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午前11時のブンガク

な?

目が覚めると、東京タワーの下にいた。

主人公(30代後半、男性)が思い出していたのは、ある小説だった。
ある日の朝、主人公、グレゴール(最近の翻訳ではグレーゴル)・ザムザは、自分が毒虫になっていることに気づく。あかん。仕事行かなあかん。だけど、おれは、どこからどう見ても、人間ではない。毒虫である。比喩ではない。虫の種類はわからないが、少なくとも、人間ではありえない。これ、どないしたらええんや? しかしグレゴールはマジメな男だった。そんな状況でも、職場に行こうと奮闘するのだった。が、今の自分には足がたくさんある。それぞれが独立してワナワナ動いておる。どないしょ。家族が部屋の外から声をかけてくる。これ、ホンマにどないしょ。

「変身」フランツ・カフカ


ひとしきり、20世紀最強の中編小説に思いをめぐらせた後、主人公は思う。ああ、いっそのこと、おれが今、虫だったらよかったのに、と。朝起きたら毒虫になっている。何を断るにしても、最強の理由だ。まず、仕事に行けない。約束を守れるはずがない。体の構造上、声が出ない。ペンも持てない。弁解しようがないのだ。人間の法律が適応することもなさそうだ。リンゴを投げつけられるかもしれないが、とても、自由だ。もしかしたら、カフカさんは現実から逃れる手段を考えているうちに、この小説を思いついたのではないか。

我に返る。というか、気持ちが悪くて返らざるを得ない。おええええええ。排水溝に向かってゲロを吐く。外はすでに明るい。30代後半の男性が、早朝、音を立ててゲロを吐いている。毒虫よりも醜悪かもしれない。が、そんなことはおれの知ったことじゃない。

嫌な予感しかしない。ポケットに手を入れたくない。だって、何の感触もないのだもの。いや、足の感覚がおかしくなってるだけかもしれない。主人公はぐいと左ポケットに手を入れる。……ない。ない。何も入っていない。次いで、右。ない。何も入っていない。へへへ。へへへ。スマホ、財布、現金。へへへ。へへへ。

なくなっちゃった(テヘペロ)。

つづく
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