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「33歳の孤独」または、師匠の選択。
 ♯23 
all you need is gamble.


「本当にギャンブルしなくていいんですね?」梅崎さんは言う。
「ノーセンキュー。出発しよう!」
 変なテンションでラスベガスを南に下り、左折してコロラド川を越えた。一路、東へ。そのまま進むとアリゾナ州に入った。何度か休憩し、運転を代わり、その日のうちにニューメキシコ州に入り、アルバカーキという街でホテルを探すことにした。
「師匠はUFOとか好きですか?」梅崎さんが言う。
 僕は首を振った。
「割とそばにあのロズウェルがありますけど、行ってみます?」
 僕は首を振った。
「師匠、まさかここまで来て、旅行に飽きたとか言いませんよね?」
「……」
 そのまさか、だった。若干、ではあるものの、3日目にして倦怠感があった。ほれ、見たことか。もう一人の僕が言う。
「それやばいでしょ」梅崎さんは新種の小動物を見つけたみたいな顔で笑った。「自分がしようって言ったんだよ」
「うーん。でも、移動ってさ、結局、俺と樹が乗った車が動いてるだけで、風景以外何も変わらないじゃん」
「でも、景色が変われば感覚が変わるでしょ」
「たしかに、コロラドリバーとかテンション上がったし、荒野とか砂漠とか変な岩とか最初はテンション上がったけど、今度は変わったものが出てくることが当たり前になったというか、変わり続ける景色を見ていることが当たり前になったというか。だってここ、ニューメキシコ州だっけ? newも旧もわかんないけど、どんだけ日本から離れてるんだって。その距離感のなさがまた、不感症的な感覚というか……」
「師匠はずっとスロットをしてたんですよね」
「うん」
「13時間? 365日?」
「そうですね。ほとんど」
「何で平気だったんですか?」
「……何でだろう」

       777

 そこそこ値の張るホテルにチェックインし、シャワーを浴び、梅崎さんと街に出て、瓶ビール片手に考えてみた。
 どこに行っても観光に興味を持てないのは、生来の性分なのか、育てられ方なのか。ともあれ、僕という人間の欠点なりパーソナリティなのだろう。京都に行っても大阪に行ってもサンフランシスコに行ってもそうだった。これがエジプトであってもローマであってもペルーであっても南米アマゾンであっても変わるとは思えなかった。何とつまらない男なのだろう? 人類の遺産にも興味を示さず、地球が育んだ生命の多様性にも目を向けず、ぐるぐる回るリールにまつわる日々を懐かしんでいる。

「樹は何をしているときが楽しい? というか、時間が経つのが早い?」梅崎さんをバディと呼んだのは昨日だけで、すでに樹に戻っていた。自分が飽きっぽいだなんて、気にしたこともなかったが、実際そうなのかもしれなかった。
「やっぱりお酒ですかね。前も話しましたけど、松田遼太郎と出会うまでは、酒って飲んだことも、飲むつもりもなかったんですけど、お酒にまつわる空間って、向精神薬という実用的な側面のほかに、何か人間と人間を結びつける力のようなものを感じるんですよね。花見とか、ただ飲みたいだけみたいに見えるけど、その実、宗教的な様相も帯びているじゃないですか」
「でも、世の中には飲めない人もいるわけじゃん。たまたま俺も樹もアルコール摂取にアレルギーのない体だっただけで。それって、ファシズムみたいなもんじゃない?」
「もちろん、飲めない人の気持ちもわかるんですよ。おれは酔っ払いって大嫌いなんで。前後不覚になるくらい飲むのは、擬似的な服薬自殺ですよ。だけど、本当の酒飲みって、山を登る人に似てるっていうか。死に近接しつつ、そこまでは到らないっていう、何ていうんですかね、矜持みたいなものを感じるんですよ。昔の武士みたいな」
「ねえ、何で隙あらば敬語に戻そうとするの?」素朴な疑問をぶつけてみる。
「ほんとだね。意識してないんだけど」梅崎さんは言う。
 倦怠期のカップルのような空気が流れ、はっとする。
「どうして知らず知らずのうちに、相手に自分の感覚を押し付けてしまうんですかね」僕は敬語でそう言った。
「いや、それを言ったらおれもそうですよ。知らず知らずのうちに、師匠に甘えてしまっているところがある」
 僕たちは顔を見合わせて笑った。
「たぶん、人間って(少なくとも俺はってことだけど)、自分が対処できない外的状況を、一緒にいる人間に押し付ける傾向にあるのかも」僕は言った。「母親から生まれて、母親がしてくれたことを、無意識のうちに他者に投影しているというか」
「おれは母親わからないけど」
「……そうだよね。ごめん」
「いや、いいけど」
「とにかくまあ、オープンマインドで行こう」
「そうすね」
「ほら、敬語」
「Oh my gosh」と言って梅崎さんは笑った。「Ok.I'll make it.英語だと楽なんだけどな」
 帰り道、とても月が大きく見えた。それだけで、今日がいい日のように思えた。KIMG7578


 ……何でだ? ああ、半月だからか。
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The Solitude Of Thirty-Three Years Old.
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