いまや人間はじぶんが偶発事であり、意味のない存在であり、理由もなく最後までゲームをやりとげねばならないことを実感しているのだ。

フランシス・ベーコン

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「不死鳥の灰」
♯4 the red lion

まえがき 




 獣王のリール始動音で目が覚めた。
「うるせえ」ガラガラの声で類は言う。「今何時?」
「もう昼過ぎだよ。ねえ、田所くん、これって何が面白いの?」
「スロット?」少し考えた後で類は言った。「そうな、ギャンブルだから面白いんじゃね」
「そうか、ギャンブルできる年齢なんだね」
「ギャンブルでも風俗でも酒でも煙草でも借金でもできるお年頃だわ」
「ふうん」類の借りている1DKの室内を見渡しつつ当真は言った。
「つうか、おまえ、飯は?」
「お腹は空かない」当真(とうま)は答えた。「その代わり、君のお腹が異常に減るはず……」
「おまえマジで何なの?」類は当真が喋り終わるのを待たずに立ち上がり、伸びをした。「何か疲れが取れてない感じがするんだけど、これもおまえのせい?」
「何でもかんでも人のせいにしないでよ」当真はそう言って、コインをダララララ、と獣王のコイン投入口に流し込み、レバーを叩いた。リプレイが揃い、カバが鳴く。

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 トウマの予言通り、おそろしいまでの空腹が類を襲っていた。一刻も早く何かを腹におさめなければ死んでしまう。類はお腹をくだした人のような格好で外に飛び出した。その後ろをトウマはゆっくり追った。
「おい、急げ」類は言う。
「僕は急ぐのが好きじゃない。何より、まだ歩くことに慣れてないから急げない」
「つって、おまえから離れると、おまえまた何か言うだろ」
「うん。僕は消滅してしまう」
「何なのその脅し。勝手に死ねよ」
「そんなこと言っていいのかな。僕が死ぬと、……(もにょもにょもにょ)」
「おい。もにょもにょ言ってないで最後まで言え」
「切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持て」
「何だっけそれ?」
「君が好きだったマンガのワンシーンだよ」
「ああ。幽遊白書か」
「じゃあ、このセリフは?」
「ん?」
『俺がおまえを背負って生きてやる。ほら、今度こそ乗っかれよ。田所当真、同じ名字のよしみだ』
「……」
「さあ、誰の言葉でしょう?」
「……」類は赤面していた。「何でおまえがそれ知ってんだよ」
「ばあちゃんの魔法。君の言霊。それが僕だ」
「……つうか、腹減り過ぎて話が入ってこない」そう言うと、類はローソンに入っておにぎり、メロンパン、からあげくんレッドを購入し、戻ってきた。
「で、何だって?」もぐもぐと口を動かしながら類は言う。
『俺がおまえを背負って生きてやる。ほら、今度こそ乗っかれよ。田所当真、同じ名字のよしみだ』
「それはもういいって」
「じゃあ、これは?『あぶれたやつは寄ってこい。俺が全部面倒見てやる』
「……」
「誰の言葉?」
「……俺……」

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 類のポケットの中で、スマートフォンが振動していた。
「もしもし」
「田所班長。面会希望者がお見えになりました」
「わかった。今から行くからちょっと待ってもらって」
「はい」
「仕事だ」類は言った。
「仕事って?」
「居場所がないやつのセーフティネットつくってんだ」
「僕は?」
「は?」
「居場所がないやつ。僕」
「……だから、こうやって話聞いてるし、泊めてやってるじゃん」
「ふうん」当真は興味なさげにうなずいた。「仕事ならしょうがないね。じゃあ別行動する?」
「おまえ消滅するとかって言ってなかった?」
「いや、君さえ了承してくれたら、方法がないこともないけど、でも、いいの?」
「うん。おまえと離れられるんだろ」
「ちょっと右手貸して」
 類が右手を出すと、当真は山羊座のシュラばりの手刀を類の肩目がけて振るった。右肩に激痛が走った。手がもげた、と類は思う。しかし右手はついている。パニックに襲われそうになったが、類はこらえた。
「これで別行動できる」トウマは言う。
「……おまえ、何した?」
「君の右手を依り代にする」
「は? つうか俺、右手あるぞ?」
「ああ。機能には問題ない。と、思う。ちょっと君の体の消耗は激しくなるけど、君のことだからきっと大丈夫」
「何なのおまえ?」
「背負ってくれるんだろ。右手の一本くらい、いいだろ」
「……後で返せよな」
「山田くんの所在はわかる?」トウマは言った。
「山田克己? あいつ、たぶん忙しいぞ」
「何してるの?」
「どっかの大学病院で研修医してる」
「へえ、あの山田くんがねえ」

つづく
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