何とかなる? 何とかする、だろ?


永里蓮
KIMG5822
xyz♯90
第三章「永里蓮、絶望の淵で」


 おれは1982年の春に生まれた。世間を震撼させたLOR事件の犯人と同い年だ。危険な世代と騒がれた世代。アホやん、といつも思う。頭が悪いから世代なんて言葉でくくろうとするのだろう。おれの同い年が百数十万人いたとして、それをひとくくりになんてできるはずないだろ。レッテル、カテゴライズ、精神が老化すると受け入れやすい耳に優しい言葉には気をつけなければいけない。安心と引き換えに、それらは肝心なものを隠してしまう。おれらはひとりひとり、違う。同じようで違うのだ。

 同じなのは、共有しているということ。奪い合っているということ。空気を、水を、大地を、食料を。ひとつの世界。たとえばおれが消えてなくなったとしても、おれを構成していたものはどこかに残る。大気に溶けて、水になって、氷になって。すべては循環していく。ぐるぐるぐるぐる回っている。消えてなくなりはしない。自分というものがなくなるだけだ。それはさびしいけど、さびしいと思う気持ちはどこかに残るんだろう。変なもん残しちゃってごめん。

       Φ Φ Φ

 おれはカイザー野瀬とかいう巨大な男に一発かました。が、筋肉の上の分厚い脂肪にはばまれて、ダメージは与えられなかった。無理。どうすっかな。とりあえず距離を取り、ローキックを中心に攻めていく。
 プロレスラーは「ふおおおおおお」と吼えた。とたんにカイザーコールが巻き起こる。
 パフォーマンスだ、とわかっていても、威圧感があった。何がカイザー野瀬だ。ユージュアルサスペクツかよ。クソ。その太い足は、何度蹴りを入れても揺らがなかった。カイザーは蹴られながらもじりじりと間合いを詰めてくる。おれはローキックで間合いを取ろうとする。カイザーはじりじり間合いを詰めてくる。圧倒的に不利な消耗戦の末、おれは掴まれてしまった。
 カイザーはアホみたいに強い力でおれを引き寄せると、鯖折り的に抱きしめた。いってえ。それからまるで人形を放り投げるようにおれを放り投げた。板張りのステージの衝撃はけっこうなものだった。観客が沸いていた。立ち上がり、さっきと同じ構図。さて、どうすんべ。

       Φ Φ Φ

 おれは上手(かみて)の袖のところに置いてあったギターを手にし、それでカイザーを殴った。と同時にネックがへし折れた。罵詈雑言が飛ぶ。カイザーは「もっと来いや」というポーズで観客を煽り立てる。クソ。楽器ではなくなってしまったギターを放り、カイザーの懐に入ってアッパーを打った。当たった。が、カイザーの首はアホみたいに太く、ビクともしなかった。カイザーはプロレスさながらに緩慢な動きでおれを捕まえようとする。おれはそれをかわす。観客が沸く。こいつらは最終的な結末を知っている。おれの敗北を確信した観客はカイザーコールをはじめる。カイザーは腕を振り上げコールを一身に浴びている。恍惚の表情。気色の悪い。しゃあない。おれはカイザーの懐に飛び込んだ。カイザーはプロレスラーの矜持(きょうじ)なのか、おれの攻撃を全部受けるつもりらしい。殴った。殴った。蹴った。蹴った。殴った。殴った。おれの攻撃をすべて受けた後、カイザーは笑った。観客のボルテージは最高潮。カイザーはおれの腕を掴むとその丸太のような腕でおれの首を絞めようとした。ちぇ。

       Φ Φ Φ

 カイザーが派手な音を立てて倒れると、観客は静まり返った。おれは下手(しもて)にはけていた司会からマイクをひったくって言った。「おれらの勝ちだ。マリオ、おまえ引退な」
「救急車ー」カイザーは首元の出血を自分で押さえながら喚いている。
 そう、おれは暗器を使った。そもそもガキのケンカに金をもらってシャシャり出てくるプロのレスラーが悪いのだ。
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