俺の言葉、カメハメ波みたいに届けば

永里蓮
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xyz♯85

第三章「永里蓮、絶望の淵で」


 地下の駐車場には黒いセルシオが停まっていた。
「乗って」桜井さんは言った。
「あの」と言って頭を下げた。「色々お世話になりました」
「いいよ。昨日今日と暇だったし」
「すいません」
 車が静かに走り出すと、Buddha Brandの「人間発電所」が流れ出した。
「あの、桜井さんが仲裁してくれた喧嘩あるじゃないですか」
「うん」
「どうして代表者を立ててタイマンって話になったんですか?」
「憎い敵とのケンカってワクワクするじゃん? 野球とかサッカーとかと一緒で」
「いや、おれ、当事者なんで、ワクワクはしないですね」
「ああそう」と言って桜井さんは笑った。
「でも、こっちにはおれを入れても4人しかいない。対してマリオは100人以上。どうしてあいつはそんな五分五分みたいな条件を呑んだんですか?」
「彼が計算高いからじゃない?」桜井さんはハンドルに置いた手でリズムを刻みながら言う。「損得勘定で動く人間は、損をする可能性に耐えられない。汚い手を弄(ろう)する人間には強さがない。正攻法で行くやつとは真っ向勝負をしない。後出しじゃんけんが交渉の基本。りんぼさんって人に教わったんだけどね」
「その人はどういう人ですか?」
「組織を『組織』という名前の組織に統一した人って言えばいいのかな」
「組織?」
「といっても、りんぼさんは田所食品って会社の社長だし、おれも一応、芸能関係のイベント企画会社を持ってるから、表向きなつながりは見えにくいけどね」
「……あの、梅崎って人は?」
「強いだろ」
「はい。彼より強い人間はいるんですか?」
「うーん、一対一じゃ一番かもね」
「そうですか……」
「どうしてオレがこんな突っ込んだ話を君にしてるかわかる?」桜井さんは言う。
 おれは首を振った。
「ま、そのうちわかるさ」
 曲が終わり、一瞬の静寂の後、違う曲が流れ出した。

       Φ Φ Φ

 一般道は空いていた。祖母の家の前までほとんど渋滞なしでたどり着いた。
「あの、色々ありがとうございました。綾香のこと、よろしくお願いします」
「了解。君も色々大変だと思うけど、頑張ってよ」
 黒いセルシオが静かに視界から消えていった。久しぶりにひとりになったような気がした。家に入ってシャワーを浴びた。さて、どうしよう? ……どうしようもこうしようもなかった。外に出た。移り変わっていく季節の只中を歩いた。どこへ? パチ屋へ。

 こっそり入ればわからないんじゃないか、と思いながらパーラーMに入ってみる。足を引きずって歩く店長と目が合ったが、何も言われなかったのでスロットコーナーを回った。この数日の間にワードオブライツとプレリュード2が入っていた。何の機種が消えたのだろう? 思い出せなかった。野鳥の会の面々はいなかった。意を決し、店長に話しかけてみることにした。
「あの」
「ああ、君か。あの連中来なくなったから、いいよ遊んでも」
「新台入ったんですね」
「おれは正直スロットはよくわかんねえんだよ」店長は笑った。「だから適当に選んでんだけどよ。あのワードラってやつは割が高すぎて使えねえけど、化石のやつは遊べる設定入れてっから遊んでけよ」
「はい」
 化石のやつ、ことプレリュード2は2台しかなかった。ということは1/2で設定3か4。たぶん4。パチスロの三要素、絵柄、リール制御、音。プレリュード2はそのすべてに自覚的だった。特にこの7の造詣(ぞうけい)。この歪んだ7(セブン)を揃えたい。揃えさせていただきたい。そう思う形なのだった。おれは現実を忘れ、考えるべきことも忘れ、リール制御の作り出すマジカルなゲーム性を堪能していた。あ、アンモナイト滑ってきたー、とか心の中で叫びながら。

       Φ Φ Φ

「兄貴」という声で我に返った。「全然連絡返してくれないから探しちゃったよ」
「どなた様でしたっけ?」
「倉石から聞いたよ。引き受けてくれるんだって?」
「……わかったからもう喋りかけてくんなよ」
「相手、大学生らしいよ」
「ああそう」
「兄貴はトレーニングとかしないでいいの?」
「うるせえ。煽ってねえでどっか行け」
「いや、心配してんじゃんよ」
「後5日?」
「後6日」ゴリは言う。
「6日で必殺技身につけろって? バカか」
「バカバカ言われすぎて慣れちゃったよ。兄貴、期待してるからな。頑張って」そう言ってゴリはどこかに消えた。
 スロットを打つ手を止め、下皿にあったコインをドル箱に移しジェットカウンターに運んだ。2万ちょい勝ち。全然嬉しくなかった。
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