天国? 地獄? どこまで行ってもイマしかない。好きに呼べばいい。

永里蓮
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xyz♯57

第三章「永里蓮、絶望の淵で」


 新しい朝がやってきた。鏡に映る金髪ピアス野郎の姿にハブラシを落としそうになった。苦笑しつつ、昨日の誓いを思い出す。そう。おれは亀仙流から鶴仙流に転向するみたいに生まれ変わったのだった。……はあ。タバコ吸いたい。吸いたい。吸いたい。はあ。パチ屋行こう。

 そこはまさに地獄だった。あっちを向いてもスパア、こっちを向いてもスパア。隣に座った男の口からもれ出てくる煙。煙。煙。何だこの罰ゲームは。……これだけタバコ臭い場所にいるのだ。もはやタバコを吸っているのと一緒だ。自分をそう慰めようとするのだが、脳がくれくれ言ってくる。クソ。

       Φ Φ Φ

 タバコ吸いたい。タバコ吸いたい。タバコ吸いたい。あれ? 精神と出玉って因果関係があるのか、と思うくらい低空飛行が続いていた。昨日に引き続き、ハナビの設定5を打っていたにもかかわらず。タバコ吸いたい。タバコ吸いたい。タバコ吸いたい。あれ? マジで精神と出玉って因果関係があるのか? ……どうしてこんなに時間が過ぎないのだろう? ガタガタガタガタいってんな、地震かな、と思うとおれの貧乏揺すりだった。まいった。向精神薬の副作用。恒常的に摂取していたニコチンが切れただけでこんな症状。ほんと、まいった。右を向いても喫煙者。左を向いても喫煙者。たぶんこの空間の喫煙率は9割を超えている。この状況でタバコをやめようとしている男、男というか漢、漢というか戦士、戦士は戦死……アカン。立ち上がり、タバコを買いに行こうとする足をいや、イカン、と止める。座る。コインを入れてトントン打つ。鬱。おい、何だよ。思考回路が変な感じになってるやん。お、枠上ドンちゃん。
 説明しよう。ハナビにとってのスイカ、つまり氷は基本、平行にテンパイする。斜めラインが選択されることはゴク、ゴク、稀なのだ。そしてこの出目。左上段BAR、右リール上段氷、2コマ上にドンちゃんという出目は、何を隠そう、斜め氷orボーナスという激熱目なのである。熱く語ってるおれが何を言いたいか? 今、この瞬間がすさまじくアッツイということだ。

 ……

 ……台をぶん殴りたくなる衝動を抑え、すう、はあ、すう、はあ、すう、はあ、と深呼吸した。斜めに揃った氷。ボーナス成立の可能性はない。他者の口から漏れ出る煙を含んだ空気を吸い込み、頬を膨らませて息を吐き出す。人間の吐く息のほとんどは窒素らしい。次いで酸素。二酸化炭素は微量らしい。何の話? どうでもいい。関係ない。関係ない。関係ない。斜めに氷が揃おうとも、過去の現象が未来の出玉に作用することはない。おれの感情が機械割に関与することもない。スロットのメカニズムは完全確率、またの名を独立試行。打て。ただ打て。おまえはただ打てばいいのだ。勝っても負けても関係ない。この台に座ってる時点で期待値があるのだ。後は回すだけ。追え。ただ期待値を追え。
 イライライライライライライライライライライラ……。イライラしたって関係ない。打て。ただ打て。この台を閉店まで打て。おれができるのはそれだけであり、おれがすべきことはそれだけなのだ。打て。ただ打て。

       Φ Φ Φ

 20時を過ぎるまでの現金投資という苦行から解き放たれたハナビは3時間弱で3500枚のコインを吐き出した。裏モノ顔負けの連チャンだった。もうタバコのことを気にする必要はないのだ、という気づきは案外気持ちのよいものだった。特殊景品をお金に換え、松屋で牛焼肉定食を平らげた後、おれは一目散に走って帰った。家に帰って腕立て伏せと腹筋をした。よし。疲れた。寝よう。

 ……全然眠れなかった。タバコを吸う自分の姿にあせって目が覚める。……夢か。再びタバコを吸う自分。……夢か。タバコのフィルターを噛むようにくわえる。義父のオイルライターでしゅぽっと火をつける。煙を口内にためるように吸い、一気に肺まで入れる。清涼感のある煙がノドをとおり肺へ、再び肺からノドを経て口から出て行く。……何してんだよ。おれは禁煙をはじめた。生まれ変わったんだ。タバコなんて吸ってちゃダメだ。……夢か。
 暗闇の中、目を開けて「ああああああ」と言った。
 寝よう。寝よう。寝よう。眠れないので真っ暗な部屋でもう一度腕立て伏せと腹筋をした。よし。疲れた。寝よう。

 ……黄泉の言った言葉がよみがえる。「何かに依存している状態は人間にとってとても不自由だ」
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