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リバ「おい。わしらの出番少なくないか?」
牙「しゃあないやろ」
リバ「張り切って損したわ」
牙「なあ、こんなことゆうていいかわからんけど」
リバ「ん?」
牙「……リーダーが生きとったってことは、おまえも生きてるってことちゃう?」
リバ「それマ?」
「マ」



マ 
slot-story chapter2 ♯17
 


 タローズの面々に別れを告げた後、牙リバコンビの運転で東京を目指すことになった。

「アニキィ、元気でしたか?」と牙大王。

「元気じゃない」

「アニキィ、お腹すかないですか?」とデビルリバース。

「全然すいてない」

 この感じが都内まで続くと思うとうんざりした。牙とリバによる護衛。護衛というよりも、監視か。

「いつまでに東京に来いって言われてるの?」

「できれば今日か、最低でも明日中には」運転席の牙が答えた。

「アニキィもあれっすか、おれらの仲間になるってことですか?」

 デビルの問いかけに「ならねえよ」と即答。 

「あの……」牙大王はおずおずと言った。「アニキィ、梅さんは生きてると思いますか?」

「わからん」と返答。「でも、どこかで生きてると思うよ」

「ほんとっすか?」

「たぶんね」
 りんぼさんがこの期に及んで約束を破るとは考えにくかった。が、それ以上は僕の領分を超えていた。僕にできることはした。後は流れに乗って進むだけだ。


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 名神高速をひた走る白いオデッセイは大阪を抜け、京都に入った。京都を抜け、滋賀に入った。この道はどこに続いているんだろうか?

 ……アメリカ、か。海外は小さい頃家族で行ったハワイ以来だった。英語は中学生レベル。文法はできてもたぶん喋れない。正直、不安しかなかった。

 足元のバッグからノートを取り出した。

スロット生活者 山村崇
 

 ふと、思う。これは遺書なんだな、と。太郎はアメリカに行くと言って殺された。僕も同じ運命を辿るのだろうか? ただ、僕の体はりんぼさんに属するのであって、組織に所属するわけではない。そんな約束はかわしていない。僕は個人として生き、個人として死にたい。それは僕が持つ唯一の権利なのだ。誰に何を言われてもかまわない。神でも悪魔でも自然でもなく、他者とのかかわり方を決めるのは俺だ。その権利だけは誰にも渡さない。

「……なあ、ちょっと次の出口で降りて欲しいんだけど」

「どこ行くんすか?」と牙が言う。

「パチ屋」

「え?」

「甲賀でバジリスクを打てると思ったらワクワクしない?」

「……え?」


 ふたりを残し、街道沿いの巨大なホールに入っていく。日本中どこでもそうだが、パチ屋の建物の立派さは、葬儀場か宗教施設レベルである。この業界に対して思うところはたくさんある。巨大な灰色の領域、正直、誇るべき文化ではない。美点なんてひとつもないのではないか、とも思う。ただ、幸せそうな顔でタバコを吸いながらハンドルを握るおじいちゃん。嬉しそうな顔でGOGO!ランプを見つめるおばあちゃん。演出に煽られ盛大にハズレて台を殴るアンちゃん。打たずに彼氏の隣の台に座ってタバコを吹かすネエちゃん。暗い場所でこっそり特殊景品を現金と交換するプレイヤーたち。それが中毒からのものであったとしても、これはこれでひとつの平和の象徴なのだ。そう、パチ屋は日本が戦後七十年にわたって育んできた余剰(よじょう)の産物なのだ。彼らの落とすお金に依存し生きてきた僕が言えた言葉ではないかもしれないが、そう思う。この国が再び戦火にまみれるとき、パチ屋が健全に営業を続けることなんてできっこない。

 

 僕はこの十数年のパチ屋生活の中で、台の上に置かれた長財布を盗んでいく輩を見たことが一度もない。台の上に置き忘れた財布を見たことは数百回あるにもかかわらず、だ。 たまたま僕のいたホールのみの現象なのかもしれない。それならそれで僕は幸運だったのだな、と思う。僕がお金に対してそんなに執着がないのは、たぶんそれを必要としたことが少ないからだ。宝くじで数億円当たったとしても、欲しいものがないのだ。いつだったか、あるスロプロが「もっと金が欲しいんです」とせつせつと語っていたことがあった。そういうものが僕にはない。

「でも、冒険は好きだよね」りんぼさんはそう言った。

「……はい?」そのときの僕はそう返した。
「冒険、挑戦、自分の存在を、肉体を使って何かを試みること。君はそういうことが好きなはずだ」

 バジ絆のシマでBC5スルーを見つけ、着席。交換率はわからないが、6枚以下ということはないだろう。僕はコインサンドに一万円を入れ、打ち始めた。……これが宝探しと言われれば、そうかもしれない。

 

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 僕が育った土地には虫取りスポットなんてほとんどなかった。が、僕は近所の誰よりも虫を見つけることができた。どうしてか、僕には虫たちが隠れ潜む場所がわかった。おまえすごいな、とうらやましがられたこともある。が、幸運ばかりではなかった。このよく見える目は不幸も運んできた。他人が隠していることや隠したいことが目に飛び込んでくるのだ。僕はそのことで、他人を傷つけ、自分も傷つけてきた。僕はその理由がずっとわからなかった。今やっとわかった。

 この目こそが僕の個性だったのだ。強すぎる個性。優位性。バスケ部のやつらが恐れたのも当然なのかもしれない。太郎との出会い。小僧との出会い。りんぼさんとの交渉。これからの僕に何が起こるかなんてわからない。でも、少なくとも僕にはこの目がある。宝探しは宝を得ることよりも、探すことが楽しいのだ。
 甲賀弦之介の地元、甲賀市で打つバジ絆のモードはよさそうだった。小役を引いていないのに屋敷に移行。左手でレバーを叩くと、「押せ!」という演出が発生。右手でボタンを押すと、赤七が飛び出てきた。

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