神を見たものは死ぬ。言葉の中で言葉に生命を与えたものは死ぬ。言葉とはこの死の生命なのだ。それは「死がもたらし、死のうちで保たれる生命」なのだ。驚嘆すべき力。何かがそこにあった。そしていまはもうない。何かが消え去った。

モーリス・ブランショ 「La part du feu」3ベーコン_人物像習作 II
「不死鳥の灰」
♯39 literature

まえがき 
    

スロ小説とは何か? 

スロ小説の年表 


「永里さんって普段何してんすか?」
「普段って、仕事してるじゃん」おれは言った。
「じゃなくて、バイト以外の時間です」
「本読んでるかなあ」
「やっぱそうすよね」
「やっぱ?」
「何か、永里さんって本読んでる感じがしたんすよねえ」
「本読んでる感じって何だよ……」
「何か、武道の達人が一目見て相手の力量がわかるみたいな感じですよね。ああ、この人、文語の中にいる、みたいな。当てていいですか?」
「……」
「当てますよ。村上春樹好きですよね?」
「うーん」
「少なくとも、読んでますよね?」
「まあ」
「ほら」
「いや、それさあ……」おれは笑ってしまった。「プロ野球ファンですって言ってるのに、巨人の話をはじめるやつと一緒じゃん」
「そうですよね。わかりますわかります。じゃあ太宰はどうですか?」
「読んでるよ」
「ほら」
 何だ、こいつ、と思う。でも、少し興味がわいた。「……おまえ、名前なんだっけ?」
「マジすか? おれの名前知らないんすか? ここに名札あるじゃないですか」
「山下なに?」
「えええ」まだ男子といった風貌の男は体をのけぞらして言った。「モブキャラすか、おれ、モブキャラすか? ここ入ってもう3ヶ月っすよ。きっつー」
「じゃあ自己紹介しろよ」
「どんだけ上から目線なんすか……わかりました。山下宍道、F大学3年、好きな作家は西尾維新です。よろしくお願いします」
「……何その胡散臭いプロフィール。ヤマシタシンジ? F大学?」
「本名ですし。マザファッキンFランなんで大学名は勘弁してください」
「自分で選んで入ってFランクとか侮蔑する意味がわかんねえんだけど」
「てかあれっすね。永里さん全然喋らない人かと思ったんですけど、けっこうガツガツ来る人なんすね」
「読書人のオーラじゃなかった?」
「いや、おれの目に狂いはないはずです」
「てか、3年だったらバイトなんてしてないで、就職活動しなきゃいけないんじゃねえの?」
「ああ、おれ、就職しないんで大丈夫です」
「何で?」
「親が自営業なんで」
「へえ」

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「いらっしゃいませ」おれたちは言う。
「来ちゃった」と言ったのは、山崎だった。
「はじめまして」男は山崎の後ろから顔を出して言った。それは白人男性には珍しい態度のように思えた。
「デイビッドさん?」
「はい。デイビッドです。はじめまして」
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」そう言って、二人を案内する。
「35歳の新人ウェイターさん、おすすめは何ですか?」
「お客様はファミリーレストランにご来店された経験がないのですか?」おれは言う。「ファミリーレストランは、すべてのメニューにおいて値段もそこそこ、味もそこそこ、という顕著な特徴があります。ご注文がお決まりになりましたら、お手元のボタンを押して、お呼びください」

つづく
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タイトルバック

Francis Bacon"Figure Study 2"

「人物像習作2」

フランシス・ベーコン 1946年  

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