も、争いごとも睦みごとも、そりゃ色々あるのだろうが、今わたしが思うことは、こんなに不快なことはあるだろうか、というくらい気分が悪いということだった。

つづく
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