いまや人間はじぶんが偶発事であり、意味のない存在であり、理由もなく最後までゲームをやりとげねばならないことを実感しているのだ。

フランシス・ベーコン

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「不死鳥の灰」
♯16 warp

まえがき 

スロ小説とは何か? 

スロ小説の年表 

 


 カラン、という音がして、田所りんぼが持っていた銃がフロアに落ちた。そこにいるのは、田所りんぼではなく、田所当真だった。
「ギリギリセーフ」トウマは言った。
「……どういうことだよ」戸惑いを隠せない表情で類は言う。
「あの人が死んでしまうと、困ったことになる」
「何で?」
「うまく説明できないんだけど、いいかな」
「いいから言えよ」
「何て言えばいいんだろう……」トウマは倉庫か工場のような場所の高い天井を仰いだ。「僕は田所くんの部屋にあった遺骨の一部から甦ったから、成分が薄いみたいな話はしたよね?」
「ああ。ドラえもんのオイル理論とかって」
「あの人は、厳密に言えば、僕の言った悪しきものじゃない」
「じゃあ何だよ」
「僕ではあるんだ。だけど、僕だけじゃないんだよ」
「は?」
「僕の本体に、田所りんぼという魂が入った状態っていうか……」
「でもあれは田所りんぼさんだった」
「それは、僕のことを知らない人間が、僕の姿を田所くんに見えているのと同じ現象だと思う」
「……つまり、田所当真と田所りんぼをつなぎあわせたやつがいるってこと?」
「ああそうか。そう言えばよかったのか」
「そいつは誰なんだ?」
「わからない」
「わかれよ」苛立たしげに類は言った。
「僕がわかっているのは、君が田所りんぼと呼ぶ人が死んだら、僕らも死んでしまうということ」
「は? 俺も? 何でだよ」
「僕の体は、今、君の右腕なんだ」
「意味わかんねえ」
「困ったな」トウマは言った。「君がバカなのか。僕の口が下手なのか……」
「どっちでもいいから早く話を進めろ」
「今、僕と、僕の本体と、田所類くんは、三位一体(さんみいったい)なんだよ」
「何で?」
「何でも」
「おまえ、おまえの本体、俺が三位一体?」
「そう」
「おまえの本体ってのが、田所りんぼなのか?」
「違う。僕と、田所りんぼさんという人の混交」
「わかりにくいにもほどがある……」
「じゃあ、田所くん、君が名前をつけてくれよ。僕はそういうの苦手だから、君が」
「わかった。トウマとりんぼでトんぼ」
「安易過ぎない?」トウマは笑う。
「……俺が本社、おまえが支社。そこまではわかった。トんぼってのは何なんだよ」
「田所くんの一人称だとその理解でいいと思うけど、僕は、君の言うトんぼの支社でもあるんだよ。死者だけに」
「殺すぞ。くだらねえこと言ってねえでちゃんと説明しろよ」
 ダダをこねる子どものように、地団駄を踏みながらトウマは言う。「だから何度も言ってるだろ。僕はまだ13歳なんだよ」
「そうですね。まだお子様なんですね。よしよし」
「バカにするなよ」
 ふう、と一息吐いて、類はあたりを見渡した。
「親父が死んだ。かーちゃんも死んだ。牙、友だちも死んだ。あいつを殺せるなら、俺の命なんかどうでもいい」
「仮定の話だけどいい?」落ち着きを取り戻したような表情でトウマは言った。
「ああ」
「田所りんぼというのは、失われない記憶のようなものなんだと思う。それはある種のシステムというか、OSであって、実体ではない。誰であれ、そのOSをインストールすれば、田所りんぼになってしまう。今のトんぼがそう。つまり、僕と君とトんぼが死んだとしても、田所りんぼの死にはならない」
「じゃあ無理じゃん」
「田所りんぼという存在を消すことは不可能だと思う」

       777

 ガラガラと扉が開いた。入ってきたのは組織の幹部、高崎だった。
「田所班長」高崎は言った。「会長の遺言を受け、本部はあなたを組織の次期会長に推挙(すいきょ)することが決まりました」
「……高崎さん。それは、りんぼさんの意思ですか?」
「りんぼさん? あの人は亡くなっただろ」
「じゃあ、どういう理由で?」
「長い話になる。今それを話しているわけにはいかない。とにかく、この場を何とかしなければ」
 類は首を横に振った。
「親父とかーちゃんをこのままにはしておけない」
「おふたりはこのままお連れしよう。とにかく、警察がやってくる前にここを抜け出さないと」
 高崎班の面々が倉庫か工場のような空間に入ってきた。テキパキと、フロアに転がっている遺体を外に運んでいく。
 人にまかせるわけにはいかない。類は父親を背負うことにした。が、自発的に動く可能性のない遺体は重いなんてものではなかった。
「トウマ、悪いけど、俺のかーちゃんをおぶってくれないか?」
 トウマは無言でうなずくと、類の母の遺体を背負った。
「高崎さん、牙も一緒に運んでもらっていいですか?」類は言う。
「わかった」
 部下ではなく、高崎本人が、牙大王の遺体を背負う。外に用意されていたリムジンに、類たちは乗り込んだ。
 類も、トウマも、高崎も血まみれだった。
「高崎さん」類は言った。「あなたは誰の味方ですか?」
「質問の意味がわからないな」高崎は答える。
「たとえば、田所りんぼさんと、組織が反目した場合、あなたはどちらにつきますか?」
「りんぼさんはすでに亡くなっている。その仮定に意味はあるのか?」
「たとえばの話です」
「もちろん、組織だよ」
「本当に?」
「どうして嘘をつかなければいけない?」
「高崎さん。俺が会長になったら、組織をただの非合法集団から、田所りんぼを消滅させることを目的とする集団に変えます。それでも、俺を推挙しますか?」
「田所班長、薬を盛られたんだね。君は少し休んだほうがいい」
「あれ? トウマはどこですか?」
「トウマ? 君は何を言っているんだ?」

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