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「33歳の孤独」または、師匠の選択。
 ♯25 
all you need is gamble.


 ホテルにオバケは出なかった。代わりに、夢に佐和が出てきた。
「これからどうするつもり?」
 耳を疑った。これまで、ずっと喋らなかった佐和が口を開いたからだった。
 どうしようか。平静を装いつつ僕は言う。
「フロリダに行って、どうするの?」
 僕は首を振った。わかんない。
「死にたいんでしょ」佐和は微笑んだ。
 佐和は血まみれだった。why? いや、全然死にたくない。僕は言った。
「自分勝手だね」佐和は言う。

 どうしてアメリカに来て以来、元カノと父のことばかり思い出すのだろう? それはたぶん、彼らがいなくなってしまったもの、過去の象徴だからだ。母はまだ生きている。だから出てこないのだろう。そうか。俺は自分勝手だったのか。知らなかった。って何回思ってるんだか。
 ベッドから起き上がり、一気にしゃーっとカーテンを開けると、青い空の向こうにソフトクリームのような白い雲が浮かんでいるのが見えた。夏休みの空だった。とはいえ、朝の僕は保守的であり、ベーコンとシリアルといういつもの朝食をとって、ホーンテッドマンションのような外観のホテルをチェックアウトした。保守性と移り気な性格というのは、矛盾しないのだな、と我ながら感心する。
 運転席に座り、バックミラーを合わせ、アイフォンのアプリを起動させたところで、「ねえ、もしかしたら、今日中にフロリダ着いちゃうんじゃない?」と言った。
「ミシシッピ州、アラバマ州。そうだね。その次はフロリダ州だね」梅崎さんは言った。
「ミシシッピ川見れるかな」
「昨日通ったよ」
「マジ? ……そうか、あれか」
「で、今日はどこを目指すの?」
「もうカーナビやめようか」そう言ってアプリを閉じて、i-tunesを起動させた。
 佐和が好きだったUnderwolrdが流れ始める。未練がましい男だ。もう一人の僕が言う。いや、ドライブにぴったりよ? そんな肩肘張るなよ、キョーダイ。
「行き先はまかすよ」師匠の好きにすればいい、みたいな顔で梅崎さんは助手席のシートベルトをしめた。
「ねえ、樹」車を発進させながら僕は言う。「観光ビザの期限は?」
「3ヶ月だね」
「それを過ぎたら?」
「オーバーステイ、不法滞在で捕まる」
「そっか。樹のビザは?」
「おれは一応、学生ビザを持ってるから、5年はいられるってことになってるけど」
「へえ」
「金さえあれば何とかなるって感じだけどね」
「てか、お金、全然減らないね」
「移動してるだけだからね。ホテル代を別にすれば、こいつ(車)とおれらの食費しか使ってない。てか、師匠って金遣いが荒くないよね。全然」梅崎さんは笑う。「新しい車買っちゃう?」
「俺この車、けっこう気に入ってるんだけど」
「冗談だよ」
 梅崎さんの冗談は、何が冗談なのかさっぱりわからなかった。赤いマスタングのアクセルを踏むと、怒ったようにぶおおといった。

       777

 ニューオリンズから北上すると、大きな湖があって、その上を走るとき、感動というか、興奮を覚えた。ただ、興奮は、そのうちに倦怠を連れてくる。何となく精神のからくりを知ったようで、寂しいような、嬉しいような、複雑な感情にとらわれた。ルイジアナ州に別れをつげ、ミシシッピ州に入る。1時間もしないうちにアラバマ州に入り、モビール湾という海上を走り抜け、少し走ると、フロリダ州だった。
 カリフォルニア、ネヴァダ、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、オクラホマ、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダ。何かをしたわけではないのに、ただ通り過ぎただけなのに、心が幸福感に包まれていた。達成感といってもよかった。人間って何なんだろう? ただ移動しただけじゃないか。俺はバカなのか? と思いつつも、感動を抑えようとするのは難しかった。
 そういえば、学生時代、僕は算数ドリルが好きだった。四角いマスをただ埋めていく。あの作業感が好きだった。スロットも、設定がわかるまでの、小役をカウントしていく作業が好きだった。徐々にあらわになる設定状況。他人の台が当たりだったときは(シマ単位で設定が入っている店やイベントでない限り)、すぐに別の蓋然性の高い行動に切り替える。自分の台が当たりだったときは、ただひたすらにぶん回す。目標設定と達成感。たぶん僕の脳はそんなことをしているとき、喜びを感じるようにできているのだ。

 ハイウェイを離れ、メキシコ湾沿いの道を運転した。午後の太陽を浴びて、海面がキラキラ輝いていた。
「何かキャンプしたいところだね」僕は言う。
「テント一式買っちゃう?」
「……それはもったいなくない?」
「ほら、出た。師匠の保守性」梅崎さんは笑う。「金を使い切りたいんじゃなかったの?」
「いや、でも、そのためだけに使うのはもったいないじゃん」
「……」
 結局、その日はモーテルに泊まることにした。贅沢をしようという気持ちはあるのだけど、サンフランシスコを出発して以来、二人合わせて20万も使っていない。たぶん、これが僕の金銭感覚なのだろう。小切手はポケットの中で眠ったまま、沈黙している。
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The Solitude Of Thirty-Three Years Old.
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