神を見たものは死ぬ。言葉の中で言葉に生命を与えたものは死ぬ。言葉とはこの死の生命なのだ。それは「死がもたらし、死のうちで保たれる生命」なのだ。驚嘆すべき力。何かがそこにあった。そしていまはもうない。何かが消え去った。

モーリス・ブランショ 「La part du feu」3ベーコン_人物像習作 II
「不死鳥の灰」
♯37 natural born killers

まえがき 
    

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「XYZというカクテルも、元カレが教えてくれたんですよね」白取絵美と名乗る女は言った。
「女の人って引きずらないとか言わない?」おれは言う。
「人によりますよ」
 おれたちは和民に入ってチューハイで乾杯した。
「永里連、35歳です」
「白取絵美、27歳です。たけしは31歳でした」
「ああそう」
「たけしはSEでした」
「うん」
 たけし? 誰だそれは。段々腹が立ってきた。
「おれ、明日も仕事だから、これ飲んだら帰ります」
「……」
「いや、そんな顔されても知らんし」
「そうですよね。うざいですよね」
「うん」
「たけしは死んじゃったんです」
「……」
「わかってます。あなたはたけしじゃない。でも、後姿が本当に似てて」
「レストインピース」おれは言った。「たけしよ、安らかなれ」
「……何ですか、それ」
「ご愁傷様でした」おれは頭を下げた。
「何で人は死んでしまうのでしょうか」
「じゃあ何で人は生きてるのでしょうか?」
 女は首を横に振った。「わかりません」
「生きる道理がわからないのだから、死ぬ道理だってわからないよね」
 うんうん、と女は二回うなずいた。「そうですね」
 おれたちはその夜、お互いの連絡先を教えあって、別れた。

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 次に彼女に会ったのは、翌週の土曜のことだった。
「永里さんのお仕事は何ですか?」
「フルタイムのアルバイター、フルーターです」
「そうなんですか」
「新人だけどね」
 自分の中に喜怒哀楽が保存されていたことに驚いた。白取絵美は元カレの幻影をおれに求めていた。そんなものをおれに求められても困る、と言いながら、まんざらでもなかった。口には出さないが、おれも彼女の向こうに氷野を見ていたからだ。都合のいい共犯者。そういう感じだった。
「おれ、時給850円ですよ」
「わたしはもう少しいいですね」
「そりゃそうでしょうね」
「たけしの時給はもっと低かったですよ。ほとんど休みなしで15~16時間働いてましたから」
「それはブラック企業というやつですね」
「でも、たけしは社長みたいなものだったので、しょうがなかったんだと思います」
「でも、それで死んじゃったら意味ないよね」
「……」
「ごめん」
「いえ」

つづく
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Francis Bacon"Figure Study 2"

「人物像習作2」

フランシス・ベーコン 1946年 



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