マ 
slot-story chapter2 ♯3 



 梅崎は肉を食べることができない。だから吉野家に来たにも関わらず、お新香、味噌汁と卵でご飯を食べている。そんな梅崎の横には2杯目の牛丼をかきこむ太郎の姿があった。梅崎は思う。

 こいつはマジでいったい何なんだ?

 不可解だった。まだ組織に属して数ヶ月しか経っていないというが、桜井班長の温情なのだろうか? ……が、どんな理由があるにせよ、おれには関係ない。わからないことを考えている時間なんてない。梅崎は太郎を残して会計を済まし、外に出た。昨夜借りた黒いデミオに戻り、太郎の到着を待って文京区春日にある組織の別の事務所に向かうことにした。
 

「おう。松太郎」事務所で待っていた高崎が言った。

「ういっす。高崎さん」

「梅崎くん。久しぶりだね」梅崎に対しては若干丁寧に高崎は言う。「ええと、道具はそこに出してあるから」

「あざますう」太郎が言い、梅崎は「どうも」と言って頭を下げた。

「ふたりは飯は?」

「もう食いましたけど、食えるっちゃあ食えますねえ」太郎はなぜか偉そうに言った。

「おれまだなんだ。つきあってくれるか?」

「いっすよ」太郎は快諾した。

「……」
 三人は近くにあるファミリーレストランに向かった。


       777


「何食う?」高崎が言い、太郎はトマトソースのスパゲティを頼んだ。阿呆かこいつは、と思いながらも、梅崎はドリンクバーからカフェラテを持ってきてゆっくりと飲んだ。

「松太郎は東京久々なんじゃない?」高崎は言う。

「そっすねえ。でもおれ東京嫌いなんで、もう来なくてもいいくらいっすけど」

 何という失礼なものの言い方だ、と梅崎は思う。

「梅崎くんの出身はどこ?」と高崎は言う。

「長崎です」

「へえ。僕は栃木なんだけどね」そう言いながら高崎はハンバーグステーキを口に運んだ。「知らないかもしれないけど、栃木と群馬ってライバル関係にあるからね。僕の苗字高崎じゃない? 高崎って群馬の玄関口みたいな市だからさ、裏切り者とか言われちゃうんだよね。面白いよね」

 何が面白いのかさっぱりわからなかったが、梅崎は「そうですか」と言った。

「高崎さん、それ、何がおもろいんすか」と言って太郎は笑った。

「え、ライバルの県があるって、地方あるあるじゃない? 長崎はどこかに、たとえば熊本とか佐賀とかに敵対心みたいなのないの?」

「ないです」と梅崎は言った。そんなことは考えたこともなかった。

「おれ昔サーフィンしとってんけど、湘南より九十九里のほうが好きやったなあ。そんな感じすか?」太郎はフォークでスパゲティをクルクルと巻きつけながら言った。

「いや、東京23区は特例。チョイスできる時点で違う」

「わけわからん」と太郎は言った。「東京嫌いや言うてるのに」

「東京23区内に育って東京のことが嫌いな人間と、地方に住んで東京のことが苦手なのは本質的に違うってことだ」


 栃木生まれの高崎と別れた後、ふたりは首都高速湾岸線に乗って千鳥町で下道に降り、イケアでちょっとした家具と布団を買い、新宿の事務所に戻った後、夜に備えて仮眠を取った。

「なあ、後はおれひとりでやるからおまえはここで寝てろよ」起き抜けの梅崎はそう言った。

「嫌や」太郎は首を振る。

「じゃあ頼むから、邪魔だけはしないでくれ」

「邪魔なんてせえへんって」

「服を着たら行くぞ」

「ちょ待って、風呂入らせて」

「……」


       777


 昨日見た限りでは、サカキバラのアパートに監視カメラはなかった。オートロックはあるが、裏口を乗り越えれば簡単に侵入できそうだった。奥まった場所なので人通りも少ない。強行突破というのが梅崎の作戦だった。

「おい」という太郎の声を無視し、梅崎は裏口を乗り越え、そのまま階段を駆け上がった。高崎に用意してもらったピッキングのための道具を使い、瞬く間にドアを開けた。用意してもらった金属用のカッターは必要なかった。梅崎は目的地まで最短距離を進んだ。

 サカキバラは素っ裸で座禅を組んでいるところだった。こんな時間になぜ? という疑問を感じることもなく、梅崎は高崎が用意してくれたスタンガンをサカキバラの腹部に押し当てた。スタンガンごときでは人間は失神しない。が、失神はせずとも体の自由はしばらく効かなくなる。数十秒あれば、梅崎には充分だった。

「君達は誰だ。そしてどんな目的でこんなことをしている? という質問をしたいのだが、よろしいかな」芋虫かアザラシのような姿のサカキバラはそう言った。

 絶対に口を利くな、と釘を刺されていた太郎は、喋りたくてうずうずしていたが、黙っていた。
 

 突然、サカキバラは発狂した人のように呻き声を漏らし始めた。梅崎はペンチを手にし、身動きの取れないサカキバラの左足の小指の爪を剥いだ。

「ん」という短い呻き声をサカキバラは発した。しかしその後で、プロレスラーが効いてないことをアピールするみたいに首を振った。「ふむ。爪を剥がされるとはこういう感覚なのだな」サカキバラは言った。「小指でこれなのだから、親指になると思うと身震いする。ふふふふふ。私はね、私に存在する感情のすべてに興味がある。死すら興味がある。でも、帰ってこれなくなるのはごめんだ。それだけは気をつけたまえ。さあ、君がどう私を攻めるのか。魅せてもらおうか。君は主導する。私は受動する。セックスだ。しかしこの場における主体は私だ。さあ、私を満足させたまえ。さ、さあ、さあ、来たまえ」

「なあ、おれこいつ嫌やねんけど」太郎は言った。「嫌悪感しかないねんけど」

「黙れ」と言い、梅崎は冷静な表情で、サカキバラの口に何かの錠剤を放り込み、ガムテープでふさいだ。「おまえの口にも貼ってやろうか」

「嫌や」

「んがんがんがんがんがんがんが」

 何かを言っているが、サカキバラの訴えはもはや届かない。次に梅崎はサカキバラの目をテープで塞ぎ、耳に耳栓を挿入した。

にほんブログ村 スロットブログへ

つづき読みてえ、と思ったら押したってちょ。     



♯4へGO!







小説のおともに

牙リバコンビの登場人物紹介1「師匠、小僧、たけさん、越智さん、りんぼさん、梅さん、会長」

牙リバコンビの登場人物紹介2「太郎、桜井時生、榊原六、高崎、トモさん、牙、リバ」

牙リバコンビの登場人物紹介3「チーフ、タローズ」

牙リバコンビの登場人物紹介4「ヒラマサ、エリ、マリリンさん、沙耶ちゃん」

牙リバコンビの登場人物紹介5「佐和、サセさん、三木、山口、竹中」