みな知ってると思ってた、
だけどもそれはうそでした。

空は青いと知ってます、
雪は白いと知ってます。

みんな見てます、知ってます、
けれどもそれもうそかしら。

金子みすゞ「海とかもめ」より

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slot-story chapter4 1/2 A full moon 

月と小鳥と


不定期連載



「続(続続)満月」

 母が死んだ。

 物語の中の悪いやつが死んだと同時に神格化されるような不快感があった。どんなことをしても死んだら許されるのか? だったら死んだほうがいいじゃん。ずるいじゃん。だけどその奥にどこかほっとしている自分もあった。やっと許せるのだ。忘れられるのだ。めでたしめでたし。というような。そんな自分が許せなかった。昔はよかった。今は最悪だ、と言うおじさんのようで。汚らわしいような気がして。

 気づくとベットの上で、傍(かたわ)らには小島さんがいた。過呼吸。……もうしないと思ってたのに。
「なあ、りこ」と小島さんは言った。その呼びかけに強烈な違和感があった。小島さんはわたしのことを「ねえ」とか「なあ」とか「おい」としか呼んだことがなかった。
「何ですか」と返す。
「りこは何かやりたいことないの?」
「やりたいこと?」
「何かしたい仕事だとか、大学行きたいとか、夢とか」
「……夢?」わたしは天井を見つめたまま言った。「小島さんは小さい頃の夢叶ったんですよね。じゃあ何で今そんな顔してるんですか?」
 予想通り、小島さんは黙ってしまった。
 わたしの感情の中心には、サディスティックな何かが居座っていた。小島さんが嫌がること以外のことを口にしたくなかった。
「まりちゃんはあなたの肩書きに魅力を感じただけで、あなたの内面を支えるだとか、夢を応援するみたいな気持ちはなかった」
「……」
「小島さんはあの人に何を期待したんですか? 内助の功? 幸せな家庭?」わたしは首を振った。「まりちゃんにそんな感覚はありません。目の前に欲しいものがあったら手を伸ばす。手だけじゃない。何でもする。どんな言葉だって使う。どんな卑猥(ひわい)なことも、どんな常識的なことも、嘘も理想論も何だって」
「りこ。死んだ人を悪く言ったらダメだよ」
「どうしてですか?」
「どうしてって……」
「きちんと言えないならそれはただの願望じゃないですか?」
「……りこ?」
「小島さん」
「はい」
「小島さんは何か勘違いしてませんか? 私はあの人の娘なんですよ」

       ◆

 これが血? DNA? その自己複製機能は性格や感情も受け継ぐのだろうか? そうだ。たぶんそうだ。これが絆だ、繋がりなんだ。からみつくこと。複雑に入り組んでいること。心にまとわりついて離れないこと。三島由紀夫の文章にでてくる「纏綿(てんめん)」だ。そうだ。oh shit.こんな汚い言葉だって今のわたしは知っている。神様。わたしは悪ですか? どこに正義の人はいますか?

       ◆

 外に出ると月があった。白く光って浮かんでいた。腹が立った。どうしてあんなに完璧な円形なんだろう? あの衛星はわたしたちの不完全さを照らすために地球の回りを回っているのだ。……どうしてわたしは怒っているのだろう? 怒りはわたしの中にあったものですか、それとも外からやって来たものですか?

 首を振った。頭上のあの光は自前の光ではない。太陽の光を反射してるだけだ。月はこれまで何人の人生を見てきたのだろう? 年年歳歳人不同。そっか。そうだね。人間は死んだらアガリなんだ。もしかしたらそれは希望かもしれない。けれど希望と絶望はほとんど同じものだ。

つづく
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