憎しみってやつあな、悲しみに面と向かって腰を据えらんねえやつが逃げ込む場所だ。

 ゴドー   
ベルセルク17巻より

「大不幸」
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♯1「イマ中、1年3組のふたりの田所」




 今間中学、1年3組 
 

 このクラスにはふたりの田所がいた。ひとりは、田所類(たどころるい)、もうひとりは、田所当真(たどころとうま)。


 PM 4:10 学校からの帰り道


 それは異常な光景だった。田所当真は、子どもに虐待をくわえる父親のように、お地蔵さんの頭を叩いているのだった。

「おまえ、何やってんだ?」下校途中の田所類は、ためらいつつも、そう言った。

 お地蔵さんを叩く手を止めるかと思いきや、田所当真は止めなかった。
 パシン、パシン、パシン、パシン……
「おい」類(ルイ)は言う。
「何?」そのままの姿勢で当真(トウマ)は返す。

「おまえ、バチあたんぞマジで」

「田所くん」

「なあ、田所に田所って言われたくねえんだけど」

「でもしょうがないよね。僕の名字は田所だし、君の名字も田所だからね」当真はそう言った後、ふひひひひ、と類を嘲るように笑い、お地蔵さんに向けていた体を類の方に向けた。「田所くん、大不幸って知ってる?」

「大富豪じゃなくて?」

「まあ、似たようなゲームだよ。ヒエラルキーのね……」

「何だよ、ヒエラルキーって」類はわからないことをわからないと言う男であった。
 ふひひ、と当真は笑う。「簡単に言うとね、弱肉強食のたとえに使われるようなピラミッドのことだよ」
「は?」

「そうだね、たとえば僕らのクラスで考えてみてようか」

「俺らのクラス?」

「近頃はスクールカーストと言ったりするけれど、田所くんは、今、クラスの中で自分がどのあたりのポジションにいると考えている?」

「わかんねえけど、下ってことはねえんじゃね?」

 しっしっし、当真は声を押し殺して笑う。「もちろん下ってことはないよ。僕の見るところ、君の声は一番大きい」

「何が言いたいんだ?」声を荒げて類は言う。

「田所くん、大富豪というゲームの核心はどこにあると思う?」

「あ? 知らねえよ」

「あのゲームにはいくつものローカルルールがあることは知ってるよね。大貧民って言うところもあるらしいし。5スキップ、8ギリ、11バック、しばり、片縛り、数字縛り、色々ある。それでも、あのゲームの核はひとつだ」

「何だよ?」

「革命だよ」

「革命?」

「持つものと持たざるものが一瞬で入れ代わる。大不幸というゲームにも同じようなルールがある」

「何?」

「そのゲームに参加する人間の幸福が不幸に変わる」

「は?」類は不安そうな声で言った。「何のためにそんなゲームをすんだよ」

「他人の不幸は密の味って言うだろ? 必要、不必要じゃない。娯楽ってそういうものだよ。田所くん」当真はそう言うと、体の向きを変え、再びお地蔵さんの頬をパシンパシンと叩き始めた。

「おまえ、きもちわりいんだよ」

 田所類は乱暴にそう言い放つと、走り去った。後に残った田所当真は、類には目もくれず、お地蔵さんの頬を叩き続けていた。


          ◆


 田所党(たどころとう)は、田所類を中心に結成されたクラス内コミュニティである。発案者は、土田孔明(つちたこうめい)という線の細い男子だった。
  なぜ、そんなコミュニティがつくられたか?

 イマ中、1年3組。このクラスの女子は仲がよかった。女子15人中、8人が吹奏楽部に入っていたという理由もあるが、体育会系、文科系の垣根を越え、彼女たちはおおむね友好的な関係を築いていた。

 が、男子は違う。野球部とサッカー部の仲が悪かった。バスケ部とバレー部の仲も悪かった。文化系部活の男子も、それぞれ仲が悪かった。校庭、体育館、校舎。同じフィールドを使う以上、避けられない不和だった。
 しかし田所党は、サッカー部、野球部、吹奏楽部、美術部、それから帰宅部の土田孔明と田所類の、計6人で結成されていた。彼らが部活間の不和を乗り越えてまで結託したのは、明確な敵の存在がいたからだった。
 敵、エネミー、彼こそが山田克己(やまだかつみ)、クラスの不人気を一身に集める男である。

 己をこえるという、名づけ親が込めたであろう願いの逆を行くように、山田は欲望に忠実に行動した。ものが欲しければ奪い、誰かが気に入らなければ危害を加え、授業にはほとんど参加せず、教師を含め、常に周りの人間を見下した。見た目こそ、それとわかるような派手さはなかったが、基本姿勢は一時代前の不良を踏襲していた。良い、悪い、という二択があれば、必ず後者を取るスタイルである。ほとんどのクラスメイトは彼の存在にうんざりしていた。


 が、我らが主人公、田所類は防御をしない。敵という概念がないのだ。ゆえに恐怖もない。その田所類の特性こそが、土田孔明の党結成のアイディアの根幹であった(バカには勝てない、というのが彼の結論だった)。

  田所類は田所類で、おだてられれば木に登る傾向があった。週間少年ジャンプの信者でもあった。友情が何より大切なものだと信じて疑わず、それに加え、党首という立場が、彼に責任感を芽生えさせていた。

 事実、田所類は田所党の党首として、いつも山田克己にイジられている当真をメンバーに加えてあげようと考えていたのだ。が、その考えは改めざるを得なかった。お地蔵さんの頭を叩く男はちょっと無理だよな、と。同じ名字のよしみで党に入れてやろうと思ってたんだけどな。

つづく
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今日はこの後12時につづきをアップします。

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