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「わたしは不幸だ」という言葉は理解できない、なぜなら本当に不幸な人間には「わたしは不幸だ」とは書けないからだ。フランツ・カフカ

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「不死鳥の灰」
♯53 rythm of life

まえがき 
    

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「永里、おまえと話せてよかった。もし、あの頃、おまえとこういう風に率直に話すことができたら、違う過去があったのかもわからん」
 ミキモトはそう言うと立ち上がり、黒々とした海へ向かって歩き出した。
「おい」ミキモトは振り返らなかった。ミキモトの足が海に浸かり、腰が浸かり、背中が浸かり、ついには見えなくなった。その間も波は絶え間なく行き来していた。

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 記憶が波のように、寄せては返す波のように揺れていた。


 ゆるやかな波が行ったり来たり。巨大な橋の向こうには緑色の島が霞んでいる。その緑はほとんど黒に近い。おれは横になり、学ランの胸ポケットからクールマイルドを取り出し火をつけた。煙が灰色の雲を目指してするすると立ち昇り、しかし煙のあまりにも淡いその願望はすぐに風にさらわれ見えなくなる。空気と混じり、消えていく。

「こらあ、未成年。喫煙、及び授業のサボタージュ。そんなんしてると禁固三年に処されんで」

 寝たままの姿勢で仰ぎ見ると、ハルタの茶色のローファーが、ラルフローレンの紺色のハイソックスが、この街の女子にしては短い部類に入る膝丈の黒いスカートが飛び込んできた。

「サボタージュて」体勢を起こしながらおれは言う。「破壊活動って意味やねんで……」

「蓮? 何で泣いてんの?」
「……」どうしてだろう? 涙が溢れてとまらなかった。
「どうしたん?」そう言いながら、氷野はおれの背中をさすっていた。
「おれのすることは、今までも、これからも、何一つ、成功しない」おれは言った。

「……なあ蓮、うちも横、座っていい?」

「パンツ汚れんで」と言おうとしたが、声にならなかった。

「よしよし」赤ちゃんをあやすような口調で言いながら、氷野はおれの頭をなでていた。まるで太古の昔から聞こえてくるようなリズムが聞こえていた。それが氷野の心臓の鼓動ということに気づくまでに、しばらくかかった。

つづく
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"Study for a Running Dog"


「走る犬のための習作」
フランシス・ベーコン1954年


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