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パチ屋通いの童貞と、ホスト狂いの処女の物語♯7


小説の途中ですけどまえがきを

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「もしもし?」わたしは言った。

「おはよー。唯、起きてた?」明るい声でジュンヤくんは言った。

「起きてた、起きてた。今、ヤマピーんちでくっちゃべってる」

「そっかぁ。今日おれさぁ、仕事休みだから、唯とご飯でも食べようかなって思って、唯も今日仕事休みだったでしょ?」

「いいよ。何時?」

「何時でもいいよ。準備できたら電話して。おれも準備しとくから」

 何か、ジュンヤくんの口調が優しい。いや、いつも優しいのだ。でもこうやって、テンプレート的に優しいときは何かがある。わかっていながらも、定型をなぞるように、わたしはジュンヤくんの言いなりになるのだ。そしてご褒美のキスを待つ。体の内側がとろけるような、なめらかな、ああ、わたしもアイスが好きなのかも。やだな、こういうの。

 唐突に閃いた。ジュンヤくんの要求を呑む代わりに、エッチを迫ってみればいいんだ、と。インポなんてウソかもしれないし。あの日は珍しくジュンヤくんが酔ってたし、てか酔ってたから、たぶんジュンヤくん迫ってきたんだし、酔ってると、男の人は機能しないって聞いたことあるし。

 何はともあれ、もうはっきりしたい。そうしないとわたしはここから進めない。戻れない。どこにも行けない。決意したからには進む。そうしよう。そう決めた。

 部屋に戻り、ニックとヤマピーに別れを告げた(ああ、ニックにはすまないと思ってるさ。でも、また泣かされに行くんですか? はねーよ。バカ)。

 カブに乗って急いで帰り、念入りにシャワーを浴び、処理すべきものを処理し、化粧して、持ってる中で一番高い下着をはき、ジュンヤくんがいいって言ってくれたワンピースを着て、使い捨てのカラコンをはめ、この前お客さんにホメられた香水をつけ、念のために買っておいたコンドームを持ち、ハイヒールのサンダルを履いて外に出た。


「なあ、唯。もう少し働いたりできない?」

 車に乗り込むと、ジュンヤくんはいきなりそう言った。

「え?」

「いや、週六回とかに、できないかなーって」

「何で?」

「後輩がさ、あっち系の人の女に手を出しちゃってさ。そんでまとまった金が必要なんだよ。マジ、お願い、唯。助けて、ホント少しずつでいいからさ」

「でも、それって後輩が悪いんでしょ。ジュンヤくん関係ないじゃん」

「関係ないって切り捨てることなんてできないだろ? おれは自分の周りの人間に不幸になって欲しくないんだよ」

「うちは? 不幸にならないの?」

「幸せにするよ。もちろん」

 ウソだ。そんなのウソだ。もういやだ。ふざけ……もう、いいや。わたしもウソつこ、そうしよう。とにかくセックスをしよう。でも、どうしてこんな一生懸命になって、セックスをしようとしてるんだろうか? 過去のわたしが、十九歳のわたしをおばさんと切り捨てるから? 何で? セックスってここまでする価値のあること? 

「ジュンヤくんはわたしのことをどう思ってんの?」

「大切な人だよ」

「ウソ。大切だったら、仕事を増やしてなんて言わない」

「大切じゃない人に、大切なことを頼めないだろ? 唯以外にこんなことを頼めないから言ってるんだ。愛してるよ」

「ほんとに?」

「心から」

「ねえジュンヤくん、ジュンヤくんがわたしのことを大切だと思ってくれてるなら、エッチしたい」

「大切だから処女のままでいて欲しいんだよ」

「やだ」

「待てない?」

「待てない」

「わかった」

 高速に乗って、横浜方面に進んで、その間あんまり会話がなくて、気まずさからスマホをいじっていたら、車に酔ってしまって、気分が優れないまま、お城みたいな外観のラブホについて、地下の駐車場に入って、そこは駐車場からそのまま部屋に入れるようになっていて、ああ、ジュンヤくんはここに何回も来たことがあるんだなあとか思って、まあ、そりゃそうか、とか、誰とだろうとか、何人とだろうとか、さっきまでの気持ち悪さと入れ代わり、嫉妬がその場所をじくじく焦がすのだった。それでも今から待っていることが嬉しくて、少し怖くて、小学生の頃の遠足の前の日とか、運動会の前日みたいな、何か大きなものに包まれているような、非日常への不安感と期待感がないまぜになって、呼吸が荒くなってきたけれど、そんな子どもみたいな葛藤をジュンヤくんに気づかれたくなくて、立ち止まった。そんなわたしの手をジュンヤくんは引いてくれて、やっぱりジュンヤくんは優しいな、と思った。

 部屋は広くて暗かった。白黒の格子模様の床の上に、西洋の騎士みたいなオブジェが立っていて、高級感を狙っている感じがひしひしと伝わってきて、気味が悪く、居心地も悪かった。

 大きなベッドに腰をかける。ふかっと頼りない感触だった。ここでいったい何人の男女が、いや、男と男でも女と女でもいいが、とにかく何対の人間が交わったのだろうと考えると、気が遠くなった。

「唯、シャワー浴びてきなよ」そう言って、ジュンヤくんは冷蔵庫を開けて水を取り、何かをてのひらに乗せた。青い錠剤だった。

「わかった」

「念入りにね」

「はい」

 バスルームの照明はピンク色、赤い壁、フロ桶の色は金だった。まるで落ち着かないのでさっさとシャワーを浴びて戻ると、「おれもシャワー浴びてくる」と言い、ジュンヤくんはわたしの頬にキスをした。下がりかけたテンションが少し上がる。

 ベッドに横になり、ジュンヤくんを待つことにした。ベッド上部のスペースに、テレビや照明や有線のスイッチがあって、その横に手の形の置物があって、その置物の人差し指と中指の間に、コンドームが二枚はさまっていた。何だ、持ってくることなかったか。

 大きなテレビをつけてみると、エーブイのチャンネルか何かで、男女が猛烈に絡み合っているシーンが映り、気分が悪くなってすぐに消し、有線をつけると九〇年代のポップミュージックで、「SWEET19BLUES」が流れてきた。

 いったい十九歳が何をしたっていうんだ。不安? そう、不安なんだ。次の段階に進むのが。住み慣れた、着慣れた十代から、二十代になるのが。でも、今はそんなことはどうでもいい。年齢のことなんてどうでもいい。これからのことを考えよう。痛いのかな、きもちいいのかな、ハマッてしまうものなのかな。

 どういう手順で進むんだろう? ジュンヤくんに任せておけばいいのだろうか。ヤマピーがいつも(しょっちゅう)したり顔で言うふえらなる行為は、どのタイミングですればいいのだろうか。そもそもしなければいけないものなのだろうか? してって言われるまで待ってればよいのか。どうなのか。


 19歳のアンセムが終わった後も、何かしらのJポップが流れ、そして、過ぎていく。何曲も何曲も、曲が流れ、過ぎていく。ジュンヤくんは全然戻ってこない。何してんだ?

 部屋を散策してみることにした。小さな自動販売機みたいのがあって、そこにコンドームとか、ローション? みたいのとか、大小、形の様々なバイブレーターが売っている。隣に冷蔵庫があって、開けてみると有料で、お金を入れると取れる仕組みになっていて、百五十円もするポカリスウェットを買った。ゴクゴクと飲んだ。食道を滑り、胃に到達した。ふと、セックスもこんな感じなんだろうか、と思う。口からポカリを流し込むみたいに、ジュンヤくんを体内に入れる。不思議なイメージだ。何だか気持ちが悪い。

 扉みたいのを発見し、それを開けると、バスルームだった。ジュンヤくんがこっちに気づいてないということは、こっちからは見えるけど、向こうからは見えない式のガラスなのだろうか。

 ジュンヤくんはシャワーに背を向けて、滝を浴びる修行僧みたいな格好で立ち、シャワーを浴びながら自らの男性器をじっと見つめていた。それはふにゃふにゃで、土を這う虫みたいだった。何かを呟いているみたいだったが、何を言っているかはわからなかった。ジュンヤくんは、それをにぎにぎしはじめた。一心不乱に揉んでいる。小さい頃マザー牧場で見た、牛の乳搾りみたいな手つきだった。しばらくすると、そのふにゃふにゃのものが起き上がってきて、そしてある時点でビキンと硬直した。たしかにニックが言っていたとおりの親指の角度だったが、それはわたしに凶器を連想させた。あれがわたしの内部に入ってくるのかと思うと怖かった。ジュンヤくんがシャワーを止め、それを見たわたしは急いで扉を閉めた。

つづく

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「種まく人」ジャン=フランソワ・ミレー