神を見たものは死ぬ。言葉の中で言葉に生命を与えたものは死ぬ。言葉とはこの死の生命なのだ。それは「死がもたらし、死のうちで保たれる生命」なのだ。驚嘆すべき力。何かがそこにあった。そしていまはもうない。何かが消え去った。

モーリス・ブランショ 「La part du feu」
3ベーコン_人物像習作 II

「不死鳥の灰」
♯36 can I have a XYZ,please?

まえがき 
    

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 もう1杯飲みたいという誘惑に負けて、おれはBARの扉を開けた。外装に比べてがちゃがちゃした内装の店だった。
「XYZをください」と言った。
 その思い出のカクテルはそれほどおいしくはなかった。というか全然美味しくなかった。ただ、これで帰るふんぎりがついた。図書館で借りた文庫本をめくりつつ、カクテルをゆっくりと口に運ぶ。
 定型的なジャズが流れていた。
「暗いですよね。ライトをお貸ししましょうか」バーテンダーが言った。
「いや、大丈夫です」
 カラン、という鐘が鳴って客が入ってきた。
「いらっしゃいませ」バーテンダーはおれのふたつ隣に女性客を通した。
「XYZをください」その女性は言った。
 左を向いて、時が止まった。その横顔が、あまりに氷野にそっくりだったからだ。
 バーテンダーが何かの拍子で裏に引っ込んだとき、氷野に似た女性は言った。
「あの、どこかでお会いしたことありませんか?」
「いや、ないと思います」おれは首を横に振った。

       777

 ……ダメだ。帰ろう。お会計を済まし、外に出た。さっき浮かんでいた月は見えなくなっていた。シャツをはおり、歩き出す。
 後ろから声が聞こえ、振り返ると、氷野に似た女性が立っていた。
「あの、もし、よかったら、一緒に飲みませんか?」
「はい?」
「自分でもおかしいことを言ってるのはわかってます。1軒だけつきあってくれませんか?」
「……いいけど、おれ、絵とか買わないし、宗教とかも入らないですよ」
 女は日本猿の子どものような顔で笑った。その笑い方も氷野そのものだった。「さっきのお店に入ったときに、後ろ姿を見た瞬間、あ、たけしだって思ったんです」
「たけし?」
「すいません。元カレの名前です」
「……」
 今、思えば、このときのおれは、油断していた。身構えていたにもかかわらず、それでも。

つづく
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タイトルバック

Francis Bacon"Figure Study 2"

「人物像習作2」

フランシス・ベーコン 1946年 
 

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