狙いが外れたとき。思い通りにいかないとき。ありえないことが起きたとき。パチ屋で得た経験を生かすとき。


永里蓮
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xyz♯88
第三章「永里蓮、絶望の淵で」


 水銀灯に照らされた中学校の校庭で、梅崎と対峙している。
「なあ、2mの人間とやって勝つにはどうしたらいいと思う?」そんなことを聞いてみる。
「2mの人間と言っても体重200kgと体重70kgじゃ全然違う。仮定は意味ない」梅崎はそっけなくそう返す。
「じゃあ、プロレスラーとタイマン張るとして、どうやって勝つ?」
「銃で一発」
 ……おれの中からは出てこない答えだった。おれはルールの中であれこれ考えるのが好きだった。だから身長、体重、リーチ、敏捷性、という属人的な要素から戦略を組み立てようとする。それは何というか、ゲームなのだ。が、梅崎は違う。目的があり、ただ最短距離を進むだけだ。光みたいなものだ。つまらん人生やな、と関西弁で思う。紆余曲折こそが人生やん。ギャンブルが楽しいのは自分の死を天秤に載せるスリルである。いつもいつも勝つ勝負なんて面白くもなんともない。だからかな。最近、梅崎にケンカを売るのが楽しくてしょうがない。

 梅崎の間合いでは梅崎には勝てない。梅崎は予想をしない。ただ状況に適応するだけだ。後出しジャンケン。後の先。正直、かめはめ波を出すくらいしないと勝てる気がしない。気配を消そうとすると消そうとする気配を察知される。梅崎は察知する。ならば殺気だけ残して別のことをする。コウ先生の言う分離。梅崎に近づかない限り、梅崎は近寄ってこない。勝負にならない。勝負にならないということは、勝ちも負けもない。その気づきは発見だった。
「おまえに負けない方法がわかった」おれは言った。
「ああそう」
「おまえと戦わなければいい」
「で?」
「以上」
 梅崎が珍しく、おれの間合いに入ってきた。手を伸ばすと梅崎の顔面に当たった。初めての感触だった。しかし梅崎は止まらなかった。そういえば、梅崎と初めて会ったとき、こいつから攻撃を仕掛けてきた。そうだった。今はどうか知らないが、少なくともあのときの梅崎はおれに興味があったのだ。意識を失いながらも、おれは笑っていた。何かが見えた気がしたのだ。

       Φ Φ Φ

「わかった」と言っておれは起き上がった。
「何が?」梅崎は言う。
「先手必勝って言うだろ。逆に言えば先手をミスったら必ず負ける。おまえは強い。でもおまえでもおれに攻撃をしかけざるをえないときがある。そのときに何か必殺技があればおまえに勝てる」
「……必殺技って?」
「たとえばからくり屋敷みたいなとこに住んでて、おまえが侵入してきたら家が爆発するとか」
「おまえも死ぬじゃん」
「うん。でも、おまえには勝てる」
「そこまでして勝って何が得られるの?」
「いや、仮想の中でもおまえに勝つ方法があったことが嬉しい」
「理解できない」と梅崎は言う。
「理解じゃない。感じろ」ブルース・リーみたいなことを言った。「おまえおれに興味あるだろ?」
「興味?」
「おまえは興味のない人間にわざわざ攻撃をくりだしたりしない。おまえは平静を装ってるがそうじゃない。おまえがおれを攻撃したのは好奇心からだ。おまえにもそういう感情があるんだよ。感情があるってことは、それが弱点になるってことだ。梅崎、おれはいつかおまえを倒す」
「……」梅崎は声を出さずに笑っていた。
「おまえでも笑うのな」
「いいよ」梅崎は言った。「いつでもかかってこいよ」
「ああ」
 おれは突っ込んでいって、そして、ばっちり返り討ちにあった。

       Φ Φ Φ

 痛む体を引きずりパチ屋に向かう。高設定を追うことは宝探しに似ている。パチ屋という限定された空間で求めるものを追い求める行為は太古から人類が繰り返してきた何かを彷彿とさせる。おれは生きていて、これから先も生きていくというデモンストレーション。
 突然、スロットを打っていた客のひとりが立ち上がり、大声で喚(わめ)きだした。
「不正だあああああ、不正が発覚したあああああ」
「おれはああああ、ヤクザだああああああ」
 ぶるんぶるんと腕を回しながらおっさんは喚き立てている。
「この店をおおおおお、燃やしてやるうううう」
「わかってんのかあああああ」
 オールバックの店長がやってきて、おっさんの肩に手を回し、どこかに連れて行く。案外素直におっさんは従う。人の嫌悪感のほとんどは無知あるいは嫉妬に由来する。だからその感情を届けようとする場合、嫌悪する相手を上回る悪事という形を取らざるをえない。不毛な感情のスパイラル。純粋さゆえの不純。裏返しの甘え。そしてそれは常に自分の正義の名の下に行われる。感情を唯一絶対のものさしにしてはいけない。5日間の梅崎のレッスンの間、パチ屋で得た金額は-3万円。高設定だからと言っていつも出るとは限らない。それがわかってれば喚き立てることもない。
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