「わたしは不幸だ」という言葉は理解できない、なぜなら本当に不幸な人間には「わたしは不幸だ」とは書けないからだ。フランツ・カフカ

1ベーコン_走る犬のための習作 - コピー
「不死鳥の灰」
♯49 the king of red lion

まえがき 
    

スロ小説とは何か? 

スロ小説の年表   


「本日はお呼び立てしてしまってすいません」クロスという男は言った。
「で、用件は?」
「そちらの方は?」
「ああ、こいつはおれの弟子。問題ある?」
「いえ。失礼しました。単刀直入に申しますと、組織解体にともなう財産分与の話です」
「財産分与?」
「組織では、班長という絶対的な権力をめぐるいざこざを抑止するために、班長になった時点で遺書の提出が義務付けられてました。それがこちらになります。班長は文章を書くのが嫌だと言うので口頭陳述の書き起こしですが」

 遺書

 俺は死なないような気がするから大丈夫な気がするんだけど、ダメ?
 俺が死んだら? そんなの想像できねえよな。でもやんなきゃダメなんだろ? 俺が死んだ後の田所班は、つっても黒須しかいねえもんな。そのまま解体してほしい。一番大変なのはたぶん黒須だから、あいつには次の仕事先の斡旋と、退職金として3年分くらいの給料を渡してやってくれ。その後で、残った金を――ずいぶん残るはずだから――内部留保なんかしないで、俺にかかわったやつに均等に分配してほしい。俺の持ち物はすべて処分してくれてかまわない。ああ。俺の部屋にある獣王だけはレンくんに返してほしい。お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。これくらい言っておきますか。以上。田所類でした。

 証人 白取亜美

       777

「この白取亜美って人は?」
「組織の関連企業で顧問をしてくれた弁護士さんです」
「……」
 白取絵美。白取亜美。偶然の一致だろうか?
「それで、こちらが獣王という台だそうです」
 ビロードの布に包まれていたその台は、コピー打法可能の初代獣王だった。それからドアキーと設定変更キー。こんなもんどこから見つけてきたんだ?
 不可解な顔をしていると、クロスは言った。
「お手数をおかけしますが、お持ち帰りください」
「あいつは死んだのか?」
 クロスは本心ではない、という顔で口を真一文字に結んだ。
「田所班長は消えてしまいました」
「殺されたってこと?」
 クロスは首を横に振った。
「私はこの件に、これ以上かかわりたくないので、何も申し上げられません」
「……つうか、こんな重いもん、持って帰れないだろ」おれは苦笑した。
「車使いますか?」
「ああ、そうするわ」
 おれたちはおれのアパートに獣王を運び、今間に引き返して車を車庫に戻し、クロスという男に車の鍵を返した。なぜか、山下宍道は終始上機嫌だった。
「では、本件をもって、田所班の解体とさせていただきます。証人ということで、ここにサインをいただけますか?」
 おれは署名した。

   永里蓮

「これで終わり?」
「はい。ご足労おかけしました」
「じゃあ、おつかれ」そう言って立ち上がろうとすると、「あの……」と呼び止められた。
「ん?」
「田所さんは、弱者のためのセーフティネットをつくろうとしていました。真剣に」
「うん」
「それで実際、助かった人も大勢いるはずなんです……」
「あいつも畳の上で死ねるとは思ってなかっただろ。あいつのしてきたことを無にしたくないというのなら、あいつの意志を継いだらいいんじゃねえの。って、初対面何でえらそうだな、ごめん」
「いえ、ありがとうございます」

       777

 山下宍道が高揚した顔で言った。
「やっぱ永里さんといると、何かありそうっすね」
「なあ、さっきも言ったけど、おれと仲良くなるやつはたいてい死ぬ」
「人間は死に近接しないと生を感じられない生き物らしいっすよ」
「おれは自分の身しか守らないからな」
「永里さんはおれのことなんて気にせず、したいようにしてください。おれが勝手に永里さんの後ろを追いかけるんで」
「……そういうこと言うやつに限って、いなくなるってのがパターンだよな」おれは笑った。

つづく
にほんブログ村 スロットブログへ     
 

タイトルバック

"Study for a Running Dog"


「走る犬のための習作」
フランシス・ベーコン1954年

♯50へGO!