神を見たものは死ぬ。言葉の中で言葉に生命を与えたものは死ぬ。言葉とはこの死の生命なのだ。それは「死がもたらし、死のうちで保たれる生命」なのだ。驚嘆すべき力。何かがそこにあった。そしていまはもうない。何かが消え去った。

モーリス・ブランショ 「La part du feu」3ベーコン_人物像習作 II
「不死鳥の灰」
♯38 sexual desire

まえがき 
    

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 おれと白取絵美は、週末になると、どこかに飲みにいった。そこでおれたちは、お互い、過去と過ごすのだった。おれはたけしくんになり、彼女は氷野さんになった。が、そのうちに小さな相違点が目に付くようになった。その穴こそが、相手の個性であり、現在の自分の立つ地点だった。おれは時給850円で働くフリーターで、彼女は国家資格を持った看護師だった。
「将来性が必要とかみんな言うけど、どうしてそんなこと気にするのかな」白取絵美は言った。「今より大切なものなんてあるのかな」
「それはある程度、キミが裕福だからじゃないっすか」おれは言う。
「裕福っていうのは年収が数千万の人を言うんじゃない?」
「だからある程度」
「違うよ」白取絵美はムキになって言い返す。「経済規模が下がり続けてるんだから、将来性なんて言葉には意味がない。と思わない?」
「その意味がないって言葉、おれのやつだよね。返してくれる」おれは笑う。
「しまった。また移ってた?」
「うん」

 永里さんという呼び名が蓮くんになった頃、家賃8万、風呂トイレ別、1DKの彼女のアパートの、ピンク色のベッドの上でセックスをした。そこでおれたちは、再び過去と対面するのだった。おれはたけしくんで、彼女は氷野さんだった。吹き飛んでしまった20代が帰ってきたような気がした。
 そしてまた、相違点がおれたちを現実に連れ戻す。

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 喜怒哀楽と性欲の復権に、戸惑いを隠せなかった。とたんに自分の身分が恥ずかしいもののように思えてきた。将来性というのは、拡大解釈されたID(アイデンティティ)なのだった。おれの(わたしの)ノビシロはスゴいで。おれは(わたしは)こんなにイケてるんやで、という自慢なのだった。
 その自慢の意味がわからない、という理由もわかるが、その自慢を(つい)してしまう理由も理解できる。風の前の紙切れのように揺れている。こんな感覚は本当に久しぶりだった。

つづく
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Francis Bacon"Figure Study 2"

「人物像習作2」

フランシス・ベーコン 1946年 

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