僕たちはアタリメをつまみながら、湯飲みに氷を入れて、パックの芋焼酎を飲んでいる。
「四国はどう?」とりんぼさんは言う。

「いいところですね」僕は答える。「道後温泉しか観光らしいことをしてないですけど。ただ、こういう風に面識のない人の家に泊めてもらうのは人生で初めてで、少しとまどってます」

「君は何か不思議な雰囲気があるね。外見は二十代のようだが、妙に老成している」

「そうですかね」
「何の仕事をしてるんだっけ?」
「……」言葉につまった。誰かにこの質問をされるのが苦手だった。 といっても、この生活をはじめてから、頻繁に人に出会うこともなかったから、いつもお茶を濁していた。夜の店なんかでは。
「何かごめんね。言いたくないことなら無理に言う必要はないよ。僕だって人様に誇れるような仕事をしているわけじゃないし」
「スロットをしています」僕は正直に言った。 この期に及んでお茶を濁す意味もなかった。
「スロプロってこと?」
「そんな大層なものじゃないですけど」
「いつから?」
「十代からです」
「すごいな。それは。大学は?」
「高校もろくに行ってないです」
「へえ。何で?」
「……」そう言われてみると、何でだろう? と思った。「何でだろう」
「他者と関わるのが好きじゃないとか?」
「うーん、たしかにあんまり好きではないです」
「パチンコってさ、今めちゃくちゃバッシングされてるじゃん? ヤフーニュースとか見てると記事のトップに出たりする。それについてどう思う?」
「廃止しろ、とかですか?」
「廃止しろ。日本から出て行け。百害あって一利なし」
「何を言われても何も思わないです」
「そういうネガティブな情報は見ないってこと?」
「見ないわけじゃないんですけど」
「他人の意見は気にならない?」
「気にならないこともないんですけど」
 あれ? と思う。俺、ネットの言葉に傷ついて旅に出たんじゃなかったっけ? ……今はもう何とも思っていない自分が不思議だった。
「世間から白い目で見られることに対して何とも思わないの?」りんぼさんは意地の悪そうな顔でそう言った。
「というか、世間って幻想ですよね」僕ははっきりと言った。「俺、幻想を振りかざす人って苦手で。
たとえば、昔は勝てたんだけど、今は勝てないからダメだ、とか、昔はそんなにお金がかからずに遊べたけど、今はかかるからダメだ、とか、そういうことを言う人ってけっこういると思うんですけど、それ幻想ですし、もっと言っちゃえばウソですよね。陰謀論もそうですけど、合理的整合性っていうんですかね、そういうのがない。勢力の弱い団体が、より大きな団体を支配できるはずがない。昔にしても、今にしても、無策で勝てるほどギャンブルは甘いものじゃない。パチンコ業界の衰退はそういうことじゃなくて、ただ単に娯楽の多様化というか、無料化というか、要はインターネットのせいですよ。娯楽産業はほとんど全部右肩下がりじゃないですか。上がってるのはインターネットかスマホ関連のコンテンツ産業だけで」
「師匠はすごいね」りんぼさんはしみじみと言った。「僕は君が怒ると思ってこんな質問をしてみたんだけど、そんなそぶりもない。じゃあ質問を変えよう。師匠は何をしてるときが楽しいって感じる?」
「スロットですかね」
「ゲーム性みたいのが楽しいってこと? それともギャンブル自体が楽しいの?」 
「ちょっと説明が難しいんですけど、スロットを打っていると、時々未来が見えるような瞬間があるんです。ああ、何か引くな、とか。ほとんどはネガティブなことですけど。朝、鏡の前で顔を洗いながら、ああ、今日は勝負しに行ったらダメだな、とか。この台打ったらダメだな、とか。ただ、ダメだな、と思ってもパチ屋には行くんですけどね。で、やっぱダメだったって帰ってくる。科学的じゃないし、突拍子もないですし、論理的整合性とか言っておいて何だって感じですけど

「それってすごいね。武道の達人みたいな感覚なのかな」 

「そんないいものじゃないと思います。オカルトみたいなものです。うまく説明できないですし。りんぼさんは何をしてる人なんですか?」

「僕は人を不幸にするのが仕事だったんだけどね。でも、君みたいな人間を相手にするのはやりにくいだろうなあ」

 人を不幸にする? 僕は首をひねった。 


スロット小説第一弾