肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな

イエス・キリスト

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覚えておられる方もいるだろうが、1991年の今ごろ、東京で世界陸上が開かれていた。家族はみんな、カールルイスを見るといって(今はなき)国立競技場に出かけていった。このときカール・ルイスは100メートルの当時の世界新記録を樹立し、種目は違うがそのカール・ルイスを破ってつくられたマイク・パウエルの走り幅跳びの世界新記録はいまもって破られていない。列島は即席の陸上ブームに沸いていた。なぜおれがそんな大イベントに参加しなかったかというと、恋をしていたからだった。

当時、ほとんどのクラスメイトはその女子に恋をしていた。当時の親友もその子のことが好きだった。親友と、おれと、その女の子と、その女の子の親友の4人は、その日、共同で夏休みの宿題(自由研究)をするという名目で会っていたのだった。

おれと親友はリアルな銃が見たかった。ふたりの女子は銃には興味がなかったが、宿題を1日で消化することには興味があったのだろう。そこで一挙両得(どころか3得も4得も)をはかるべく、警察官に話を聴きに行くことにした。派出所のドアはおれが開けた。不安神経症の疑いがあるくせに、わけのわからない行動力だけはあった。
「はじめまして。~小学校5年~組の寿と申します。今日は職業研究というテーマでいくつか質問をしたいのですが、かまいませんか?」
警察官は終始ご機嫌で、時に褒めてくれた。しかしそういう空気になればなるほど、銃を見せてくれ、とは言い出せず、結局、職業についての質問に終始するという、夏休みの宿題としては満点でも、少年の心にとっては零点の結果になってしまった(たとえ言っていたとしても、見せてくれたはずがないけど)。

ともあれ、この共同研究はプレミアムな利権だった。誰もがうらやむ既得権益だった。しかしクラスの男子が思い焦がれる女子が好きなのはおれの親友だった。それは何となく感じていた。それでもワンチャンはあるはず。おれたち4人は派出所でのインタビューを終え、公園でワキャキャした。公園の水飲み場の蛇口を目いっぱいひねったりなんかして、4人の体はびしょびしょになった。虎視眈々とワンチャンを狙うはずだったおれは、そのワキャキャで満足してしまった。ダサ、と言うなかれ。そこは小学五年生が望みうる最高到達地点だった。その水しぶきの勢いは、ほとんど世界新記録だった。

同じ女性を好きになった親友とは、小学6年生の3学期を境に疎遠になってしまった。どういう理由があったかは覚えていない。なぜかクラスの空気が彼を遠ざけたのだった。今になってみれば、クラスの男子の嫉妬がその遠因だったのでは、と思う。しかしどんな原因があったにしろ、彼を遠ざけた事実は変わらない。またぞろ、この身を縛る呪いが刻まれた。

卒業式が終わり、男3女3くらいでディズニーランドに行った。そこにかつての親友はいなかったが、その子は笑っていた。こんな幸せがあっていいのか、と思った。しかしこの恋は静かに終わる。別々の中学に通うことになったからである。

つづく
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夏休みの宿題2016