努力は薄い水割りの酔いに似ている

永里蓮
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xyz♯86
永里蓮、絶望の淵で」



 強くなるにはどうしたらいいのだろう? 相手が誰かもわからない。腹も立てていない相手と戦わなければいけない。賞金が出るわけでもない。別に名誉でもない。そのくせ殴られれば痛いし、負けるのは嫌だ。ただ一言。めんどくせえ。……飯でも食うか。松屋に入って牛焼肉定食を食べた。おれこればっかだな、と思う。
 返し忘れていたメールを氷野に返し、水を飲んだ。綾香が生きていたことが今でも信じられない。本当にあいつは生きていたのか? それともおれの幻視か何かだったのだろうか。病気? 考えがまとまらなかった。スロットで食っていけるかもしれないと思ったのは6月29日。おれはこの日を忘れないしようにしよう、と思った。たった三ヶ月前のことだ。本当におれはスロットを打って生きていくのだろうか? 大学に行けるという言葉を聞いたときの綾香のあの嬉しそうな顔。ごちそうさま、と言って外に出た。
 今日勝ったお金を何かに変えたかったのと、何となく読みたくなったので、古本屋でスラムダンク全巻を八千円で買った。31冊を抱えて帰宅。

       Φ Φ Φ

 何で桜木花道は物語の最後に「天才ですから」と言ったのだろう? それを考えているうちに眠ってしまった。朝が来て、外に出た。パチ屋に到着。プレリュードに着席。お金のために打つのか、それとも楽しいから打つのか。おれは何のためにスロットを打っているのか。何を得て、何を失うのか? いつしか思考は消え、スロットに没頭していた。コインとレバーとストップボタンが時間を回す。気づくと1日が過ぎていた。松屋で牛焼肉定食を食べながら、またこれを食べている、と思う。何かに所属する自分をイメージできない。大学で学びたいこともない、欲しいコネクションもない。ほんとめんどくせえな。
 松屋を出ると、見覚えのある男が立っていた。
「何?」おれは言う。
「頼まれて来た」
「何を?」
「おまえを鍛えろって」
「誰に?」
「誰でもいいだろ」
「あのさ」おれは言う。「おれ、おれより偉そうな人間嫌いなんだけど」
「おれは仕事、おまえはただ遊んでるだけ。どっちが偉そうなんだ?」
「おまえだろ。ストーカーくん」
「あ?」
「おまえ、ここ何日かおれのことをつけてただろ?」
「……」
「まあいいや」そう言っておれはおれの世界ランキング一位に向かって突っ込んでいった。

       Φ Φ Φ

 頭の上でピヨピヨ小鳥が飛んでいた。
「おまえさ」梅崎は言う。「一対一じゃ誰にも負けないとか思ってただろ。そんな腕で恥ずかしくねえの?」
「おまえの強さにはカッコよさがねえ」おれは寝転がったまま、強がり100%で言い切った。
「カッコよさ?」
「だっておまえ、殺しちゃうんだろ。だっせえ」
「おまえは殺さないよ」当然だろ、とでも言わんばかりに梅崎は言う。
「殺せや」
「いいか、数日で強くなれる方法なんてない」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「考え方を変えろ」
「は?」
「暗器を持ってきた。当日はそれ使え」
「なあ、おまえ友だちいないだろ? 会話がさっぱりかみ合わねえ」おれはクラクラする頭を振った。「ちょっと酒でも飲まねえ?」
 梅崎は首を振る。「アルコールは摂取しない」
「じゃあ珈琲は?」
 梅崎は首を振る。「夜にカフェインも取らない。というかおまえとおしゃべりをしにきたわけじゃない」
「つまんねえ男だな。その強さは何のためにある?」
「組織のために」梅崎は言う。
「だっせ」おれは悪口を吐き続ける。「おまえには自分ってもんがない。超だせえ」
「……おまえいつまで寝てるんだ?」
 梅崎がそう言った瞬間、おれは梅崎の足を取ろうと手を伸ばした。が、梅崎はひょい、とよける。
「おまえ、組織ってとこの中で一番強いんだろ」照れ隠しにそう言いながら立ち上がる。「桜井さんが言ってたよ」
「いるよ?」梅崎は言った。
「誰?」
「絶対に勝てないって人が3人いる」
「ああそう……」
 おれは後3回変身を残してるけどな、と叫びたかったが、こいつに言っても理解されないだろう、と思ってやめた。
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