「わたしは不幸だ」という言葉は理解できない、なぜなら本当に不幸な人間には「わたしは不幸だ」とは書けないからだ。フランツ・カフカ

1ベーコン_走る犬のための習作 - コピー
「不死鳥の灰」
♯48 I should go there

まえがき 
    

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 クロスという男からの電話を切ってベッドから起き上がると、山下は寝袋の中ですやすやと眠っていた。ふう、と一息吐く。まだ酒が残っている。シャワーを浴びて、髭を剃り、炭酸水を飲んだ。山下は微動だにせず睡眠の中にいる。その若さがうらやましかった。
「おい起きろ」おれは言う。
「……」
「もう11時だぞ。大学は?」
「マジすか。そんな時間すか。もう少し寝てていいすか?」
「ダメ」
「わかりやした……」と言って山下は大きなあくびをした。「あ、永里さん」
「ん?」
「おれを弟子にしてください」
「はあ?」
「昨日言ってたじゃないですか。パトロン制度って。おれ、パトロン第一号になります。だからお願いします」
「意味わからん」
「永里さんをはじめてバイト先で見たときにピンと来たんです。面白い本の背表紙を見た瞬間のピンと来るあの感じです。わかりますよね」
「わからん」
「この半年くらい永里さんを観察していて、ピンが確信に変わりました」
「何の?」
「この人の見てる世界は面白いに違いないという」
「……面白い?」
「昨日店長と永里さんにおごってもらいましたけど、永里さんのお金の使い方は、時給で働いてる人の使い方じゃないです」
「そんな比較されてもな」
「おれは永里さんに金銭と人材というソフトとしての提供ができる。永里さんはおれにフォーマットとして、ハードとしての提供ができる。ウィンウィンですよ先生」
「御託はそれくらいにして、おれは行くところがあるから、早く支度しろ」
「おれマジで大学辞めますから」
「はあ?」
「大学はいつでも行けるじゃないですか。だけど、永里さんは今おれが支えなきゃ死んでしまうかもしれない」
「頭大丈夫?」
「昨日のことを思い出してくださいよ。おれがいなかったらやばかったでしょ」
「……」
「おれはずっと探してたんすよ。自分を注げる器を。昨日言ってましたよね。金よりも信用だって。おれのことを信用してもらうために、おれは永里さんのパトロンになります」
「じゃあ、今から行くとこついてこいよ」
「いいですよ」

       777

 電車を乗り継いで今間に向かう。
「おれ、辺縁の街ってあんまり行ったことないんですよね」山下は言う。
「じゃあ来なくていいよ」
「いや、いきますって」
 指定されたマンションのエントランスで、指定された部屋番号を押す。
「武装した男が待ち構えてるとかないですよね」山下が言う。
「すげえな」
「はい?」
「その予感当たってんぞ、たぶん」
「……」
「後悔してもおせえぞ」おれは笑いながら、オートロックの扉の向こうに進んだ。

つづく
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"Study for a Running Dog"


「走る犬のための習作」
フランシス・ベーコン1954年
  

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