マ 
slot-story chapter2 ♯4


「なあ、こんなやつ車の後部座席に乗せて、職質とか受けたら一発でアウトちゃう」

「問題ない」梅崎は言い切った。

「んがんがんがんがんがんが」先ほど飲まされた睡眠導入剤のせいで朦朧としているが、それでもサカキバラは何かを呟き続けていた。サカキバラの体はペルシャ絨毯で簀(す)巻き状態であり、さらに4組のペルシャ絨毯で後部座席が埋め尽くされているため、ぱっと見はペルシャ絨毯の行商くらいにしか見えない。それが怪しいと言えば怪しいが、事故にでも巻き込まれない限りは問題ない。梅崎はそう判断した。黒いデミオが目的地に着いたのは、深夜二時を回った頃だった。


「なあ、こういうとこって監視カメラあるんちゃうの?」

「大丈夫だ」
「しっかし重いわあ」太郎が嘆く。

「ここだ」梅崎は言う。
「マジ?」
 ふたりがサカキバラを支えていた手を離すと、サカキバラの体は一瞬宙を浮き、そのまま地面にたたきつけられた。 
 

「……ホンマに薄気味悪い森やな。ほんで、どうすんの?」梅崎に言われた通り、ひそひそ声で太郎は言った。

「何もしない。これはあいつにとっての試練だ」

「なあ」梅崎の耳元で太郎は言った。「タバコ吸ってもいい?」

 梅崎は首を振った。しゃあないな。ほな何しよ。むっちゃヒマやんけ。つうかこいつ何なん。おれにまで罰を与えて何がしたいん? 太郎は段々腹が立ってきた。が、腕力では梅崎には敵わない。そこで太郎は自分の顔面にライトを当てて変な顔をした。山村崇ですら苦笑せざるを得なかったとっておきの変顔だった。せめても反撃だったが、梅崎には何の効果もなかった。夜の森はたくさんの気配に満ちていた。……寒、と太郎は思う。ペルシャ絨毯に包まれているとはいえ、サカキバラも震えていた。遠くからライトを当ててみる。ん? あいつ、漏らしとんちゃう。

「あいつ、漏らしとんちゃう」太郎は思ったことをそのまま口に出した。

「だから?」と梅崎は言った。

「……」

 梅、こいつは友だちできへんやろな、と太郎は思った。


 ペルシャ絨毯の中のサカキバラは動き出すことに決めたようだった。もぞもぞと森を這っていく。が、目は見えず、声も出せず、耳から入ってくる音も不明瞭だった。サカキバラは耳を地面に押し当てて、耳栓を取ろうとした。耳栓を取ったからといって事態が好転するとは限らなかったが、何かをせずにはいられなかったのだろう。が、その試みはうまくいかなかったようだ。サカキバラはあきらめ、再びもぞもぞ這っていく。
 

 少し離れた位置で様子を見ている太郎は不快感と戦っていた。これ、何の意味があるん? 痛めつけるんやったら直接やったらええやん。暗いわあ。根暗やわあ。無意識にタバコをくわえていて、横から伸びてきた手にもぎとられた。怖い顔をして梅崎が睨んでいた。
わあったって」と太郎は小さな声で言った。
「……」 

 そのときだった。

 ……何かが光った、と思ったときには遅かった。強烈な光とともに、何かが暗い森の内部で炸裂した。眠りや深夜の生命活動を妨げられた森の生物たちがいっせいに行動を開始した。かろうじて梅崎は目を伏せることができたが、太郎はその光を直視してしまった。それはただの閃光弾ではなかった。音響閃光弾。軍がテロリストを鎮圧するときに使うような兵器だった。梅崎と太郎の体は数秒間、完全に麻痺していた。感覚が戻ったときには、地を這っていたサカキバラリクの姿は見当たらなかった。やられた、と梅崎は思った。

「おい、何やねんこれ。耳聞こえんし、目見えん」

 太郎が何かを言っているが、梅崎の耳には届かなかった。皮肉なものだな、と梅崎は思う。サカキバラの目と耳と口をふさいだおれが、同じことをされるとは。

 梅崎の前に誰かがいた。闇に溶け込む黒い服を着て、スターライトスコープのようなものを装着して。勝ち目は少ない、と梅崎は思う。が、ただでくれてやる命はない。こうなってしまっては太郎をかばう余裕はない。梅崎は覚悟を決めて男に向き合った。


       777


 太郎はパニックと戦っていた。いったい何が起きた? おれは今何をしていた? サカキバラリク、有名人や、そうやろ、有名人やわ、その有名人の家を張って、部屋に侵入して、ラチって、森ん中までやってきて、ただ待って、ほんで何かが爆発した、何なんこれ、どんな状態やねん? ハメられたんか? 梅崎に? でも何のために? それともおれたちは攻撃されたのか? 誰に? サカキバラには援軍がいた?
 

「おまえはすぐヒキとか言うけどさ、その力を自由に使えるわけじゃないだろ? 自由自在に使えない力のことを考えてもしょうがない。それはただの甘えだ。その時間は無駄だ。おまえが自由に使える力のことを考えるべきだ」
 

 ふいにかつての相棒の言葉が頭を占有した。おれが自由に使える力……。そして太郎は考えるのをやめた。

にほんブログ村 スロットブログへ

つづき読みてえ、と思ったら押したってちょ。


♯5へGO!






小説のおともに

牙リバコンビの登場人物紹介1「師匠、小僧、たけさん、越智さん、りんぼさん、梅さん、会長」

牙リバコンビの登場人物紹介2「太郎、桜井時生、榊原六、高崎、トモさん、牙、リバ」

牙リバコンビの登場人物紹介3「チーフ、タローズ」

牙リバコンビの登場人物紹介4「ヒラマサ、エリ、マリリンさん、沙耶ちゃん」

牙リバコンビの登場人物紹介5「佐和、サセさん、三木、山口、竹中」