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パチ屋通いの童貞と、ホスト狂いの処女の物語♯6


小説の途中ですけど、まえがきを


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 しゃらくせえと心が喚く。街道は甘ちゃんたちの群れを乗せ、液状化現象にもめげず耐えている。

 おれの原チャリ、ニーナのカブ、2台がビーン/ブーンとひた走る。辛うじて雨は上がったが、依然、雲はどんより重い。信号を待っている間、こんなことを言ってみる。

「おれ、密かに唯さんのこと、ニーナって呼んでるんです」
 あおびょうたんの仕返しのつもりだった。

「は? 何で?」

「え、駐輪場が27番だから、です」

「……超かわいくね? ニーナ。やばい。超かわいい。そっか、うち27番だっけか。てかあんたは何番なの?」

「29番です」

「29……。じゃあうち、あんたのことニックって呼ぶわ。決めた。ニック。あおびょうたんも惜しいけど、いいよね、ニック」

「……ニック?」

「よしニック、行くぞ」

 信号が変わり、走り出す。

 ニク、ニック。小さなツが入るだけで、随分印象が変わるものだなと、一瞬感心しかけたが、ものすごくバカバカしい名前な気もする。だからそれ以上考えないことにした。いいや。ニックとニーナで。ふたりで進むんだ。

「ニーナさん」

「ん?」

「大好きです」

 風にかき消されるだろうと踏み、しれっと言った。人生初の告白だった。言った後で、心臓がドクドクドクドクと、まるで今、命を与えられたみたいに脈動していた。

          

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「え? 何?」と言った。ニックは「何でもないです」と言った。

 正直、その言葉は聞こえていた。だけど白を切った。恥ずかしいからだった。面と向かって大好きなんて、そんなセリフを言われた経験がなかった。ただ、体が熱くなった。面映(おもはゆ)いというか、くすぐったいというか、嬉しいというか、うまく自分の感情を把握できなかった。だけど、何となく良い気分だった。もしからしたら、こういうのが幸せってやつなのかもしれない。そう思った。

 車通りは順調に流れている。コンビニ、はい。ファミレス、はい。はい、スーパー。はい、暗い空。はい、カラス。はい、青信号。はい、はい、わたしはニヤけている。そんな自分が気持ち悪いけれど、悪い気分ではない。

 何、何、こいつ、うちのことが好きなの? しょうがねーな。しょーがねーなあ。ニヤついてしまう。上から目線になる。ニックの原チャリはスクーターで、だからアクセルを回すだけの乗り物だ。でも、わたしのカブは三速ある。アクセルを戻す、左足でギアを踏む、アクセルを回す、加速する。スクーターよりもちょっと難しい。その分偉い。そんなことを誇りたい。変なわたし。


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 到着。今日のヤマピーさんは、ポテトチップを持っていなかった。そのせいか、心なし昨日よりも痩せたようにも思う。いや、それはないか。……というか、気持ちが昂(たかぶ)ってどうしようもない。これはもしかして、ニーナはあのチャラついた彼氏ではなく、おれを選んでくれたということなのか?

「また、そいつ連れてるよ。仲良いねえ」

「そんなんじゃねえよ」ニーナはしかめ面で否定する。シュンとなるおれ。

「もうつきあっちゃえばいいんじゃね? こいつは完全に唯に恋しちゃってる感じだし、あんたもまんざらじゃなさそうだし」

「うるせえ。遊びに来てやってんだから、もっとちゃんと歓待しろよ」ニーナは口を尖らす。

「カンタイ? どういう意味? あんた時々難しい言葉使うよな」

「もてなせ」

「ああ、そゆことね。んあ? てか、うち、呼んでねーもん。あんたが勝手に来んだろ」

「だってヒマしてんじゃん、いつも」

「はあ?」

「まあまあ」と言った。

「何、おまえ? 何キャラ?」ヤマピーさんはギョロリとにらんだ。「まあいいや。とりあえず上がんな」

「おじゃまします」と言って、スニーカーを脱いだ。ニーナはサンダルを一瞬で脱ぎ、一足先に上がっている。昨日片づけたというのに、ヤマピーさんの部屋は、菓子類の袋で埋め尽くされていた。

「ねえヤマピー、この子の名前、ニックになったから、よろしく」

「は? どういうこと? 何こいつ、ハーフなの?」

「いいの。とにかくそう呼んでやって」

「ニック? ニックねえ、呼びにくくね? あ、つうか、それよか唯、聞いてよ。またハッカクしたんだけど、あいつの浮気。マジありえないんですけど」

「また? 早く別れちゃえばいいのに」

「なあ、ニック、どうして男って浮気すんの?」

「浮気はしたいしたくないじゃなくて、しちゃうものらしいですよ」座り場所を確保しながらそう言った。

「じゃあおまえもすんの?」

「つうかおれ、未経験なんで、まず気を溜めるところからはじめないと」

「ためるって何をだよ。ゲンキダマかよ。うけんな、おまえ」

「何で浮気するの?」ニーナは真剣な表情だった。「好きな人いても、ってこと?」

「ふたりはアイス好きですか?」

「嫌いなやついんの?」ヤマピーの発言に、ニーナも首を縦に振った。

「アイスって何か食べちゃうじゃないですか。想像ですけど、それと似た感じなんじゃないですかね。好みとかの前に、アイスが好きだっていう。腹いっぱいでも入っちゃうし、トッピングしたいし、余裕があったら二段重ね三段重ねもしたいし、ソフトクリームとかだとまた違うし。理性よりもアイスが食べたいっていうか」

「……」驚いた表情でニーナが言った。「男ってそんなスイーツな感じ?」

「何となくですけど」

「生物学的うんたらかんたらって聞いたことあるよ」ヤマピーさんはポテトチップの袋をバリバリと開けながら言った。即座に何枚かを口の中に放り込む。「しゃむしゃむ、子孫を残すという本能がどうたらこうたらで、ん、ぱり、男は女という畑に種をまくだけのことだ、みたいな」

「何、それ、最低」

「つーかさ、でも、ニックのアイス理論、わかりやすいかも。しゃむしゃむ、そりゃつまみぐいするわ」

 ヤマピーさんが、照れもせずにニックと呼ぶことに、軽い戸惑いを覚えながらも、誉められた気がして嬉しかった。

「でもそれ、女がわかったらダメなやつじゃね?」ニーナが言う。「アイス理論? でもさ、ってことは、好きな人としたい人ってイコールにならないの?」

「違うでしょ、好きな人は好きで食べたい。好きじゃない人も、まあいいかくらいで食べたい。そんな感じでしょ。ニックのアイス理論だと」

 すっかりマスターしたぞ、みたいな顔で、ヤマピーさんは新たなポテトチップに手をかける。「ぶっちゃけうちもさ、一列に並んだ男たちに次々弄ばれるみたいなシチュ好きだし、一緒じゃね?」

「はあ? 全然ちげえし。てか、おまえおかしいって」

「妄想だけだって。実際そうなったらしんどそうだし」

「あ、電話だ」

「誰?」ヤマピーさんが聞く。

「彼氏」

 困惑をにじませつつも、スマートフォンを覗くニーナはどこかうれしそうで、というかすっかり、もう何ならニーナとつきあっているような気になっているときに、ニーナの口から彼氏という単語が出て、急に現実に引き戻されて、嫉妬のトゲがザクザク心に刺ささった。痛い痛い痛い……。

 ニーナが携帯を持って部屋の外に出ていく。おれは下を向いた。居場所がなかった。心の持って行き場もなかった。ポテトチップの袋の中に入ってしまいたかった。


つづく
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