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「33歳の孤独」または、師匠の選択。
 ♯22 
all you need is gamble.


 アメリカの荒野ほど、郷愁感をそそる光景はないように思う。うーん、自分が気持ち悪いが、何というか、感動しているのだった。

 古典教師だった父の趣味は、クラシック音楽のレコードの収集だった。ロックンロールで育った世代ではあったが、古典を愛していた。それでも、映画の趣味だけは、アメリカンニューシネマ一辺倒だった。テレビには嫌悪を示す父だったが、暴力とセックス、反抗、犯罪、アンモラル的行動オンパレードの映画は許可してくれた。アメリカンニューシネマと呼ばれる、たいてい、主人公が死んでしまう一連の映画群を。
「映像作品にメタファーのようなものを求めるのは違う」父は言った。「得られる教訓というものもない。映像の世界に入り、戸惑い、たゆたい、主人公の死で現実に戻ってくる」
 僕はあなたの大好きだった映画に出てくるような路上を、ハンドルを握りながら眺めてますよ。父さん。あの世の景色はどうですか?

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 ドライブインに入ってタコベルで昼食をとった。ああファストフードよ。グローバリゼーションの支配者よ。ほどほどの値段でそこそこの満足度を。乱れることのないその予定調和よ。
 トイレを済まし、赤いオープンカーに戻る。併設するガソリンスタンドでガソリンを補給しながら、相棒が言う。「師匠疲れたでしょ。運転代わるよ」
「サンクス、バディ」アメリカ式に梅崎さんのことをそう呼ぶことにする。
 まっつぐな道をぐいぐい進んでいく。途中、助手席でうつらうつら眠ってしまったものの、事故もなく、道の断絶もなく、モンスターとのエンカウントもなく、夕方にはラスベガスに着いたのだった。
 リノに滞在していたときのカジノホテルチェーンがあったので、そこに車をとめ、梅崎さんが値段交渉をしてくれて、チェックインをした後で街にくりだした。現実の都市をモチーフにしたホテル郡。ニューヨークがあって、パリス(パリ)があって、ベニス(ベネチア)があって、どこなんだここ? ホテルの種類といい、広さといい、人の数といい、リノとは比べ物にならないくらいの規模だった。ホテルベラージオのあの有名な(オーシャンズ11に出てきた)噴水を眺める。踊る噴水を阿呆面で眺めているうちに、スーツ姿の集団が現れぎょっとした。コスプレパーティというわけではなく、リクルートスーツ姿の日本人の集団だった。
 中学生の頃、G-SHOCKが尋常じゃなく流行り、その丈夫さを誇った同級生のひとりが、思い切り地面に叩きつけて、「壊れねえ。すげー」と言い始めた。彼は投げつけるたびに「壊れねえ。すげー」と叫び、周りの同級生もすげーと言うのだけど、なぜか僕は不安を覚えていた。結局、彼の蛮行の果てに、彼のG-SHOCKには亀裂が入ってしまった。「……何だ。壊れるんじゃん」悲しそうな彼の顔を見て、不安が解消されるともに、バカじゃないか、と思った。全然違う二つの出来事だったが、同じようなもやもやが胸の中でわだかまっていた。
「師匠ってさ、常識的な人間だと思ってたんだけど、考え方は完全にアウトローだよね。何で?」梅崎さんが言った。「同調とか、忖度とか、空気を読むとかが嫌いなの?」
「集団に混じることができない病気なんだ」僕はマジメな顔で言った。「俺が病気なのか、みんなが病気なのかで悩んだ時期もあったけど、結局、自分が病気であるという説をとることにした」
「そういうの、ネイチャーっていうね。英語だと」
「決まりを守るのは好きなんだよね」僕は言う。「日本にいると、ほとんどみんな信号守るじゃん。だけど、ひとりが渡りだしたら、おそるおそるという感じで、みんな流されていくじゃん。みんな簡単に白と黒を使い分けるじゃん。オセロみたいに。何でそんなにコミュニケーションが上手なんだろう?」
 陽気な音楽とともに、ベラージオの噴水が右に左に(時に形を変えながら)動いていた。
「案外、師匠にもみんなと混じってワイワイやりたいっていう願望があるんじゃない? 同属嫌悪っていうか」
「そうかもね」
「でも、師匠のネイチャーがそうさせてくれない?」
「うん」僕は苦笑した。
 
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 世界最大のギャンブルシティにやって来たとはいえ、さあ、ギャンブルをしようという気持ちにはなれなかった。どうしてだろう? たぶん、ここでもし、勝ってしまったらどうしよう、という不安だった。今は7000万。これを使い切るイメージはできる。が、この7000万がたとえば7億になってしまったら、使い切る自信がないのだった。
 後学のために大人のショーを眺め、何なんだあの女性たちのスタイルは、と仰天し、しかし特にムラムラは発生せず、ホテルに戻り、軽く酒を飲んで就寝。疲れていたせいか、夢は見なかった。
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The Solitude Of Thirty-Three Years Old.
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